【小話3】共同生活、初めての朝 騎士時代/オズワルト
時系列的には13話の騎士時代-王都①あたりの話。
[あらすじ]
オズの王都配属に伴い一緒に暮らし始める事になったオズとディア。
荷運びに荷解きと慌ただしく引っ越しを終えた日の翌朝、今日から仕事が始まると言うのに未だぐーすか寝こけるオズをディアが起こそうとして——。
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「——ろ、オズ」
軽く肩を揺すられ、ゆっくりと意識が浮上していく。
「おい、いつまで寝てるつもりだ」
「んぁ…………ディア?」
なんでディアの声が聞こえるんだろうなんて考えて数秒。
そこでようやく昨日からディアと住み始めた事を思い出し、慌てて目を開け飛び起きる。
「おはようディア、今なん——」
瞬間、視界に飛び込んできた美の暴力に俺は呼吸を忘れかけた。
朝の柔らかな日差しを背に俺を呆れた表情で見下ろすディアの姿は、まさに御伽噺に出てくる女神のよう。
太陽の光を反射してキラキラと輝く夜色の髪に、瑞々しいベリーのような瞳。
中性的な美貌も相まって、寝起きの頭じゃ処理しきれない程眩いばかりの美を放っていた。
俺の語彙力がないばかりにこの感動を『綺麗』としか言い表せないのがひどくもどかしい。
でも本当に綺麗だよなぁ、ディア。
朝起きて最初に見たものがこんな綺麗なものとか贅沢すぎだろ俺。
そんな事を考えながらぼーっとディアを眺めていると、何かを堪えるような顔で小刻みに震え始めるものから何事かと思った。
「もしかして、体調悪いのか?」
「くそっ……ッ」
心配しただけなのに、ディアは何故か舌打ちすると朱に染まった顔で俺を思い切り睨みつけてくる。
「朝っぱらからよくもまぁ小っ恥ずかしい発言を」
「あー……ん? さっきの声にでてた?」
「ダダ漏れだった!」
「まじか。でもまぁ事実だ——いひゃいんらへほ」
すらりと長い華奢な指からじゃ想像もつかない馬鹿力で頬を引っ張られながら、未だ怒りなんだか羞恥なんだかで茹で蛸状態のディアを見た。本人は『怒ってます!』と主張しているつもりなんだろうけど、ほんのり潤んだベリーの瞳で睨まれても全く迫力がない。
忌み子って色眼鏡でこいつを見て敬遠する奴はもったいないとつくづく思う。
こいつのどこが冷酷なんだか。
「動じてないのが腹立たしい。なんで俺だけ……」
「いひゃいっへ」
「明日以降お前が寝坊しても絶対に起こさないからな」
「ひどくねぇ?」
「ならちゃんと自制しろ! ああもうッこの話は終わりだ、朝食ができている」
「おーありがと。ディアの飯、久しぶりだなぁ」
「ほら、にやにやしてないでさっさと支度を済ませろ」
「へーい」
部屋から出て行くディアの後ろ姿を横目にさっさと着替えて洗面所で顔を洗う。
タオルを片手に目の前の鏡を見れば、少し不安げな顔をした男が映っていた。
騎士生活5年目にして突然すぎる栄転。部下とうまくやっていけるのかとか最近魔物が増えてる件とか後は例の記憶が現実味を帯びてきた事とか、正直不安は尽きない。
なにより一番の懸念は王都におけるディアへの偏見の強さだ。
ディアが王都で務めてから丸4年、何の瑕疵もないはずなのにディアをとりまく環境はこれっぽっちも変わっていない。
ディアの偏見を無くすんだと勇んでいたものの、本当にできるのかだんだん不安になってきた。
これじゃ駄目だと、ばちんと両頬を叩いて気持ちを切り替える。
不安がってても仕方がない。
仕上げに「よし」と呟いてから鏡を見れば、いつも通りの俺が鏡越しにへらりと笑いかけてきた。
とにかく今はやれる事をやる。悩むのはその後でいい。
「——ってやべ朝飯っ」
時計を確認すれば、ディアが起こしてくれてから思いの外時間が経っていたので焦った。
これ以上ディアを待たせるわけにはいかないだろう。
上着を引っ掴むと、俺は慌てて洗面所を後にした。




