投票と心の開示
あれから一か月が過ぎた。
特に変わったこともない平凡な学校生活が続いた。
現在、放課後であるにもかかわらず教室に全員集合だ。
なぜかというと来月にある文化祭のためにクラスで出し物をすることになったからである。
「ああ、だるい」
背もたれに深く座り直し、机に顔を伏せた。
「心の声もれてるぞ、りゅうじ」
彩華が俺のところに寄ってきた。
「なんだよ寝るつもりだったのに邪魔するなよ」
「やる気無さすぎ…」
彩華も引き気味に笑っていた。
隣の席にいろはが座り、みんなの様子を見ていた。
一向に決まらないことを見てクラス委員長が各々がしたいことを紙に書き投票することを提案した。
そして賛成多数のため投票で決めることになった。
「いろははなんて書くんだ?」
彩華はにやけた顔で「もちろんコスプレ喫茶でしょ。女の子が恥ずかしながらコスプレして接客してくれるとか…」
「...最高ぅ......」
「女のコスプレ見たいとか意外と男っぽいんだな、お前」
「いやいや、もちろん男子のもみたいよ。僕もしたいし」
そういって、彩華はウキウキに投票用紙に書き箱に入れた。
「俺もそれでいっか」
コスプレ喫茶と書いて投票箱に入れた。
投票結果。
全員が前黒板に押し寄せている。
「りゅうじ、あれ見てよ」
俺はその結果を見て唾を呑み込んだ。
「マジかよ...」
30人中12人喫茶(コスプレ、メイド、着物など)。
委員長が言った。
「今から12人の中から代表決めてほしいんだけど二人お願いできるかな?」
次の瞬間。
「はい!!」
と、言って彩華が大きく手を挙げた。
「いろは君やってくれるのかい?」
「めっちゃやりたいです!」
そういって彩華が教卓前へ行った。
「ほかにやりたい人はいますか?」
副委員長が残り11人に問いかけた。
そして結局誰も手を挙げなかった。
(まぁ、文化祭の出し物だしこんな感じが普通だろ)
俺が集中を解いてもう一度机に伏そうとした時だった。
「委員長!提案があります、入江君はどうでしょうか?」
その瞬間クラスの視線が俺に集中した。
視線の変な圧迫感をジリジリと感じる。
背中に冷たい汗がにじむ。いやな感じだ。
「たしかに入江は適任だと思う。会計とかは数学ができるやつの方がいいからな」
そういって委員長が自然に流してくれた。
なぜか今日の夕日はいつもの倍以上まばゆく感じた。
急に彩華があんなことを言ったからだろうか。
たぶん、ちがう。
そうやってモヤモヤと考えていると後ろからまたあの声がした。
「りゅうじ!」
大声でこちらに走ってくるいろはと隣に誰かいる。
「今日はやってくれたな、お前」
俺は不機嫌そうにいろはに言ってやった。
「まぁ、ごめんって。今度ジュースおごるからさ」
等価交換じゃないだろ、どう考えても。
「ところでそちらは?」
地味目のオーラをまとった女の子だった。
身長が女の子にしては大きかった、先輩と同じくらいだ。
あと...(乳でけぇ)。
「おい、りゅうじ。意識どこいった?」
いけない、危うく見ているのがばれるところだった。
「あの、私、立花くるみって言います」
「...」
そこで彼女から発せられた会話が停止した。
「えっと、初対面だよね?」
「何言ってるんだりゅうじ、おんなじクラスでしかもりゅうじの隣じゃないか」
地雷を踏んでしまったのか彼女はひどく落ち込んだ様子だ。
「ああ、それで?覚えてなったのは悪いけど、なにか用事があるからいろはと来たんだろ?」
立花さんは俺の顔をみて硬直していた。
「えっと、あの...」
モジモジしている彼女の様子を見かねた彩華が言った。
「彼女が新しい部活を作りたいから協力してほしい、みたいだよ」
立花さんがびっくりした様子で彩華を見下ろした。
「部活かぁ、いいな確かに。面白そう、自分たちで部活作るのわくわくするな」
「だろ、りゅうじならこの話にのってくれると思ってた」
立花さんもうれしそうだった。
「ところで、なんの部活作るんだ?」
「部活の名前は決めてないんだけど小説やラノベを書いたりしたり、みんなで絵をかいて文化祭に展示したりする部活!」
「...」
「りゅうじ、中学の頃書いていたからぴったりだと思って。それにまだどこにも入ってないしいい機会かなって」
「...」
俺は彼らの顔をみて話すことができなかった。
気が付けば俺の視線は自分の足の甲を見ていた。
「大丈夫か、りゅうじ?」
彩華の心配の声が、なんだろう。すごく寂しく感じた。
「誘ってくれたのは嬉しいんだけど、ごめん。他をあたってくれないか?」
「え?だって、部活認定には3人以上必要なんだぞ?」
「ああ、わかってるよ。だから、ごめん。立花さんも、誘ってくれたのに」
「大丈夫だよ、気にしないで」
彩華が俺につめよった。
「りゅうじ、入学したときに僕に話したじゃん。幼馴染と一緒にラノベ作る夢持ってるって」
「ああ、そうだな」
「だったら、入ってくれよ。お前しかいないんだよ」
俺はずっと忘れていた。
いや、多分蓋をしてずっとしまっていたかったのかもしれない。
「もうラノベ書けないんだ。こんなに好きなのに」