57.使い魔?
バイクの運転にもすっかり慣れて順調に飛ばして言った結果、魔獣がいると言うポイントには半日程度で着いた。その場所は確かに魔獣が出そうな深い森だが、家の裏とは違い小高い丘になっている。
「どうだ真琴、プレイヤーの気配は大分近づいているか?
僕らのほうが移動が早いから大して進んでないかもしれないな」
「そうだね、昨日の位置からほとんど進んでないかな。
馬くらいには乗ってると思ったけど歩いてるのかもしれないなぁ。
なんか考えてるよりもずっとへなちょこなのかも……」
「そんなこと聞いてると、本当にここまで来てくれるか不安になってくるな。
まあ今日はもう夜も近いし、キャンプしながらのんびりするか」
「うん! お兄ちゃんとキャンプは楽しいからね。
でもその前に少しだけ冒険行って来るね。
ちゃんとポチを連れていくから大丈夫だよ」
「あんまり無茶するなよ?
森を全部吹っ飛ばすとか絶対ダメだからな?」
「そんなことしないもーん。
すぐ帰ってくるから大丈夫、ホントにちょっとだけ覗きに行くだけだからね。
ポチ、行くよー」
辺りは大分薄暗くなっているが、普通に考えてこの辺りどころかこの世界で一番強いのは真琴な気もするし問題はないだろう。ポチもついていることだし、地形がわかる心配をする方が現実的と言うものだ。
二人が出かけていくのを見送った後、テントの準備をしたり雰囲気づくりに火を起こして焚火に鍋を掛けて帰りを待つことにした。やっぱりキャンプと言ったら焚火に鍋料理だ。
夏休みには親子で海や山へ出かけて、キャンプをしてバーベキューをしてアウトドアを楽しむ、なんてことはクラスメートから聞かされるだけの想い出だ。僕も真琴も家族でキャンプどころか外食すら経験がない。
特に夏休みのような長期休暇になると、たかが街のラーメン屋と言えど来店客も出前も増えて店が忙しくなるため余計に出かけることは難しくなる。店の手伝いに出前、その合間に真琴の面倒も見なきゃいけなかったし大忙しで大嫌いな期間だった。
だがメリットがなかったわけでもない。大きな声では言えないが、そのおかげで出前用のバイクに乗るのはうまくなったし、最低限の調理は出来るようになった。もちろんラーメンも作れるし餃子も焼けるがそれはどうでもいいことか。
どうでもいいと言えば、魔人にとってなんの必要もない食事の用意は順調で、辺りが暗くなるころには鍋がぐつぐつと煮たって旨そうな匂いが漂ってきた。そしていいタイミングで真琴が帰ってきたのだが――
「ちょっと!? 真琴さ、それは一体なんなんだよ!
恐竜…… ってことはないだろうけど、もしかしてこれ魔獣なのか?」
「そうだよ、大人しい子だったから連れてきたの。
でも頑丈で強そうだからきっと立派に働いてくれるよー。
明日の朝になったらそのプレイヤーって人たちのところへ運ぼうと思ってるの」
「運ぶって? まさか…… このデカブツを!?
いやいやいや、かなり無理があるんじゃないか?」
「大丈夫だよ、浮かべて運ぶからさ。
ここまで来るときもちゃんと言うこと聞いてくれたんだー」
真琴がどういう考えなのかいまいち理解できないが、プレイヤーたちの元へ魔獣を運んでけしかけようとしていることは間違いない。やつらの実力を考えると速攻で全滅しそうだけどそれはそれで構わないだろう。問題があるとすればただ一つ……
翌朝目覚めた時に、キャンプを張っているすぐ脇で巨大な魔獣が寝ていると言うのはなかなかシュールな光景だ。どうやら大人しいと言っていたのは大げさではなく、本当に真琴の言う事なら何でも聞く従順な使い魔と言った風だった。
「それじゃ浮かせるからオートバイで引っ張って行こうね。
生命力に反応する魔道具を作っといたからこれ見ていけばバッチリだよ」
「真琴はなんでも作れるんだなぁ。
ホント凄すぎていつまで経っても敵う気がしないよ」
「別に勝負してるわけじゃないんだから気にしすぎだってばー
マコは近寄られると何もできないから、誰か来たらお兄ちゃんがやっつけてね」
「そりゃ任せろって言いたけどさ、魔獣もいるし僕の出番はないんじゃない?
あんなへっぽこたちに倒せるものだと思うか?」
「お兄ちゃん? それは油断がすぎるよ。
あの人たちは確かにマコ達よりはかなり弱いけど、普通の人たちよりは全然強いよ。
コ村の上級学校の人以外じゃ太刀打ちできないくらいだと思う」
「それって結構強いな……
相手は十人もいるわけだけど、まさか僕らでは勝てないなんてことないよな?」
「その心配はないと思うよ。
でもこの魔獣ちゃんだけだと無理なんじゃないかな」
「結局僕らが出ていくなら魔獣いらないんじゃないか?
それに負けるとわかっててけしかけるのは可愛そうだろ?」
「勝てないけど負けないようにすればいいんだから平気だよ。
マコに考えがあるから任せておいて!」
こうして僕たちは、巨大な魔獣を従えて? 人間族最高峰の力を有するプレイヤーたちのもとへと向かった。