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【小話7】ディアとヘルトの話 本編後/オズ&ディア

本編終了後の話2

ゲームのヘルトについてオズとディアが話してるだけ。





「オズ、そういえばゲームの記憶を思い出したと言っていただろう?」


 酒場独特の喧騒の中、ふとディアが切り出してきた話に肉串に伸ばしかけた手を止めた。

 ディアの口からその話題が出てくるのは意外だった。


「そうだな。全ルート覚えてる」


 自称ヘルトと融合——正しくは『元の形に戻った』らしい——した俺の頭には詳細なゲームの記憶が存在している。

 一方であいつ自身の記憶は全くといっていいほど思い出せていなかった。まぁ前世とはいえ俺とあいつは別人だからその方がありがたい。


「急にどうした」

「ゲームの俺の事を詳しく聞いた事がないと思ってな。別の自分に少し興味が湧いた」

「……楽しい話じゃないぞ?」

「まぁそうだろう。アルムに初対面で敵呼ばわりされるような奴らしいからな」


 そういえばそうだったと相槌を打ちながらまだ湯気の立つ肉串に齧り付いた。

 そのせいで最初アルム少年とディアの仲が冷え切っていたのも今はいい思い出である。アルム少年が聞いたら黒歴史だと思い切り顔を顰めそうだけれど。

 何にせよ分かっているなら話しても構わないだろう。好奇心を孕んだディアの視線を感じながら、俺は記憶を手繰り寄せた。


「ゲームのディア——ヘルトはなんかこう、人間不信を極めてるっていうか。人類皆敵って思っていそうな感じ」

「よく世界を救おうとしたな」

「救おうとはしてないと思うぞ。仲間に加わるのも復讐の為だからな。アルム少年も言ってたけどヘルトは最初人類に失望してあちら側についたんだ。ここまではいいな?」

「あぁ」

「障害として何度も主人公の前に立ちはだかるんだけど、ある時守護者って事が判明して。その瞬間あちら側はヘルトを敵とみなして殺してくるんだ」

「容赦ないぞ」

「その事であちら側に憎しみを抱いたらしいヘルトは復讐する為主人公の仲間に加わるんだ」


 正確には利害の一致での一時休戦だから仲間と言っていいか微妙なところではある。


「ちなみに初登場はシュゼッタの故郷で、仲間に加わるのは帝国で魔人と戦った後だぜ」

「あの時か」

「……で、だ。実はそれで終わりじゃない。ヘルトにはとびっきりのエンド分岐がある」


 少し温くなった野菜スープを飲みながら、空き皿の目立つ机の上を一瞥した。話の続きは宿に戻りがてらになりそうだ。


 2人揃って外に出れば秋の気配を纏った風が酒場の熱気にほてった肌を撫でていく。夜に包まれた街の中を歩きながら空を見上げれば、ぼやけた月が浮かんでいた。明日は雨が降るかもしれない。


「それでオズ、続きは?」

「一定の条件を満たせないままゲームをクリアするとヘルトが最強の魔王になるってエンドがあるんだ」

「えっ」


 ヘルト好きのプレイヤーを震撼させたらしいバッドエンド——ヘルトが世界に絶望した事で守護者の力が反転し魔王となる通称闇落ちエンドである。


『僕と同じだねぇ』


 脳内に響く誰かさんのゆるい声音をスルーしつつディアを見れば、案の定ぎょっとした顔で固まっていた。


「しかも悲しいことにヘルトは一番いいエンドでも行方をくらまして終わりなんだよ。なんで皆で和気藹々してるエンドねぇの!? って感じ」

「落ち着けオズ。……だが、あれだな。そう考えると今の俺はヘルトのハッピーエンドと言えるのか」

「お前の幸せ、ささやかすぎない?」

「何を言う」


 そう言ってディアは微笑んだ。


「俺自身を見てくれる人達が居て、何より心から信じられる親友のお前が隣にいる。十分に幸せだろう」


 春の日差しのような、優しくて美しい笑みだった。

 きっと自称ヘルトなあいつが見たら感涙しそうだなんて思いながら、目を逸らす。


「……俺の事たらしとか言うけどさ、お前も大概だぞ」

「は?」

「はいこの話終わり! さっさと帰るぞディア」

「おい待て急にどうした」


 赤らんでいるだろう俺の顔を隠してくれる夜の闇に感謝しながら、俺は歩調を早めた。


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