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18.異世界で露店

 翌日、真琴とのんびりした朝を過ごしていると、マーボが昨日カナエから貰ったお茶を淹れて持ってきてくれた。一緒にクッキーまで作ってきてくれて僕は驚いてしまった。


「クッキーなんて良く作れたね。

 このカラフルなのは何が入ってるの?」


「お兄ちゃん、これは果物とお野菜だよ。

 こっちがオレンジでこっちは人参だね、マーボちゃんすごいね。

 すっごくおいしいしお茶にもよく合うね、ありがとー」


「なるほど、クッキーが作れる材料なんてあったんだね。

 いくら食べなくてもいいといってもこうやってお茶するのはいいもんだ。

 みんなも一緒にどう?」


「マーボたちは飲食するようには出来ていないのです。

 お気持ちは大変光栄で嬉しく思いますが、ご一緒できず申し訳ありません。

 本日のご予定はやはりマーケットでしょうか?

 これから餃子を全て焼いてしまう予定ですが、数が多いので時間がかかりそうなのです」


「それでも調理自体は出来そうなの?

 キッチンはちゃんと使えそう?」


「魔道具焜炉こんろは正常に動作したので問題ないのです。

 地下にあった食材を全て調理する程度造作もございません」


「なるほど、コンロも魔道具なのか、僕には使えそうにないけど……

 でも火をつけてもらえれば僕にも手伝えるかもしれないな。

 じゃあ全部出来上がったら出かけることにしようか。

 真琴はどうする? なにかやりたいことあるかな?」


「マコはルースーちゃんと一緒にお庭をどうするか考えるの。

 花壇だけじゃなくて植木や畑とかできるくらい広いしね。

 フルーツの木も植えてみたいなー」


「よし! 餃子を売りまくって大儲けするからな!

 そしたら苗木でもなんでも買ってあげるから期待しときなよ?」


「うん、お兄ちゃんならきっと出来るよ!

 期待して待ってるからね」


 優雅なティータイムを終えて部屋へ戻った真琴は、ルースーを連れてあっという間に戻ってきた。庭仕事にふさわしく、Tシャツとオーバーオールの組み合わせである。あの魔道具らしきクローゼットは本当に何でもあるんだなと感心するが、用意された衣類が爺ちゃんの趣味なのかは疑っている。


 ざっと見ただけだが、カジュアルなものからフォーマル寄りなもの、昨日着ていたようなフリフリのゴスロリドレスは何種類もあったし浴衣や民族衣装っぽいものまであってジャンルも幅広い。もちろん今着ているラフな作業着っぽいものもいくつかあった。


 昨日マイや村長が着ていたのはごく普通のスーツっぽいものだし、マサタカとカナエの夫婦は開襟シャツにスラックスで無難すぎるほど教育者っぽかった。一緒に来ていたけど紹介されなかった村人も、記憶に残らないくらい普通で特に変わった服装ではなかったと思う。こうなると、トラスや()村固有の服装と言うのがあるのか少しだけ気になってくる。


 とは言っても僕はあまりおしゃれに気を使うほうではない、というか今までそんな余裕はなかったと言った方が正しい。普段は制服とジャージくらいしか着ていなかったし、出かけるときは適当なシャツにジーパンだ。その分真琴にはいろいろ買ってあげたけど、油断すると店の売り上げは親父の酒代へと消えていた。


 でももう毎日評判も良くないラーメンを作る必要はないし、へたくそな料理を出して客に文句を言われることもない。寒い日に洗い物をすることも、暑い日に出前へ出ることも、売り上げが悪くて殴られることももうないのだ。


 考え事はいくらでも出て来てしまうが、あまり後ろ向きではなく前向きでいたい。それが真琴の為にもなるはずだ。そう信じて生きていくための第一歩、今できるのは餃子を焼いて売りまくるしかない。こうして僕は、マーボと一緒に午前中いっぱいかけて餃子約三百個余りを焼きあげた。


 調理が終わったらお役御免と言うわけではないが、マーケットへは僕と真琴、そして護衛のチャーシにどうしてもついてくると言って食い下がるルースーの四人で向かうことになった。



 観光案内所の前を通るとマイがお客さんの相手をしながら手を振ってくれた。学校からは子供たちのはしゃぐ声が聞こえてくるが校長達の姿は見えなかった。帰り荷でもどんな授業をしているのか覗いてみるのも悪くない。


 家を出てから二十分ほどだろうか。アンク北のマーケット広場へとついた僕たちは、さっそく空きスペースへレジャーシートを広げてバットにいれた餃子を良く見えるように置いた。周囲を見ると果物やスコーンのような物、飲み物などが大体100と書いてあるので同じように張り紙に100と書いてみる。


 目の前を通る人たちは物珍しそうに眺めてはいくのだがなかなか買ってもらえない。いくら痛むことがないとは言え、できれば熱いうちに食べてほしいのだが難しそうである。仕方ないので一つ摘まんで口へ放り込むと、真琴も真似をしてつまみ食いだ。その行動が興味を誘ったのか、正面でフルーツジュースを売っている女性がコップを二つ持ってやってきた。


「ねえお兄さん、その食べ物とこれを交換しない?

 どんなものなのか興味があるんだけど。

 何かの包み焼きみたいだけど何が入ってるの?」


「小麦の皮で引き肉や野菜を混ぜた具を包んでいるんです。

 とってもおいしいですから試してみてください」


 僕はそう言って差し出された空のコップへ餃子を十個入れて返した。真琴は中身の入ったコップを二つ受け取って上機嫌だ。メロンのような香りのするジュースはぬるかったが甘くておいしい。きっと餃子も好評に違いない、と思っていたのだが、ジュース屋のお姉さんは顔をしかめていた。


「あ、あれ? 口にあいませんでした?

 そんなに癖のある食べ物じゃないと思うんだけどな。

 もしかしてニンニクが苦手とか?」


「そっか、これニンニクが入ってるのね。

 魔人なのに刺激の強い食べ物を作るなんて、お兄さんたら変わってるわ。

 好みが分かれるから注意書きしておいた方がいいと思う。

 ちょっと他の人に試食してもらって来るわね」


 ジュース屋の女性はしばらくすると恰幅のいい年配男性を連れてきた。なんと村に来て初めて出会う直線角の持ち主である。


「おお、こんなに沢山あるのか。

 ええっと五個で100ルドなんだな?

 よし、五十個貰えるか、これに入れてくれ」


「は、はい! 毎度ありがとうございます!

 1000…… ルド? ですね」


 僕は差し出された木製の大皿へ餃子を五十個盛りつけて男性へと返した。そしてお代を受け取ろうと手を出したのだが、不思議そうに首を傾げているではないか。もしかして無銭飲食!?


「スマメを出してくれなきゃ支払出来ないじゃないか。

 早くしてくれよ、それとも払わなくてもいいのか?」


「ああ、すいません、不慣れなもので……」


 どうやらスマメ同士でお金をやり取りするらしく、男性はスマメを構えて待っていたのだった。僕もスマメを呼び出してマネーのページにある受け取りボタンを押すと、数字の入力欄が表示された。そこへ1000と打ってから相手に見せると、向こうも自分のスマメに1000と打ちこんでお互いを接触させた。


『ピョリョリ~ン♪』


 気の抜けた音と共に残高欄に1000ルドと表示されている。感動の初売上である。この男性は工房で働いている魔道具職人らしく、休憩の時には刺激のある食べ物を摘まみたくなるらしい。そのことを知っていた女性が試食させ連れて来てくれたのだった。


 この村の人たちは本当にみんな親切だなと、僕は改めて感動するのだった。


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