バカ、高らかに宣言す
「では、誓いの口づけを」
地球時代の古式ゆかしい結婚儀式の復刻は、ここ数周期のトレンドだ。大仰で形式ばった何の意味があるのかよくわからない結婚の宣誓は金がかかるばかりで、一般では略式の証明書発行がほとんどになっている。
だが『金がかかる』ということに意味を見いだすものは少なからずいるもので、金持ちのアピールやコスモSNSで自己顕示欲を満たすために、一周期の間に何度も華やかな式が挙げられる。
先の例で言えば、今回は前者の方だった。屋外会場を借り切った華やかな結婚式。晴天に恵まれ、豊かな自然を背景にした鮮やかな映像は実に『映える』。出席者にとっては後者の欲求も満たせるWin-Winなイベントだ。
純白の花弁のようなウェディングドレスに身を包んだ少女――年齢よりもかなり幼い外観で、少女と呼んで差し支えない見た目の花嫁は、段取り通りに目を瞑って新郎の口づけを待ちかまえていた。
しかし来るはずの口づけは、いつまでたっても訪れない。
「ちょっと、なにしてるのよ……!」
薄目を開けて見ると、新郎は向き合った姿勢のまま、微動だにしていなかった。背の高い婚約者は間近で見上げていると首が痛くなりそうだ。
「ちゃんと段取り通りにやってよ。皆見てるのよ!?」
今日初めて顔を合わせた新郎は彼女の言葉が聞こえていないのか、軽く顎を上げた姿勢で固まっている。前方に大きく突き出した葉巻型宇宙船みたいな変な髪型から落ちる影のせいで、表情は読みとれない。最初は静かに見守っていた参列者たちも、おかしさに気付いたのか、少しずつ小声でどよめく声が広がり始めている。
望んでのものではないとはいえ、自分の大舞台がメチャクチャにされていくのは耐え難い。怒りのクリムゾンキヤノン(急所蹴り)が装填されようとしたとき、突然花婿が彼女の肩をつかみ、そのままぐいと押しのけた。
「――すまねえ。俺は、まだあんたと結婚できねえ」
時が、止まった。彼女だけでなく参列者までもが凍り付き、死んだような沈黙が式場を支配した。
「……は?」
かろうじてそれだけ絞り出した花嫁から手を離し、ばさりと身を翻す。その一瞬で純白のタキシード服が、革ジャンとジーパンというラフな格好に切り替わる。恐るべき早着替え、ではない。偽装皮膜によってタキシードに見せかけていただけだ。
「何故なら!」
呆気にとられて固まった人々を前に、新郎――だった男はテンション高く天に拳を突き上げる変なポーズを取りながら、
「俺は、宇宙騎士になるんだからな!」
高々と、そう宣言した。
初投稿となります。更新は不定期になると思いますので、ゆるゆるとお待ちいただければ。