3.元妃候補の本音
第一王子アルバートは太陽みたいな人だった。誰に対しても分け隔てなく平等で優しく、朗らかだった。
同年代の女の子はみんな憧れていて、そんな彼の許嫁であることが誇らしかった。
幼い頃から決まっていた事だったから恋愛結婚はとうに諦めていたけれど、彼となら幸せな家庭が築けるかもと期待したのだ。
ほんのりとした好意は、王城に通って暫くして陰りが見えた。
王妃教育を受けている私を待っているエリザベスに、ちょっかいを出している彼を何度か見かけた。
エリザベスは毎回毅然としていて面倒そうにあしらう。回を追うごとに打ち解けている事も知っていた。
体調不良のフリをしてこっそり覗きに行くと目にしたのは、「誰にでも優しい」彼の「嬉しそう」だとか「照れくさそう」だとかいつもの王子様じゃないもう少し素の、砕けた姿だった。
ーー結婚するのは私だし
チクリと痛んだのを気づかなかったフリをした。例えどんなに彼がエリザベスを想っていても、どうしようもない事はわかっているはずだと思っていた。
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「まずは外堀から埋めましょう」とクロードに呼び出された執務室。
ソファに並んで書類を整理していたけれど、自分の分が終わってしまったので、少しぼんやりしていたようだ。
視線を感じてそちらに目をやる。
「終わりましたか」
言い終わる前に
「好きだったんじゃ無いですか」
唐突にクロードが口を開く。
「何がですか」
クロードはそのまま続ける
「随分思い詰めた顔をするから」
「それに貴方、」
一拍おいてこちらを見つめる。
「アルバートの事を責めないでしょう」
ーー止めて言わないで踏み込まないで、所詮政略結婚で、こんなの
「…文句の一つも言ってもいいのに」
ーー恋なんかであってたまるか
言葉を飲み込む間に触れた、クロードの親指を伝って涙がポタリ書類に落ちた。