【8】騎士時代-副都③side:D(前半)
物心ついた時から俺の周りには常に悪意が溢れていた。
貴族の家に忌み子として生を受けた俺は、世間体を気にした両親の判断で表向きは病弱な子供として家から出る事を禁じられて育った。
産んだ責任故か必要最低限の衣食住は用意してくれたので生活に困ることは無かったが、何をしても忌まわしげに睨まれるのは結構堪えた。血の繋がった家族も使用人も皆俺を見ると顔を歪ませる。
それでも『忌み子』の境遇としては比較的マシな部類だったはずだ。
俺としては殺された方が楽だったと幼心に思ったものだが。
俺は労働が可能となる13歳となるまでその家で過ごした。誕生日を迎え、義務は果たしたとばかりに勘当された俺が目指したのは騎士だ。
なぜ騎士を目指したかといえば、あの家の書庫にあった1冊の冒険譚がきっかけだった。
それは世界を旅する騎士がいろんなところで魔物を倒して人々を救う話で、魔物を倒して英雄と呼ばれる騎士に憧れたのだ。俺が魔物を倒せば忌み子でもこの騎士のように認めてもらえるんじゃないか――そんな思いと共に。
あの家は貴族だけあって本だけは豊富にあったから、時間が有り余っていた俺はとにかく知識を身につけた。実技があると知った時は正直落ちたと思ったが、なんとか無事養成学校に入学を果たせた俺は騎士候補生として3年間をこの学校で過ごすことになったのだ。
養成学校へ入っても俺に向けられる感情は変わらずだった。
俺が何を成しても常に忌み子というレッテルがつきまとう。
俺にはどうやら剣の才能があったらしく、鍛錬を積めば積むほど強くなっていく。
それに比例して俺に向けられる悪意も増した。
――こんな奴らに認めてもらう必要なんてあるのだろうか
冷めた心は次第にそんなことを考えるようになった。
そんな時、俺はオズ——オズワルト・クローセムと出会った。
初対面で俺を見て固まっていたオズの印象は他の奴らと変わらなかった。
だがその数日後から突然、オズの珍行動が始まった。
どこからともなくオズが現れ挨拶だけして去っていく。
最初は、突き放すような態度を取り続ける俺に笑顔を向けてくるあいつの真意が分からず警戒したしつれない態度をとった。
だが俺がどういう態度を取ろうが、オズは変わらない。
そのうちだんだんと『こいつはただの阿呆なんじゃないか』と思い始め、なんとなく無碍に扱うことに罪悪感を覚えるようになった。
だからある日、気まぐれに挨拶を返してやったんだ。
そしたらオズがキラキラした目で見上げてきて、嬉しそうに笑うから——その表情見たさにその日以降も言葉を返すようになった。
どうせ今だけだ。すぐにこいつも離れていく。
期待なんてするだけ無駄だ。今まで何度、それで傷ついてきたことか。
そう思うのになんだかんだ理由をつけてオズに隣を許してしまうのは、いい加減俺自身が1人でいる事に限界を感じていたからかもしれない。
知り合いという表現が近い微妙な距離感に転機が訪れたのは、俺が上級生に囲まれたあの日。
俺は思い切って以前から気になっていた事を聞いたのだ。
それはオズの友人達が話していた魔物の子でも忌み子でもない俺の新しい呼び名の事。
俺を夜と呼ぶ意図を聞くのにかなり勇気を出して聞いたのだが、当人からは意図どころか口説き文句までついてきて恥ずかしさのあまり爆発するかと思った。
だけど、ドがつくほど直球なオズの言葉だからこそ臆病な俺の心によく響いた。
すごく……嬉しかった。
それを機に俺はオズを拒むのをやめた。