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41.動き出す日常

 意見の相違、考え方の食い違い、人が複数いれば対立することはあって当然だ。しかしそれが村を二分するような大きな話なら簡単に済む話ではない。かと言って新参者の僕にできることは何もなく、はやくこの問題が片付くことを願うばかりだ。


「ライト君は村の中に住んでないからあんまり興味ないでしょ。

 どっちにしたって今住んでるところを出ていく理由なんてないだろうし」


「まあ見方によってはそうかもしれないけど、僕だって気にはしてるよ?

 村を二分するようなことが起きてほしくないからね。

 もしチハルさんたちが出ていくことを決めたらマハルタもついていくのかい?」


「うーん、今住んでる家にそのまま住んでいいなら残りたいな。

 自分が産まれた村だってのもそうだけど、ここにはライト君もいるしね。

 あっ、あんまり重く考えないで! 私は誰かと取り合おうなんて思ってないから」


「取り合うってさ…… 今のところそんな気配は全くないってば。

 大体そんなの考えるのはもっとずっと先の話でしょ」


「まあ落ちこぼれの私たちにとっては先の話かもね……

 子供を作るにしても、まずは一人前にならないとそれどころじゃないわ。

 魔術以外でなにか出来るようにならないとなー」


 脈絡なく飛び出した『子供を作る』というワードに、僕は気づかないふりをして話を続けた。


「それはそうだね、着の身着のままで一日中じっとしてるだけの生活なんてぞっとするよ。

 マハルタはなにか考えてることあるの?

 僕はとりあえず今の計算を教えるのは続けていくつもり」


「私は何のとりえもないから……

 裁縫でも習いに行こうかな、北門の近くに裁縫店があるでしょ?

 あの店のご主人も魔術使えないらしいの」


「それで裁縫を覚えたってわけか。

 当てがあるならやってみるといいかもね」


 裁縫なら魔術も魔力も関係ないので、マハルタにやる気があるなら努力次第で出来るようになるかもしれない。だが僕にはとてもできそうにないし興味も持てない。やるとしたら料理が一番出来そうだったのだが、トラスで調理をするなら魔道具焜炉が使えないと話にならない。


 そして話にならないのは、こうやって自習中に魔力を練るための集中を怠るどころか、無駄口ばかりで何もしていない僕たちの授業態度だった。結局今日も何の成果もなく家に帰る時間になった。


 それでもマハルタも僕も何となく一緒にいる時間を楽しんでいて、しばらくはこんな毎日でも構わないような気になっていた。こんなグウタラでいいのかと言われればいいわけがない。だからこそ魔術以外に可能性を求めて試行錯誤している最中、なのか?


「そうだ、僕は明日学校休むからね。

 マーケットへ行かないといけないんだよ。

 植木を探して買って帰らなきゃいけないから学校行ってる暇はないや」


「妹さんのお使い? 大変なのね。

 もう誰も気にしてないと思うから自分で出てくればいいのに」


「気にしてないなんてことないはずだよ。

 毎日遠くからうちを監視している人たちがいるんだ。

 実害がないから放ってるけど、あんまり近寄るようなら排除しないといけなくてね」


「そうなの!? 村長さんたちへは相談したの?

 まさか叔父さんたちが関わってるとは思いたくないけど……

 それとなく探ってみるから乱暴はしないでね」


「そう簡単に聞ける関係なの?

 もし良かったら僕に話をさせてくれないか?

 この村の方針は絶対に変わらないってことを知ってもらいたいんだよね。

 それでも我慢できないなら新たに村を興せばいいんだよ。

 村長たちも手伝ってくれるはずだしね」


「うーん、大人たちがどう考えてるのかまではわからないよ。

 でも監視してるかどうかだけなら帰ってから聞いておくね。

 だから明日マーケットへ行く前に学校へ顔出して?」


「うん、わかったよ。

 それじゃまた明日ね」


 帰り道、例によって観光案内所の前を通るとマイがひょっこりと顔を出してきた。どうやら待ち構えていたようである。


「ライトさん、おかえりなさい。

 今日はどうでしたか? やっぱりまだできませんか?」


「こんにちは、やっぱり今日も同じだったね。

 吸い取ることしかできないし、それも僕しかできないってところも全然進歩なしさ。

 現存している歴史の本にも記録がないって本当なの?」


「はい、他人や魔道具の魔力を吸い取るなんて記述、見たことがありませんね。

 吸い取った魔力をなにかに活かせると、なにか道が開けるかもしれませんが……」


 今のところ真琴以外には、僕が吸い取った魔力から物体を魔道具として具現化することができることは明かしていない。もう少し使い道があると言うか、具体的な活用が出来るくらい習熟してからでないと恥ずかしくて誰にも言えない。なんせあれから何度も練習しているのに、作り出せるのはおもちゃの刀や振りザルくらいだし、手から離すと数秒で消えてしまうのだから。


「まあそれは今後研究していくことにするよ。

 幸いうちには魔術の天才が控えているからね」


「真琴様はお元気ですか? ふさぎ込んでいなければいいのですが……

 カナエさんだけのせいではなく、真琴様の力を知っていて何もしなかった私にも責任があります」


「いやいや考えすぎだよ。

 自分でコントロールしきれないほどの魔力を持ってしまったのは誰のせいでもないさ。

 あえて言うならドーンさんのせいだけど…… あっ!」


「魔神様がどうかされましたか?」


「いいや、なんでもないんだ、気にしないで。

 それより何か用があったんですか?

 僕を待ってたのかなって思ったんだけど」


「はい、実はラーメンの試作が完成したと連絡が来ました。

 それで急なのですが明日の夜にでも公民館へいらしていただけないかなと。

 宿屋で作ってから村長たちも交えて試食会の予定を立てたのです」


「夜に公民館か、それなら真琴も来られるかもしれないな。

 帰ってから相談してみるけど、僕一人でも顔は出すようにするね」


「はい、お願いします。

 料理責任者は出来に自信があると言っていたのでお楽しみに」


 これで楽しみが一つできたので、僕はワクワクしながら家路についた。だが先ほど思い出したことも忘れてはいない。それは、ドーンがいつになったらお金を送ってくるのかと言うことだった。


 たしか家を売却して借金を清算しても二百万くらいは残る計算だったのだ。こちらの安い物価なら数年どころか相当長く暮らすのに十分すぎるほどの超大金なので、今更だから無くてもいいなんて額ではない。


 真琴の魔力が強すぎる件も合わせてメッセージでも送ってみるかと考えていた。


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