第25話 進展
~第24話までのあらすじ~
王那は響たちと一緒に、3次元世界の海へ来た。ヤヌがオーナーだった当時、王那も彼らを助けたいと思っていたことを、響たちは知るのであった。
そして王那はゲーセンに行きたいと言い出し、響たちが昨日行ったゲーセンへ5人で行くのだった。
「ここがゲームセンター...!」
王那の目は輝いていた。初めてきたと言っていたので、そのワクワク感に、響は猛烈に共感した。
冬空に広がる満天の星空のようにキラキラとした4人の目の輝きに負け、響はまた、みんなにお金を配るお兄さんになった。
「これどうやるの~?」
王那が尋ねたので響が答える。
「それはですね、まず...」
「それ私出来るわよ。アームをここに入れて、奥行きはこの辺で...」
2人の間に入ってきたのは、伊奈瀬だった。響は回答を譲り、一歩後ろに下がって静かに見ていた。ただし、響が見ていたのは王那のプレイングではなく、熱心に景品の獲り方を教える伊奈瀬を、だ。
昨日いろいろなテクニックを教えたばかりの人が、今度は教える側としてクレーンゲームを楽しんでいる。響は、わが子が巣立つときの親のような、嬉しいけど少し寂しい感覚を覚えた。自分が育てた子が成長するのは嬉しい限りであるが、成長するとはつまり、1人前に近づくことである。そうなれば教えることもなくなってくる、そんな寂しさが響にはあったのだ。
そして、成長しているのは彼女だけではないようだ。
「ひーくん!200円で獲れた~!」と嬉しそうにぬいぐるみを持って走ってくる永久野。
「私は100円で獲れました!」とお菓子をもって喜んでいる衣央。
「2人ともすごいです!」
響は思わず口にした。
「このぬいぐるみ、景品のタグにかけて取ったんだよ!!ひーくんが教えてくれた通り!」
興奮して喜ぶ2人を見ていた響は、やはり嬉しさのほうが大きいことに気付いた。教え子の成長は、こんなにも嬉しいものなのだ。と考えていた響の背後で...
ゴトン!!
「獲れた...獲れたぞ!響!」
満面の笑みを浮かべた王那が響のほうを見ていた。オトナであり神様であるとはいえ、その笑みは間違いなく、素直に喜ぶ小さな女の子のものだった。
「感謝するぞ、伊奈瀬!」
「王那さんが上手なだけ...だよ」
興奮する王那を見ていた響は、伊奈瀬の変化に気付いた。
(語尾が...タメになってる!)
永久野はとっくに敬語をやめていたが、王那と出会って間もなく無礼を犯してしまった伊奈瀬は、その性格に反して、王那にずっと敬語を使っていた。これがタメになったということは、それだけ仲が深まった、ということだろう。
「さあ伊奈瀬!早く次に行くぞ!また取り方を教えろ!」
「ま、まあいいわよ。次はもっと早くとらせてあげるんだから」
5人がゲーセンから出てきたのは、閉店時間ギリギリだった。とはいっても、王那が満足したからではない。ギリギリに始めると、そのプレーが終わる前に筐体の電源が切れてしまうためだ。王那は「まだやりたい!」と言っていたので、また連れて来ようと考える響であった。ちなみに、王那のことは最初から伊奈瀬がつきっきりで見ていてくれたので、王那もたくさん景品をゲットすることができていた。
「今日は楽しかったぞ、みんな!また遊ぼうな!」
別れ際に王那はそう言った。まるで、これからもずっとこの5人で遊べるかのように。
時間切れが不安な響きを勇気づけ、禁忌を犯すか犯さないか以外の第3の選択があることを暗示するような、王那なりの激励の言葉のようだった。
*人物*
・国見響 :物語の主人公で、県内の高校に通う男子高校生。妹とアパートで2人暮らし。
・国見糸葉 :響の妹。県内の中学校に通う女子中学生。
・王那 :3次元世界の神様。第1話で登場した、謎の少女の正体である。
・神楽美心 :神社に仕える巫女。
・角末伊奈瀬:17歳の女子。入れ替わりにより4次元から転移した。
・永久野あい:17歳の女子。伊奈瀬とは幼馴染。
・科戸衣央 :16歳の女子。いつでもどこでも誰にでも敬語で話し、素直な性格。
・杉野ヤヌ(すぎのやぬ) :響の前にオーナーをしていた、20代前半の男性。口調は軽め。
・福田あいり:バグ調査組織RGBの副リーダー。
・篝茶緒 :バグ調査RGBのサードリーダー。
・中野旗音 :響と同じクラスの女子高校生。成績・人柄ともに良く、男女どちらからも人気が高い。
・仕立ハルヤ:響と同じクラスの男子高校生。響の仲の良い友達である。
*発生したバグ*
・空白の半日
2028年2月28日の昼12:00~夜24:00までの12時間の記憶を持つ者はいない。
・国見糸葉のオトナ化
国見糸葉は身長およそ230cmのオトナになった。
・中野旗音の消失
2028年2月28日を最後に、中野旗音は姿を消した。
・神社の違和感
3次元と4次元をつなげる神社。
・契約成立
4次元の住人は3次元世界において武力での戦闘を起こすことはできず、これに従い決着をつける。
・言語の統一
バグに直接関係しないものはすべて、日本語に統一された。
・2月30日
存在しない日。響とオトナなどのバグに関する人間以外は、その運動を停止する。
・謎のインターホン
自然石の近くに出現したインターホン。響の呼び出しに応答はなかった。
王那は初めての、伊奈瀬たちは2度目のゲーセンを思う存分に楽しんだ。
別れ際に王那が言った言葉は、いずれ迎える未来を見透かしているようだった。
小ネタ)
王那が最初にゲットしたのは、業務用のポテトチップスです!ほかにも伊奈瀬に手伝ってもらい、豪華な椅子にひく用のクッションや、缶ジュースの箱セットなども獲ることができました。