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【76】封じられた地③side:A


 銃身を剣で弾いてオレとオズの間に強引に割り込んできたのはヘルト——もといオレの兄ちゃんだった。

 兄ちゃんがオズの眼前でパチンと指を鳴らせば、2人の周りに眩い光の球が現れオズ目掛けて飛んでいく。

 閃光が迸る中、唖然とするオレの腕を掴んだ兄ちゃんは、ディアの首根っこも引っ掴むと後方へ飛んだ。


「に、兄ちゃ——」

「話は後! 今は目の前の不届きシスコン光野郎に集中!」


 まってどういう事? 不届きシスコン光野郎って何!?

 理解が追いつかず混乱する頭で兄ちゃんの視線を追えば、胸のあたりを抑えて表情を歪ませるオズの姿があった。


「んー現界用の器を手に入れて試運転ってところかね? まだ本調子じゃないんだろ? そんなお前にゃ今のはよぉーく効いたはずだぜ。なんせ女神直々に譲り受けた浄化の力だからな」

「……」

「けっ、ダンマリかよ。どうせその器を殺せないと踏んでヘルたん狙ったんだろうが、甘かったな。俺の目が黒いうちは最推しをバドエンにさせるかってんだ! さっさとその器返しやがれ」


 ビシッと指を突きつけて叫ぶ兄ちゃんを冷めた目で見るオズの足元から突如瘴気が吹き出した。


『もぉー、勝手にどこか行かないでヨ~我が主。その器、まだ調整中なんだカラ』


 オズを守るように現れたのは、かつて帝国を混乱に陥れた人型の魔物。

 オレとカイゼスが消し飛ばしたはずなのに、やっぱりゲーム同様仕留め損なってたみたいだ。

 だけど今オレはそれどころじゃなかった。

 器? 我が主って…………まさ、か。


「ヴィシャス」

『ハイハイ。魔物使いが荒いなァ~』


 ヴィシャスと呼ばれた人型の魔物は肩をすくめたかと思うと、オズもろとも瘴気で覆い隠すとどこかへ消えてしまった。その場に残されたのは、魔物の残党とオレ達。

 流石に放置するわけにもいかなくて3人で手分けしてソレらを片付けた後、オレは兄ちゃんを振り返った。


「えっと、久しぶり?」


 以前会った時はディアの配色だったけど、今は黒髪に黒目。

 オレの記憶の中の兄ちゃんと寸分違わぬ姿をしていた。


「よう前世の弟。相変わらず辛気臭い顔してんなー」

「だってオズが……」


 オレ達に容赦無く敵意を向けるオズの姿が頭の中に蘇ってきて、ぎゅっと口を引き結んだ。

 それ以上の言葉を飲み込んだのは、兄ちゃんをチラとも見ずに座り込んだまま無言で俯くディアを追い詰めたくなかったから。こんな時、なんて声を掛ければいいのかオレには分からなかった。


「ゲームじゃこんな展開なんてなかったのに」

「銀英のシナリオには直接関わってこなかっただけで、多分どこかで同じ事は起きていたんだと思うぜ。魔王戦で『適合した人間を器として現界した』みたいな台詞が確かあったはずだ」

「今回はそれがオズだったってこと?」

「あぁ」


 じゃあ、あのオズはやっぱり……魔王なんだ。

 ゲームでは銀髪に淡い紫目をした端正な顔の青年姿だったから、てっきりあれが魔王の姿なんだと思ってた。

 でも確かによく考えればあれが魔王の姿だなんておかしな話だったんだ。

 だって、魔物が必ず持つはずの黒色も赤色も持っていなかったのだから。

 そこまで考えて、ふと疑問が浮かんだ。

 ゲームで器にされたあの青年はどうなったんだろう——と。


「シナリオだと魔王を倒して終わり、だったよね。その後は?」

「その後も何も、魔王と一緒に消滅してるはずだ。ゲームじゃ完全に乗っ取られてたっぽいからな」


 魔王が完全にその器を支配した時点で、本来の魂は消滅する——兄ちゃんの言葉にオレは言葉を失った。

 じゃあオズは……助けられない?

 取り返しのつかない事をしでかしてしまったように思えて、頭からすっと血の気が引いていく。

 どうしよう、どうしよう……オレが不甲斐なかったせいで、間違えたせいで、オズが――。


「悲観するのはまだ早いぜ。側近陰気野郎が言ってただろ、『調整中』だって。完全に制御できていないならまだチャンスはある。それにまぁ、あいつがそう簡単に身体を明け渡すと思えねぇし多少の猶予はあるだろ。なんせ…………だからな」


 大丈夫だと励ますようにオレの頭をわしゃりと撫でる兄ちゃんの手に、無性に泣きたくなった。

 最後の方が聞き取れなかったんだけど、なんて言ってたんだろう?


「……兄ちゃんありがとう。そういえばさっきも助けてくれたよね」

「あぁあれな、まじで間に合ってよかったわ。魔王の乗っ取り以前にあやうくお前があいつの魂が消しとばすところだったし」

「――は?」


 ひょうひょうとした口調で物騒な言葉が聞こえてきて思わず耳を疑った。

 消しとばすって……何?


「お前、守護者の力をぶつけようとしてただろ」

「う、うん。でもだいぶ加減してたし、狙ったのは手足だから……」

「お前、相手は魔王だからな? 瘴気の煮凝りみたいな魔王の魂入りの器に魔物殺しに特化した守護者の力をぶつけりゃ、そりゃあもうバッチバチに反発しあうわな。その余波なんて喰らったらあいつの魂ただじゃ済まないからな? ただでさえあいつの魂欠けてるってのに」


 危うくオズを壊しかけたと知って、冷や汗が止まらなかった。


「兄ちゃんもオズに攻撃してたじゃん!? あれ大丈夫なの!?」

「んな阿呆ミスするかよ、俺のは浄化だ」

「うぐ……ごめん兄ちゃん」

「まぁ、回避できたんだしこの話はこれで終わり! ……それじゃ、早いとこ他の奴らと合流しようぜ。魔王についてお前らと共有したい事もあるしな」


 そう告げた兄ちゃんが珍しく真面目な顔をしていて、なぜだか心がざわついた。

 一体兄ちゃんは何を知っているんだろう。


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