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12.野次馬の正体

 この世界のファション事情はまったく分からないが、とりあえず無難にポロシャツとジーンズに着替えてキレイ目のスニーカーを履いてみた。まあ当たり障りなくと言ったところか。


 かたや真琴はと言うと、例のクローゼットを使ったらしく、ゴスロリとでもいうのか、フリフリのフリルやレースがあしらわれていて、真っ赤な薔薇のコサージュがこれでもかとちりばめられた黒いドレスにそれっぽい靴を履いてきて、まるでゲームのキャラクターかビスクドールのような格好だった。


「真琴…… その格好…… しかもメイクまでバッチリ決めちゃってすごいな。

 メンマにやってもらったのか?」


「そうだよー、めっちゃカワイイでしょ!

 メンマちゃんありがとね、もーサイコーだよー」


「マコさまは素材がいいからメイクのし甲斐がありますにゃ。

 旦那さまもメイクしてほしいですかにゃ?」


「い、いや、僕はいいってば。

 それと旦那さまは止めてくれ、まだ若いんだからさ

 普通に雷人でいいし、従者なんて上下関係も気にしないでほしいんだ。

 みんな家族みたいなもんだから、もちろん敬語もいらないからね」


「わかったにゃ、これからはライさまとお呼びするにゃー

 ハンチャにも伝えておくにゃ!」


 どうやらメンマが一番人懐っこいようで真琴の世話役としては最適任だと感じる。メイドたちが全員ケモミミだった時にはどうしようかと思ったけど、これも爺ちゃんの趣味だと割り切って受け入れるしかない。というか見慣れてくるとどの子も結構カワイイし……


 そんなことを考えていたらまたまた突然隣にチャーシが現れた。白い毛皮を持つ狐の獣人で戦闘のプロらしいが、銀白に輝く毛皮がすぐ近くでなびくと胸がドキドキしてしまう。


「ライさま、あちらを見てください。

 恐らく先ほどこちらを見張っていた者たちが近づいて来るわ。

 大分警戒しているみたい、随分と険しい顔だもの」


「そりゃそうだよ、今まで何百年も空き家だったところに人がいるんだからね。

 こんなところから表情まで見えるかわからないけど敵意はありそうなの?」


「敵意はなさそうだけど、随分と不安そうな顔だわ。

 魔人の大人が七名、年寄りも混ざっているわね。

 チャーシが行って話を聞いて来ようかしら?」


「いや、結界もあるし危険はないだろうから僕が行くよ。

 一応この家の当主ってことになるんだろうしさ。

 最初からみんなに頼るのも情けないだろ?」


「かしこまりよ、チャーシもついていくから心配ないわ。

 マコさまのこともちゃんとお守りするわよ。

 こういうときに猫たちは頼りないんだもの」


「そ、そんなことないにゃ!

 分業…… そう、適材適所なのにゃあ!」


「わかってるよメンマ、気にしないで大丈夫さ。

 真琴があんなにかわいくなっちゃったんだから凄いよなぁ。

 すぐにボーイフレンドが出来ちゃいそうだ」


「マコはお兄ちゃん一筋だもん!

 だからボーイフレンドなんていらないんだからね、ふん!」


 どうやらまだしばらくは兄離れしそうにない妹の手を取り、玄関を出て再び正門へと向かった。すぐ後ろからはチャーシとメンマがついて来てくれているので心強いし不安も感じない。よし、ちゃんとした対応で乗りきって見せる。いや別にピンチなわけではないのだが心意気の問題として、と言う意味だ。


 正門に着くと、さっきは丘の下の辺りから遠巻きに見ていた人たちは、門のすぐ前までやってきていた。表情を見る限り確かに敵意は無さそうで、どちらかと言うと不安そうな顔をしている。そんなに不安なら近づいてこなければいいのにとも思ったが、村長だとか放ってはおけない立場の人たちかもしれない。


「こ、こんにぃちわ、んぐ、ゴホン、こんにちは、我が家になにかご用ですか?

 急に引っ越してきたので驚かせてしまいましたか?」


 出だしで声が裏返ってしまったせいか、真琴が横で笑いをこらえている。チャーシはじっとしているようだが、メンマは声を殺しきれず笑い声が漏れているが……


「おお、やはりこちらにお越しになられたのですね。

 様子を窺うような真似をして申し訳ございません。

 私は()村の村長でとアツロウと申します。

 恐れ入りますが不躾なご質問をお許し下さい。

 もしかしてあなたさまはダイキ様の御子孫なのでしょうか?」


「えっ、爺ちゃんのことを知ってるの?

 あ、その…… 別の世界から来たことも?」


「はい、もちろんでございます。

 およそ八百年前、異世界からやってきた救世主がダイキ様でございます。

 人間たちと天神に滅ぼされる寸前だったトラスを、その強大なお力で救って下さった!

 ダイキ様は偉大なる救世主であり、世界の創造主に等しい存在なのです。

 コ村を興されたダイキ様は、将来ご自身の子孫がここへやってくると書き記しております。

 その予言が今現実となったのです!」


 ここまで未来を予知したようなことを聞かされると、まさか親父の死は爺ちゃんによってもたらされたのではないかと勘ぐってしまう。まあそれが偶然でも事実でも、僕たちが今このトラスにいることが事実であることに変わりはない。


「そうでしたか、予言が、なるほど……

 あのう、それで村長さんはなんのご用件でここへ来たのでしょう」


「これは失礼いたしました。

 私の一族はこれまで領主様ご不在のまま代々このコ村を護って参りました。

 そのお役目がようやく終わりを迎えるのだと馳せ参じた次第です。

 ―― ご令孫であるお二人はこのままこの地へ留まり村を治めて下さるのですよね?」


「えっ!? 僕が? そんなまさか!

 まだ十六のガキにそんな大層なことできませんよ。

 この村のことも国のことも世界のこともなにも知らないのに。

 そりゃ爺ちゃんは凄かったかもしれませんが、僕が凄いわけじゃない。

 だから突然領主をやれって言うのは勘弁してください」


「なるほど、これは失礼いたしました。

 てっきりなにか特別なお力を持ってご降臨なされたのだと思い込んでしまいました。

 それでは今後はまず村のことを知っていただくのがよろしいでしょう。

 丁度良いご案内役もこちらへおいでいただいております」


 そう言って村長が紹介したのは黒髪に赤瞳でドーンによく似た魔人の女の子だった。角が湾曲していると言うことは魔術系だっけか。村長も他の人も全員が曲がった角で、僕みたいな真っ直ぐな角を持っている魔人が一人もいないのが気にかかる。


 だがそんなことどうでもいいと、一瞬で思えてしまう発言が飛び出した。


「こんにちは、私はコムラ・マイと申します。

 名前の通りダイキ様の子孫なのです」


「えー!? お爺ちゃんの? マジでー!?」

「え、ええ!? マジで? 爺ちゃん何やってたんだよ……

 まあでもこっちで生まれ変わったならそんなこともあって当たり前、なのかな……」


 突然現れた想像もしてない遠縁の出現に、僕と真琴は戸惑いを隠せなかった。


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