第10話 新たな出会い
~第9話までのあらすじ~
響は神楽殿で王那と別れて帰宅するが、糸葉がいるはずの家は真っ暗だった。糸葉からの着信に気付き電話をかけると糸葉とつながったが、彼女はバグ調査組織RGBの福田あいりという人物に連行されたようだった。響は彼女を助けるため、自然石の場所に向かうついでに仲間を集めることにした。
2028年2月30日(—)
寝ぼけているのかと思った。スマホを見ると、今日は2月30日。今年はうるう年だったが、それでも2月29日までのはず。そんなことも起こるのか、このバグは。
寝室のカーテンを開けると、世界が止まっていた。この2日間は非日常の連続であったが、今見えている光景も全く劣らない。道路を走っていた車はその場で止まり、鳥も電線の上で静止している。やはり今日は2月30日。存在しない日なのである。
(オレだけが動けるのは『オーナー』だからだろう。バグ関連でいえば、オトナも動けるのだろうか。それなら予定通り仲間を集められそうだ。おそらく糸葉も問題はないだろう。)
洗顔や朝食をすばやく済ませ、バイクでアパートを出た。あの場所へ行くためだ。夫婦杉と自然石のある場所。響はあの石に触れたことで、この世界を所有するオーナーになったのだ。あの石を訪ねれば、糸葉をオトナから元に戻す方法がわかるかもしれない。
その前に立ち寄ったのは、アパートを出て少し進むと広がっている、河川敷。ここまで来る途中では止まっている人を何人か見かけたが、この河川敷には誰もいない。世界が止まったのはおそらく今日の午前0時。深夜だし、当然といえば当然か。
ここに立ち寄った理由は1つ。人の気配のない静かな河川敷に寝ころび、頭を休ませるためだ。夜はあまり眠れず、頭までバグりそうなのだ。
(はぁ~。きもちいい...)
背の低い草の上に寝ころぶと、自然と目を瞑りたくなる。今日は風もお休みのようだ。
数分のまどろみを断ち切ったのは、誰かの声だった。
「うわああぁぁ!」
声というより悲鳴である。目をあけると、右から左へ夜空に瞬く流れ星...のように人が横切っていった。次の瞬間には「バキーッ!」という破壊音と、「ふぎゃっ」というもはや声でも悲鳴でもない音が聞こえ、顔を左に向けるとその音の犯人がぐで~んと倒れていた。
「あい!だから早く飛びすぎちゃダメって言ったでしょ!」
次は右からの声だ。流れ星の人と同じくらいの若々しい声だ。顔を右に向けた。やはり2人ともオトナである。今日動けるのはオレとオトナだけなのだ。
「キミ、大丈夫?けがはなかった?」
その人と目が合った。心配そうな目を向けてくれているが、何かの破片が飛んできただけだった...まあ、大丈夫だ。
「あ、はい、大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」
「それならよかった...って、キミ!なんで動けるの!?」
その理由なら答えられる。この世界を所有するオーナーだからだ。
「それは...」
!!
———「『オーナー』に関するすべてのことを、人に話してはいけないよ」
王那は言っていた。これは禁忌である、と。これを破れば何が起こるのかは分からない。ただ、あの魅力的な少女の神様との約束を1日も立たずに破るのは、とても良くないことだと直感的に思った。危なかった。
「それは...わかりません」
「へぇ~、わからないのに動けるの。」
彼女はしらばっくれるオレを見て、面白がるような顔でそう言った。そして続けた。
「まあいいよ、私は角末伊奈瀬。で、あっちが永久野あい。」
「よ、よろしくです!」
指さしで紹介された永久野あいはその場で律儀に起立し、深々と頭を下げてこちらに挨拶をしてきた。これまた美少女である。さっきのでかなり服が汚れているが...って、見とれてる場合ではない!これは仲間を作るチャンスなのだ。
「よろしくお願いします。それで、あの...」
さて、なんて言おうか。
妹を一緒に助けに行きましょう!...いや、それではただの自己中男だ。
ちょっとついて来て!...連行か。篝茶緒の顔が浮かぶ。そもそも断られるか。
よし、決めた。
「友達に...なりませんか?」
2人は少し頬を赤らめた。少し間が開いた後、
「あら?もしかして私たちのこと...気になっちゃった?」
と、また面白がるように、伊奈瀬はオレを見下ろしていう。そして続ける。
「ま、いいよ。よろしく」
ほっとした。こいつはただのSな性格だった。そして最大限のニヤ見下ろしとともに言った。
「で、キミの名前は?」
今度はオレが赤面した。自分の名前を教える前に「友達になろー!」だ。そんなことあるか。そしてオレは、小声で名前を言った。永久野さんは「響くん!よろしくね!」と言わんばかりに目を輝かせてうなずき、一方で伊奈瀬のニヤ見下ろしは続いていた。
*人物*
・角末伊奈瀬:17歳の女子。入れ替わりにより4次元から転移した。
・永久野あい:17歳の女子。伊奈瀬とは幼馴染。
・国見響 :物語の主人公で、県内の高校に通う男子高校生。妹とアパートで2人暮らし。
・国見糸葉 :響の妹。県内の中学校に通う女子中学生。
・王那 :3次元世界の神様。第1話で登場した、謎の少女の正体である。
・神楽美心 :神社に仕える巫女。
・福田あいり:バグ調査組織RGBの副リーダー。
・篝茶緒 :バグ調査RGBのサードリーダー。
・中野旗音 :響と同じクラスの女子高校生。成績・人柄ともに良く、男女どちらからも人気が高い。
・仕立ハルヤ:響と同じクラスの男子高校生。響の仲の良い友達である。
*発生したバグ*
・空白の半日
2028年2月28日の昼12:00~夜24:00までの12時間の記憶を持つ者はいない。
・国見糸葉のオトナ化
国見糸葉は身長およそ230cmのオトナになった。
・中野旗音の消失
2028年2月28日を最後に、中野旗音は姿を消した。
・神社の違和感
3次元と4次元をつなげる神社。
・契約成立
4次元の住人は3次元世界において武力での戦闘を起こすことはできず、これに従い決着をつける。
・言語の統一
バグに直接関係しないものはすべて、日本語に統一された。
・2月30日
存在しない日。響とオトナなどのバグに関する人間以外は、その運動を停止する。
自然石へ向かう途中で立ち寄った河川敷。
そこで出会ったのは2人のオトナであった。
小ネタ)
本話で登場した角末伊奈瀬と永久野あい。それぞれアナグラムすると
かくすえいなせ→えすなせいかく→Sな性格
とわのあい→永久の愛
となる。




