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60.滅びの宣告

 トラストの街は想像していたよりも大分近代的だった。コ村のように昔ながらの生活をしていることもなく、街路は整っていて色々な店舗が軒を連ねていてにぎやかだ。かといって電気があるわけではないので生活レベルはまあそれなりだが。


「どうする? どこかに入ってなにか食べるか?

 と言ってもこの街で流通している金を持ってないけどな」


「さっき殺した人たちが戻ってきてるはずだよね。

 その人たちを探して奢ってもらおうよ」


「そううまく行くといいけどなぁ。

 人が集まりそうな場所があると思うから探してみようか。

 冒険者の集まる場所ってことだな」


「わかった、探してみよー

 神殿ってところもあるんだよね?

 そこから行ってみようかな」


 別に初めてのおつかいというわけではないのだが、トコトコ歩く妹の小さな体を見ていると、なんだかバラエティ番組を見ているようで微笑ましい。騒ぎを起こすようでなければ傍観して真琴のしたいようにさせておこう。


 喧騒の中をしばらく歩きながら場所を尋ねつつ進むと、街の中心付近と言われた神殿へと到着した。神殿と言っても石を積み上げた小型のピラミッドのような簡素な建造物だった。それが天神の神殿であることは周囲に集まっている信者らしき群衆を見れば一目でわかる。


 こうして信者を増やすことで神術が使用できるようになった、というかポンコツ神ドーンがそう設定したのだろう。どんな呪文が使えるのかは知らないが、攻撃と回復くらいはあるに違いない。


 だが今考えるべきはそんな単純なことでは無かった。真琴が右手を掲げた瞬間、神殿の周囲に十字架のようなはりつけ台が生み出されたのだ。その数は全部で十、それはプレイヤーの数と同じで嫌な予感しかしない。異様な光景に群集の視線が集まる中、聞きなれた声が響いた。


「さー、全員ここに集まりなさーい。

 自分の一部に引き寄せられちゃうから抵抗はできないよー」


「真琴? これは何をしてるんだ?

 それと自分の一部とかさ、何を言ってるか教えてくれよ」


「この間全員殺した時にね、少しずつ千切っておいたの。

 それを十字架に埋め込んで磁石みたいに引き寄せるってこと。

 ねっ、簡単でしょ?」


「な、なるほどね…… 仕組みはわかったよ……」


 相変わらず魔術は万能すぎて頭が痛くなってくる。だがその効果は絶大で、その言葉に引き寄せられるよう次々にプレイヤーたちがやってきた。その歩みはまるで夢遊病者のようで自らの意思は介在していないかのようである。そしてそのまま引き寄せられるように全員が十字架へ磔となっていった。


「それじゃ信者のみなさん聞いてねー

 あのね、この十人の勇者さんたちが私を倒さないと人間族を全部滅ぼすことにしたの。

 どこに逃げてもわかるんだから面倒をかけちゃだめよ?。

 民の皆さんはこの勇者たちが逃げたりなまけたりしないよう監視してね」


 真琴の発した言葉は、いつの間にか頭上に浮かんでいた謎の物体に備わったスピーカーで街中に流されている。それを聞いた民衆は当然ざわついているが、内容については概ね理解できているように見える。


 もちろん僕もきっちり理解しているが、賛同できるものではなかった。あんなに引っ込み思案で大人しくかわいい妹がどんどんおかしくなっていくのを、ただ眺めていることしかできない自分がもどかしい。だがどうすればいいのか。


「なあ真琴、そんなに嫌われ役になる必要ないだろ。

 コ村へ戻って二人でのんびりと暮らそうよ。

 プレイヤーたちをけしかけるにしても、こんな残酷なやり方は真琴に似合わないと思うんだ」


「お兄ちゃんったら何言ってるの?

 これはゲームなんだよ?

 あの人たちに強くなって貰ってマコたちボスを倒してもらうってよくあるやつね。

 今は弱すぎるしやる気も無さすぎでつまんないでしょ?

 だから制約で無理やりにでも頑張ってもらうってわけ」


「だからってあんな風に磔にするなんてひどすぎるだろ。

 まるで見せしめにしているみたいじゃないか」


「みたいじゃなくてしてるんだよー

 もっともっとやる気出してもらわないと楽しめないからね」


 どう言葉をかけても真琴を止めることは出来ないのだろうか。このままじゃあいつらが言うように真琴は魔王認定されてしまい人間を初めとする天神信仰者の敵となってしまう。勝ち負けはともかく平穏でのんびりした生活とは遠のいてしまいそうだし、下手をすればコ村の住民に被害が出ることも考えられる。


 そうさせないためにできること、それも今すぐ効果のある何かが必要だ。つまりは――


 僕は真琴の背後からその身を抱きしめた。体の自由を奪ったからと言ってすぐに止められるかわからないが、口で言うよりは気持ちが伝わると考えたのだ。


「真琴すまない、僕はおまえを止めたいんだ。

 こんなことしてほしくないんだよ!」


「そうなの? お兄ちゃんも喜んでくれると思ったのに。

 マコはいいことしてるんだよ?

 人間たちは魔人の敵なんだって知ってるでしょ?」


「僕はそのやり方が良くないと言ってるんだ。

 もっとマシな方法があるはずだろ!」


「じゃあその方法を教えてよ。

 そうしたらやめてあげるけど、お兄ちゃんにはそんなアイデアないでしょ?」


「だからそれを一緒に考えよう、まずは村へ戻ってさ。

 勝手にあれこれしないでいうこと聞いてくれよ」


「そうやってマコのこと半人前扱いしてさ。

 ダメってこともないけどたまにはマコの言うこと聞いてくれてもいいじゃん。

 だから今回は好きにするからね、バイバイお兄ちゃん」


 その言葉を聞いた瞬間、真琴を抱きしめていた僕の身体は自由を奪われ引きはがされた。そのまま体中を蔓のようなもので拘束されてしまう。


「ちょっと真琴!? なにをするんだ!?

 離せよ! これを解いてくれ、話し合おうよ」


「話はもうオシマイ、お兄ちゃんにアイデアがあれば聞くけどね。

 だからここでバイバイだよ」


 真琴がそう言ってからもう一度バイバイとつぶやいてから手をかざすと僕は光に包まれていく。目のくらみが引いてから辺りを見渡すと、いつの間にかバイクと共に家の庭に立っていた。まさか僕の元から真琴が去るなんて考えてもいなかった。なぜそうまでして奴らを相手したいのか全く分からず困惑しきりだけど、今わかっていることで解決しなければならないことはただ一つ。


「真琴を止めなければならない!

 まだ幼さの残る大切な妹が、残虐な行動をするのを看過できない」


 街での騒ぎでは世界の中心にあるダンジョンまでくるように言っていた。ということは真琴はそこにいるはずだ。場所はわかっているんだから行くのは簡単だが、問題は真琴を力づくで止められるかどうだ。しかも向こうにはポチもついていってしまった。


 あの魔術のエキスパートたちに僕一人で勝てるのかは怪しいが、それでもやらなきゃならない。その決意が鈍らないうちにと、僕は再び門を開けてバイクにまたがり出発した。


『妹を止めるのは奴らじゃない、僕の役目だ』


 そう強く誓いを立てててはみたものの、今は遠い空を見つめることしかできなかった。


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 お読みいただき誠にありがとうございます。数ある作品の中から拙作をクリックしてくださったこと感謝いたします。少しでも楽しめたと感じていただけたならその旨をお伝えくださいますと嬉しいです。


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