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【83】封じられた地⑩side:O?


——遡る事落下時


 ふと、頬に風を感じて目を開けた。

 視界いっぱいに広がる曇天に目を瞬かせる事、数秒。


「…………は?」


 風にたなびく夜色の髪に、浮遊感。

 何が起きたのかは分からずとも、これが異常事態である事はすぐに理解できた。

 起きて早々、寝ぼける猶予もなく一気に脳が覚醒していく。


「おいディア()()なんだこの状況⁉︎」

「オ――まえっ⁉︎ 死にたくなければ黙ってろッ!」


 至近距離の推しにドギマギしながら尋ねれば、聞きなれない声が聞こえて内心ギョッとした。


 ……魔王は追い払う事は成功したみたいだけど、何故か俺は融合されていないらしい。俺の視界の端にチラつくミルクティー色の髪を見て己の状態を悟った。


――大丈夫、眠っているだけだよ


 ふいに頭の中に響いた見知らぬ声に、こんな時に今度はなんだと警戒を強めれば苦笑した気配を感じて、顔を顰めそうになる。


――君は初めまして、だね。私はシスル……の魂の欠片といえば伝わるかな?


 魔王の魂の欠片か。

 こいつの魂がここにいる理由は女神から聞いている。

 俺の現世(オズワルト)はどうにも幼少期に魔王とニアミスしていたらしい。

 まぁ俺の正体も含めその事を女神聞いたのはあいつが魔王に拉致られてからだけどな。


 魔王があの器を狙うのは想像ついていたからそれまでに融合されると都合が悪かった——なんて女神に言われた時は本気でしばいてやろうかと思った。

 あげく、闇の守護者(ディアたん)が闇堕ちしたらまずいから早く器を奪還しろだなんだと言ってくるし。よくあれで女神やれているよな。っと、今はそれどころじゃなかった。


――……っと、そろそろ地面に着くよ。彼はちゃんと守ってあげるから、目を覚ますまで頑張ってね


 そう言われて、ハッと我に返ったところで風に包まれて、落下速度が和らいだ。

 今のはドミニクの技か。

 そんな事を考えているうちに、俺を抱きかかえたディアたんが猫のようななしなやかさでトンと地面に降りたった。


「おいヘルト、何故お前が――オズは無事なんだろうな」

「おぅ。流石に疲労が溜まってるっぽくて眠ってるだけだ。時期に目を覚ますだろうよ」

「……本当なのか」

「乗っ取る気はないから安心してくれディアたん。そもそも俺はオズワルトの前世だからな」

「――は?」


 絶句するディアたんを他所に周囲をざっと見渡せば、少し離れたところで、弟――アルムが尻餅をついているのが見えた。

 安堵で少し気が抜けたか?

 だけど、油断するのは……まだ早い。

 魔王からこれだけ離れたって事はおそらく――。


「おい待て、意味が――」

「ディアたん、守護者の力で分厚い膜みたいなもんをつくって全員を包んでくれない? 全力で」

「わからな……は? 全員?」


 空から降りてきた魔王が、案の定空に槍を展開し始めたので、確信した。

 ……くるか特殊技。


 ゲームにおいて魔王の攻撃技の中でぶっちぎって攻撃力の高い、回避不可能大ダメージ不可避の厄介な大技だ。

 素で食らえば瀕死か即死、ダメージ軽減バフをかけていてもスタミナゲージの8割を持っていかれる。

 定石通りバフがけでスタミナの2割は残るだろうけど、それで動けるのはゲームの中だけだ。

 現実で手足の一本でも失っていそうなその状態を無事とは言わない。

 なんとか特殊技をギリギリで耐え切ったとして、終わりではないのだ。

 俺達が回復するのを魔王がわざわざ待ってくれるとは思えないし、そうなれば詰みだ。

 完璧に防ぎ切るとはいかずともなんとか2割3割の被弾で済ませたいところだ。


 流石にやばいものがくるって事は察してくれたようで、ディアたんは物言いたげにしつつもすぐに闇の力を練り始めてくれた。


「おいヘルト、言っておくが俺の力は守りに向いてないからな?」

「大丈夫、なんとかなる。というかなんとかできないと全員死ぬ!」

「ふざけるなよお前っ!?」


 他の奴らを伺いみれば、皆も各々守護者の力を展開し始めていた。だけどどれだけ力を込めたとして、彼らの力じゃ多分足りない。あの魔王の力は堕ちこそすれ元は光属性の守護者。

 その攻撃を防ごうとするなら、相性の悪い属性――つまり闇属性の守護者であるディアたんが適任だ。

 本当は俺も力を貸せたら良かったんだけど魔王から器を奪い返す時にほとんど使い果たしてしまい、今は瘴気から身を守るので精一杯。


「ディアたんくるぜッ!」

「わかっているッ!」


 ディアたんがぶわりと闇の膜を皆に纏わせたところで、スコールのごとく黒い槍の雨が降り注いだ。

 ドドドドと爆音が響き渡る。

 最初は上空から、時間差で左右、そして足元からも飛んでくるソレはまさに、回避不可能の代物だった。


「……ぐ」

「おい大丈夫かディアたん」


 ディアたんの全力をもって、槍の8割減といったところか。やっぱり完全には防げなかった。

 残り2割の槍が、膜を突き破って俺たちを襲った。

 とはいえ8人分だ。逆によくここまで保ったと思う。


「ヘルト、怪我は」

「……おかげさまで」


 ディアたんの怪我は、魔王に乗っ取られた反動で動けない俺を庇ったものがほとんど。

 それがひどく悔しくて唇を噛んだら、「オズの体を無闇に傷つけるな」と口に親指を突っ込まれた。


「急所は避けたから問題ない。オズの身体に瘴気が入る方が問題だ」

「まぁそうなんだけどねぇ。……つーかディアたん、いい加減この身体お姫様抱っこすんのやめねぇ?」

「嫌だ。また魔王に奪われたくない」


 何この駄々っ子。推しが可愛い。でも絵面はちょっとどうかと思う。

 そんな風に悶々としていたら、いつのまにか駆け寄ってきたリュネーゼに思い切り治癒魔法をぶち当てられた。


「ディア、大丈夫なの!?」

「なんとかな。それよりも……」


 ディアたんが視線を向けた先には一足先に魔王と戦うアルム、ドミニク、シュゼッタ、カイゼスの姿があった。見た感じ、重傷者はいないっぽいな。

 無事攻撃を乗り切れたようでなによりである。


「あなたのおかげで皆無事だったもの、無理しないで休んでいなさいな。力だって使い切っているんでしょう?」

「そうだが……」

「従ってよーぜ、()()()。あれ以上にまずい技はないはずだから後はアルムにでも任せとけ」

「ちょっと、私達もいるんだけど。…………オズも、無事で良かったわ。いい? ちゃんと休んでなさいよ」


 そう言って、リュネーゼは足早に前線へ戻っていった。


「おい、何故オズのふりをする?」

「今の俺は言うならイレギュラー。想定外の産物だ。混乱は少ない方がいいだろ」

「ならばちゃんとオズを演じろ。アルムを呼び捨てでは呼ばないし、所々語調が違う」

「いや厳しくねぇ?」


 ガス欠同士、そんな事を言い合いながらアルム達の戦いを見守った。



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