【小話4】男子(?)会on魔王討伐前夜
時系列的にはレントルの町のクローセム家の屋敷(オズの実家)に一泊した時の話。
夜に男性陣が景気付け(?)に集まってわちゃわちゃしてるだけ。
俺の実家に泊まる事になったその日の夜、俺とディアはカイゼスが寝泊まりする部屋を目指していた。何故なら今日の夕飯時にカイゼスから「後で話したい事がある」と伝えられたからである。
声を潜めていた理由は謎だけど、内容は十中八九明日のことだろう。
なんせカイゼスやディア達――守護者は魔王と戦う為に北の大陸に旅立つのだから。
まぁでもカイゼスの言う『後で』が深夜とは思わなかった。屋内は昼間の賑やかさとは打って変わってシンと静まり返っているから足音さえも気を使う。
「正直嫌な予感しかしない」
顔を顰めるディアに苦笑いした。
カイゼスの日頃の行いを思えば懐疑的になる気持ちもわからないではない。
カイゼスにあてがわれた部屋のドアを軽くノックすればすぐにカイゼスが出迎えてくれた。
アルムやドミニク、シュゼッタはすでに集まっており男性陣は俺達が最後だったらしい。
「よしよし全員集まったな」
全員、といっても女性陣の姿が見当たらなかった。どういう事だとカイゼスを振り返れば、その顔には悪戯にせいこうした悪ガキが浮かべそうな笑みが浮かんでいる。その時点で俺もディアの言う嫌な予感を感じ始めていた。
「念のため確認しますが、明日の作戦会議ですよね?」
「何言ってんだ、男だけの会話とくれば――猥談しかねェだろ?」
瞬間、部屋の空気が一気に白けた。
どうするんだよこの空気。
ドミニクとディアがまとう空気が特にひどくて、到底人に向けてはいけない眼差しをカイゼスに向けていた。
「オズ、戻って寝るぞ」
「そうだな。皆おやすみー」
「オイオイ冗談だって! ディアちゃんもオズも帰ろうとすんな! ほら席に戻った戻った!」
「脳みそにカビでも生えてるんですか貴方。明日は魔王に挑むんですよわかってます?」
「大仕事の前だからだっての石頭」
カイゼスの言い分も分からなくはない。
騎士として初任務に赴いた時、緊張する事なく訓練通りに動けたのは団長の冗談のおかげだった。だからと言って、猥談は流石にどうかと思うけどな。
「オラ全員席戻った戻った。男子会始めっぞ! 明日に響くような時間までやらねェから安心しろ」
「当たり前です」
こうして守護者御一行男子会が始まったわけだけど――。
「あーここはやっぱりわかりやすく女の好みからいくかァ? オレは当然エロくて遊び慣れてる女だな。やっぱ一晩限りの関係で後腐れねェのが一番楽なんだわ」
「最低ですね貴方」
初っ端からこれである。
アルム少年やシュゼッタがいるのに初手から爛れた関係とか切実にやめて欲しい。
「最低たァ失礼な。坊ちゃんはさぞやご立派な趣味なんだろうなァ?」
「ええ当然、どこかの誰かとは違い女性には紳士的であれと言われて育ちましたからね。僕の好みは互いに誠実かつ信頼のおける相手です」
「流石ヘタレ童貞。クソ真面目な回答をありがとよ」
「喧嘩売ってます?」
肩の力を抜くどころか不穏な空気を漂わせている2人を横目にため息を吐いた。
ドミニクはカイゼスに上手く誘導されたと気づいているんだろうか。後で気づいて怒り出さなければいいけど。
「あーあ、進行役が役割放置してどうするんだか。そんなわけではい、アルム少年は?」
「ええ……続けるんだこの話題。うーん、オレは好きになった人が好みかなぁ。シュゼッタは?」
「えっ、と。天真爛漫で太陽みたいな人、だろうか」
アルム少年とシュゼッタの初々しさが大変微笑ましくて頬が緩んだ。なんて言うか甘酸っぱい。
にやにやと見守っていれば、恥ずかしくなったのか頬を上気させたアルム少年に睨まれビシッと指を指された。
「はい次、にやついてるオズ!」
「いいぞ。俺は美人が好みだな」
「? アルム、何故俺を見る」
「いや、その、まぁ……うん。次いこうか!」
「なんなんだまったく。次は……俺か」
やっぱり皆気になるのか、ずっと言い合っていたドミニクとカイゼスさえも静かにディアの言葉を待っている。
そう言う俺も密かに気になっていた。
「強いて言うならどんな時も一緒にいてくれて人生を楽しめる人……だろうか」
髪や瞳の色で大変な人生を送っていたディアらしい、ささやかな好みだなと思った。
「きっとディアなら出会えるだろ」
そう言ったらディア以外になんとも言えない顔を向けられたのは何故だろうか?
まぁなんにせよ改めて魔王討伐が終わったらディアの忌み子っていう認識を変えていきたいと思った。
世界の為に頑張っているディアが幸せじゃないならハッピーエンドとは言わない。
ちょうど明日からは留守番なのだ、その間に俺に出来る事を考えないとな。
「しんみりしたところでじゃあ次! そうだなァ、オススメの娼館とか、どうだ?」
「どうだじゃないですよ黙りなさい万年発情期」
再び始まったカイゼスとドミニクの言い合いを横目に俺達4人は何とも言えない顔を見合わせた。
「……本当にこんなので肩の力が抜けるのか?」
「あ、あはは」




