第18話 今日は遊ぶ日(2)
~第17話までのあらすじ~
庭園を満喫した4人は、響が得意とする大きなゲームセンターに向かった。店内のにぎやかな雰囲気、目を輝かせる永久野たちに、響はそれぞれ千円札3枚をわたし、遊ぶ準備が整ったのであった。
一番最初に100円を投入してみたのは、永久野だ。ツチノコみたいなぬいぐるみを見て「かわいい...」の一言。響は思った。
(そんなぬいぐるみを見るあなたがかわいいですよ、永久野さん。)
しかしこの筐体(=ゲーム機)、3本爪設定である。この設定は、数十回プレイしたあと、「そろそろ本気出すか~」と言わんばかりに、ようやく景品を持ち上げる力を出すもので、「確立機」と呼ばれている。
永久野さんは300円分プレイしてみたが、ツチノコは最初の位置とほとんど変わっていない。そして響は思った。永久野さんにかっこいいところを見せたい、と。
そして次に入れた100円で、響は永久野に、ぬいぐるみをプレゼントすることになる。まだパワーがあまりないアームを使って、どのように景品をゲットしたのか。
タグ掛けである。ぬいぐるみについているタグに、落とし口から一番遠い爪を入れ、アームの閉じる動きと上昇する動きで引っ張ってくる技。いわば「確率無視」である。3本爪のゲーム機には、操作用スティックと下降ボタンがついている。下降ボタンの中には、アームの下降を停止できる下降停止の役割も兼ねるものもあり、これが非常に重要なのである。
永久野はツチノコぬいぐるみを胸いっぱいに抱きしめていた。やはり、どっちがぬいぐるみなのか分からないくらい、永久野はかわいいのである。
そんな永久野に響は見惚れていたので、1発で獲物をしとめた響に尊敬のまなざしを向ける伊奈瀬と衣央に、当の本人は気付かなかった。
次に100円を入れてみたのは、衣央である。狙うは今年で10周年を迎える、人気アニメのキャラクターのフィギュアである。景品が入った箱はとても大きく、デカ箱と呼ばれるそれは、まばらな間隔でフィールド内に固定された、複数本の突っ張り棒の上に置かれている。響の十八番、橋渡し設定である。
この設定の難しい所は、デカ箱の場合、その箱の向きによっては、アームが箱の下をとらえきれないことである。衣央もやはり、景品が斜めにはまったような形から抜け出せないようでいる。数回試行錯誤したあと、彼女の目線は響へと向かった。出番である。
そして今回もまた、響はワンチャンスをモノにした。どのようにしたのか。
挿し回しである。デカ箱といえど、箱は箱。パッケージには隙間がある。その隙間に片方のアームを挿し込み、閉じる勢いで景品を投げまわす技。正確なアームコントロールが試されるうえ、100%成功する技ではないが、難易度が高い分、成功したときの気持ち良さは格別である。
景品を受け取った衣央は、先ほどと同じように、響に目を輝かせている。今度はそれに響も気づき、エッヘンというような顔をした。
そして最後は伊奈瀬。彼女が狙っている景品は、カップルがお揃いで使えるような、2つのコップのセット。こちらも同じく橋渡し設定である。ただしこちらは疑似箱設定と呼ばれるもので、ダミーの箱をゲットすることで、欲しい景品と交換できる設定となっている。
こちらもプレイヤーの実力が試される設定であり、響は再び出番を待っていたのだが...
ゴトン!
その音が聞こえてきたのは伊奈瀬の1回目のプレーの直後だった。いったい何が起きたのか。
バランスキャッチ(BC)である。アームの先端についている爪はある程度の幅があり、箱の重心を捕らえることで、そのバランスで持ち上げる技。アームが景品を持ち上げてから離すまでの間に、景品はバランスを崩しアームから落下するが、その落下の仕方によってはそのまま突っ張り棒の間をすり抜け、ゲットすることができるのだ。
「フン!どうよ、私の実力は!」
自信満々な伊奈瀬。橋渡し設定は実力が90%とは言ったが、残りの10%は運。そしてバランスキャッチは、その10%のほうなのだ。
響は当然それに気付いているが、「めっちゃうまいです!」とだけ言っておいた。重心を捉えられたこと自体は彼女の実力だからである。
何はともあれ、みんなほしい景品を手に入れることができたのだ。財布にはまだお金がある。
「まだまだ遊ぶぞ~!」
永久野の言葉は、第2ラウンドの始まりのゴングとなった。
*人物*
・国見響 :物語の主人公で、県内の高校に通う男子高校生。妹とアパートで2人暮らし。
・国見糸葉 :響の妹。県内の中学校に通う女子中学生。
・王那 :3次元世界の神様。第1話で登場した、謎の少女の正体である。
・神楽美心 :神社に仕える巫女。
・角末伊奈瀬:17歳の女子。入れ替わりにより4次元から転移した。
・永久野あい:17歳の女子。伊奈瀬とは幼馴染。
・科戸衣央 :16歳の女子。いつでもどこでも誰にでも敬語で話し、素直な性格。
・杉野ヤヌ(すぎのやぬ) :響の前にオーナーをしていた、20代前半の男性。口調は軽め。
・福田あいり:バグ調査組織RGBの副リーダー。
・篝茶緒 :バグ調査RGBのサードリーダー。
・中野旗音 :響と同じクラスの女子高校生。成績・人柄ともに良く、男女どちらからも人気が高い。
・仕立ハルヤ:響と同じクラスの男子高校生。響の仲の良い友達である。
*発生したバグ*
・空白の半日
2028年2月28日の昼12:00~夜24:00までの12時間の記憶を持つ者はいない。
・国見糸葉のオトナ化
国見糸葉は身長およそ230cmのオトナになった。
・中野旗音の消失
2028年2月28日を最後に、中野旗音は姿を消した。
・神社の違和感
3次元と4次元をつなげる神社。
・契約成立
4次元の住人は3次元世界において武力での戦闘を起こすことはできず、これに従い決着をつける。
・言語の統一
バグに直接関係しないものはすべて、日本語に統一された。
・2月30日
存在しない日。響とオトナなどのバグに関する人間以外は、その運動を停止する。
・謎のインターホン
自然石の近くに出現したインターホン。響の呼び出しに応答はなかった。
庭園をあとにした響たちは、近くの大きなゲームセンターで楽しい時間を過ごしていた。
響は3人に、6年間磨いてきたUFOキャッチャーの実力を披露するのであった。
小ネタ)
キラキラした目で店内をのぞいていた3人も、実はこれが初めてのゲームセンターではない。
第17話で出てきた庭園での会話では、3人は10年以上前の記憶がないと言っていた。
つまり、伊奈瀬たちはゲームセンターに行ったことが無いのではなく、 ...?
伊奈瀬はクレーンゲームで、カップルがお揃いで使えるようなコップのセットを獲得していた。
...誰と使うつもり!?
なお、筆者もクレーンゲームが好きである。兄とよく行く。