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【77】封じられた地④side:A


 守護者の気配を頼りに不毛の大地を進んでいけば、他の守護者やルーチェと合流できた。

 その際兄ちゃんと面識のあるドミニクとシュゼッタの警戒を解くのが大変だったけど。


 なんとかその場を収めてオズの事を説明すれば皆の表情が緊迫したものへと変わった。


「穏やかじゃねェな。……いざとなりゃあいつを殺せって?」

「ふざけるな! オズはまだ救えると言っているだろう!?」

「いざとなりゃって言ってンだろ」

「そんな『もしも』は必要ないッ!」

「落ち着けってヘルたん」

「うるさい! ディアだッ!」

「あーディアたん、とにかく落ち着け? これじゃあ先代守護者の二の前なんだって」

「? 何故そこで先代守護者が出てくるんですか」

「魔王の正体が闇堕ちした先代の光の守護者だからだな!」


 兄ちゃんによって投下された爆弾発言に、オレは驚きのあまり言葉を失った。

 ゲームではヘルトが魔王になるエンドもあったから守護者が魔王にって所はそこまで驚きはしないけど、現魔王が元守護者って事は流石に驚いた。

 流石に予想出来ている人はいなかったらしく、皆揃って固まっている。


「……魔王が、守護者? まってください、そもそも魔王とはなんですか」

「あーそこからか。なんて言えばいいんだろ、世界中の瘴気の煮凝りみたいなもんっつーか。簡単に言えば実体と自我と知能を持った瘴気だな」

「瘴気、ですか」

「そうだ。瘴気は魔物の毒素っつーのがこの世界の一般認識だけど、正確には違う。瘴気とは、生物が出す淀み――すなわち、怨みつらみといった負の感情が寄り集ったものだ。じゃあ魔物や魔王は何かって話だけど、こいつらは世界にとって害しかない瘴気を効率よく取り除く為の『仕組み』ってわけ。空気中に漂う(ちり)を片付けるよりも1箇所にまとめたものを片付ける方が手っ取り早いだろ?」

「なるほど、では守護者とは差し詰め清掃業者ですか」

「言い得て妙だな。まぁちゃんと説明すれば、守護者は人の手に負えない魔王を処理する為に力を与えられた存在だ……っと、話がそれたな」


 その後兄ちゃんの口から語られたのは、人並みの正義感を持つ普通の青年が光の守護者となりそして魔王へと至った悲劇の物語だった。


「――先代守護者達が無事魔王を倒して、めでたしめでたし……とはならなかった。先代巫女の暴走で闇の守護者が殺されたんだ。闇の守護者は光の守護者の最愛の妹だった」

「……は」


 彼女は黒髪赤目という魔物に似た色を持っていた事を理由に、巫女に扇動された他の守護者に殺されたのだと言う。信じがたかった。


「あれこれ制約を縫って女神が介入できた時には光の守護者は激オコ魔王堕ち、他の守護者はほぼ瀕死状態だったらしい。そんでまぁ、介入できるギリギリの力でなんとか封印する事ができた――というのが真実だ。で、なんでこれを話したかって言うとまぁ……」


 兄ちゃんがチラリとディアを見る。

 オズがああなってしまった以上オレ達の中で一番危ういのは間違いなくディアだろう。

 希望が途絶えていない今でさえ、不安定なんだから。

 ディアも兄ちゃんが濁した部分を察したようで、決まりが悪そうに目を逸らしていた。


「つーわけで、最推しの闇堕ちバドエン阻止の為に裏方の俺が再び表に登場ってな」


 重苦しい空気を振り払うようにパチンと手を叩いて、兄ちゃんがへらりと笑う。


「いやー期間限定加入キャラポジとかやばくねぇ?」

「きゃらぽじ?」

「あまりに気にしなくていいと思うよドミニク。ていうか兄——ヘルト、裏方って何やってたんだよ」

「反抗的な国を締めたり、うるせぇ王族調教したり、各地の魔物を殲滅したりとか? あーあとどこぞの引きこもりを引き摺り出したりとか?」

「本当に彼を同行させても問題ないんですか?」

「は、はは。大丈夫だと思う……多分」


 兄ちゃんの色々とひどすぎる発言のおかげで、皆悲観的になりすぎずに済んだ。ただしディアは除いてだけど。

 焦燥と苛立ちで危うい空気を纏うディアにも果敢に話しかけ続ける兄ちゃんはきっと心臓がオリハルコンで出来てるんだと思う。話しかけるなってオーラを出してるのにまさか間近の最推しに浮かれて気づいていない?

 ヒヤヒヤしていたのは最初だけで、黒い城に近づくにつれ魔物の襲撃頻度も増えそんな余裕はなくなった。おしゃべりな兄ちゃんでさえ対処に追われて口数が減っている。

 そうして眼前に迫った黒塗りの城を見上げれば、その外壁を黒いモヤが這いずりまわっており、より一層気味の悪さを掻き立てた。


 門番だったんだろう——人の体に牛頭を持つ魔物を斬り伏せ、オレは深く息を吐く。

 消えゆく魔物の背後にある、城壁と同じく黒塗りの金属扉。ここから先が、本番だ。

 ……絶対に負けられない。

 今更だけど、オレ達が背負うものの大きさに剣を握る手が小さく震えた。

 でも、ここで怖気付いてる暇はない。

 心の中で己を叱咤してから、オレは皆を振り返った。


「皆、準備は——」

「いよーっし。そんじゃ、突撃魔王のお宅訪問といきますか!」


 なんとも言えない気持ちで兄ちゃんを見やれば、オレの視線に気づいたのかパチンとウィンクをキメてくるものだから思わず脱力してしまった。


 そのまま皆の顔を見渡せば、兄ちゃんのおかげか彼らの表情に怖気や絶望は見当たらず、むしろいい感じに緊張がほぐれているように見える。ディアも兄ちゃんの奇行に毒気を抜かれたようで、危うげな空気が多少マシになった気がした。うんざり顔だけど。


「気を取り直して……行こうか、皆」


 いつの間にか手の震えはおさまっていた。

 きっと、大丈夫。


 そう念じて、オレは城の扉を勢いよく押し開けた。


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