【小話5】その頃の彼ら
※舞台裏《前半》の◆ゲーム転生の真相読了推奨
夢を見た。
それも銀英――銀の茨の英雄譚の世界にモブ転生する夢である。しかもモブのくせにサブキャラくらい出張っていた上、何故か俺自身もいたのでびっくりである。
転生分裂ものなの……なんでもありだな。
なんにせよ、いい夢ではあった。
何故なら公式ではついぞお目にかかれなかったヘルたんが最初から仲間に入ったハイパー闇堕ち回避ルートだったのだ。
ハピエン2次創作を漁りすぎてついに夢にまで見るとかちょっと笑える。
原作の影のあるヘルたんも好きだったけど、正統派騎士なヘルたんはまじでおいしかった。
でも正直ヘルたん幸せにする為にオリキャラ投入ははちょっとなぁ……どうせなら作中のキャラでヘルたんを幸せに――なんて考えて、ふと思い出す。
「そういやヘルトじゃねぇって言われたっけ」
確かそう——ディア。
あれ、銀英でヘルたんの名前なんて出てきた事あるっけ?
違和感を感じながら洗面所に向かえば、先に起きたらしい弟と鉢合わせた。
「兄ちゃんおはよ。朝から何ぶつぶつ言ってんの?」
「はよ。人を不審者みたいに言うんじゃない。そうだ聞いてくれ弟よ、兄ちゃん推しのハピエンが見たすぎてついに夢まで見たわ」
いつもなら呆れ顔で適当な相槌をうってくる弟は、今日に限って神妙な面持ちで黙りこんでしまった。
「……ねぇそれ、もしかして銀英?」
「正解! よく分かったな」
「あのさ、ディアって名前に心当たりある?」
「めっちゃあるわ。でもソースが思い出せなくてさぁ、それどこの情報だっけ」
「ソースなんてないよ。……夢だから」
「それってどういう——」
「俺ね、夢の中で主人公に転生してたんだよね。その時に出てきたヘルトがディアって呼ばれてたんだ。それでもう1つ聞きたいんだけど……」
——兄ちゃんさ、夢の中でモブ転生とかしなかった?
俺は言葉を失った。
そんな偶然ってあるか?
夢の内容を擦り合わせてみたけど、本編が始まってからの道筋は俺が夢に見たものとほとんど同じだった。
「どういう事だ?」
「もしかして、夢じゃなかったのかな?」
「現実かもしれないって? んな馬鹿な、ラノベじゃあるまいし」
とはいえあれがなんだったのか、俺達に確かめるすべはない。
これ以上考えても結論なんてでないのだ。
頭を埋め尽くす『たられば』を傍に追いやり息を吐く。
「……気分転換にアイスでも買いに行くか?」
「賛成ー」
俺達の心中とは裏腹に、玄関から見上げた空は憎たらしい程雲ひとつない快晴だった。
「ま、事実は小説よりも奇なりって言うし」
もしかして、もしかするかもな




