56.兄妹で冒険へ
初めてバイクを動かせるようになってから一週間ほどが経ち、日々続けている成果が実り魔力の制御は余裕を持ってできるようになってきた。安定した制御で出力が上がれば乗り味は普通のバイクと変わらないレベルと言える。それより何より驚いたのは、バイク自体に半自立制御とでもいえそうな仕組みが備わっていたことだ。
オートマタたち同様の知能は無いが、文字通り自立して倒れることはないし、離れたところから呼ぶように念じると走って近くまでやってくる。いくら魔術が万能だからと言ってこれじゃまるでSFまがいもいいところだ。
そうは言っても便利で有用な事には変わりないし、折角だから目の前に現れたとんだご都合主義をありがたく使わせてもらい、家の周りを走り回ったり村の西にある荒野を飛ばしたりしていた。
というわけで、初めての遠出は世界の中心にあるダンジョンへ行ってみることにした。バイクが二人乗りなので行かれるのは僕と真琴だけだが、ポチは手のひらサイズなのでカバンに詰めて連れて行く。護衛無しで出かけることにチャーシたちは大反対だったが、普段の組手練習等々の結果をもとに検討してもらった結果なんとか説得に成功した。
「それじゃ行って来るよ。
ロミとマハルタの面倒を任せちゃって申し訳ないけど頼んだよ?」
「かしこまりですにゃ。
メンマが責任を持ってお世話するにゃ」
「それじゃ真琴、そろそろ行こうか。
目指すは世界の中心だ!」
「よし行こう! お兄ちゃん!
全速力でつっぱしろー!」
こうして僕ら兄妹と一匹はバイクにまたがり家を出た。このファンタジー世界には似つかない両輪が大地を蹴って砂塵を巻きあげる。どんなに荒れた路面を走ろうがこける心配はないし、スピードだってその気になればいくらでも出そうに思えるくらいパワフルだ。
気分よく飛ばして丸一日、一晩キャンプしてからまた走り続けて夜になったころに世界の中心へとたどり着いた。周囲はなにもない平原で、その中心にストーンヘンジのような遺跡的な建造物、そしてその中心にぽっかりと口を開けた竪穴がある。
「どうやらここがダンジョンって奴みたいだな。
まあここにプレイヤーたちはまだたどり着いてないから僕たちにも用はないだろ?」
「場所だけわかれば十分だよ。
次はさ、トラストって街へ行こうよ。
なにかおいしいものとか、お兄ちゃんの好きなものとかあるかもしれないじゃん?」
「そうだな、朝になったら向かってみるか。
どのくらいの規模の街なのかも知っておきたいし。
ここまで二日、トラストも同じくらいだろうな」
どっちへ向かえばいいのかははっきりしないが、昼間になれば日時計のように立てた棒で大体の方角はわかる。大雑把ではあるがそれだけを頼りに進んでも意外と何とかなるもんだ。出来れば全体マップみたいなものがあればいいが無いものねだりをしても仕方ない。
「ねえお兄ちゃん、次はどっちへ行くんだっけ?
西へ行くなら結構近いところに魔獣がいるみたいだから行ってみようよ。
マコは何かと戦ってみたいんだよねー」
「そうだなぁ、僕も小手調べというか自分の強さがどれくらいか確かめたいかも。
魔獣ってどのくらいの強さなんだろうな。
ん? というか西に魔獣がいるなんてわかるのか?」
「うん、魔力の気配がそんな感じだからね。
家の裏の森にもちょこっといるでしょ?
あれもちゃんとわかるし、チャーシやハンチャともよく話してるんだよ。
獣と魔獣の区別がつくように練習してたの」
「真琴たちはそんなこともできるのか、すごいなぁ。
確かに武術の達人が気配を察知するとかってよく聞くもんな。
僕はどんどん置いてきぼりになってる気がするよ」
「お兄ちゃんは大げさだなー
人それぞれできることできないことがあって当たり前なのにさ」
まさか妹にこんなセリフを言わせてしまうとは情けない。いつの間にか手の届かない存在になりつつある妹に嫉妬でもしているのか、それとも自分を卑下していいわけの代わりにでもしているのか、なんにせよ兄らしからぬ考えであることは間違いない。
「よしわかった、それじゃ魔獣を狩って自信をつけるとするか!
みんなのお蔭で格闘術はかなり上達してるしな」
「違うよお兄ちゃん、魔獣を倒しに来る人間を倒すんだってば。
多分トラストって街からだと思うんだけど、魔獣が集まってるところへ向かってるの。
魔獣はどっちかというとマコ達の仲間じゃないの?」
「そうだなぁ、人間族とかよりは僕らに近いかもしれない。
でもほとんどは知能も低くて攻撃的らしいし、仲間とまでは言えないんじゃないかな。
ドラゴンとか高位の存在は別だろうけどね、ポチみたいな」
「そうじゃな、確かにドラゴン族をはじめとする一部の魔獣は知能が高い。
だがそこらにあふれかえるほどは居らんはずじゃ。
ワシは作り物ゆえ詳しい生態は知らんがの」
「作り物だなんて悲しい言い方するなよ。
僕だって真琴だって、その他すべての物は結局誰かの、自然の産んだ作り物じゃないか。
こうやって話ができるんだし僕たちは家族、それでいいじゃないか」
「ライはお人よしじゃのう。
そんな甘い考えではいつか寝耳をかかれてしまうぞ?
この世のすべてを滑る王たる自覚を持つのじゃ」
「そんな、僕は世界の王なんて目指してないしその資格もないよ。
一体爺ちゃんはポチに何を教えておいたんだ?」
「ジジイは世界の安寧を求むとだけ言っておった。
それゆえ、実現可能で手近な者が出来そうなことを言ってみたまでじゃ。
別にライやマコの行動を縛ろうとするものではないぞ?」
「そ、そうか、ちょっとびっくりしちゃった。
でもあんまり変なことを言わないでくれよ?
僕はともかく真琴が真に受けたら困るからさ」
「うむ、全ては自分で決めるものじゃからの。
他人の言うことにいちいち過剰反応して流されるでないぞ?」
どの口がそう言うのかと文句の一つも言いたくなったが、ポチも悪気があるわけじゃなさそうだしこの話をあまり引きずっても仕方ない。僕たちはダンジョンの入り口付近でキャンプの用意をして夜を明かすことにした。