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【75】封じられた地②side:D


 息をつく暇もなく、オズの魔弾が飛んでくる。

 オズを傷つけずに無力化する方法も思いつかず、故に俺はオズの魔弾をひたすら躱し続けるしかできなかった。

 こんなところで体力と時間を消費している場合じゃないと、頭では分かっているのに。

 どうしてもオズに剣を向ける覚悟ができなかった。

 魔弾を躱し飛びかかってきた魔物を斬り伏せながら、現実を受け止めきれず鈍い思考を無理やり動かし続ける。

 これは絶対オズの意思であるはずがない。


 考えろ、思考を止めるな。最善策を導き出せ。


 ふと頭をよぎったのは『瘴気による精神干渉』。

 だがオズを見る限り明らかに狂化の症状ではない。

 オズの意思を歪めているのは何だ?

 この状況、まるで洗脳のような……そこまで考えてハッとした。


――魔法、もしくは魔物の能力なのだとしたら?


 事実、そういった類の魔法が存在していたと噂で聞いた事があった。

 であれば、今俺にできる最善は浄化が使える2人――リュネーゼかルーチェとの合流まで耐える事。

 心臓めがけて飛んできた魔弾を剣で弾いてから、額から流れ落ちる血を乱暴に拭った。


「……、くそっ」


 いつもなら簡単に屠れる魔物相手に怪我やたらとが多いのは、オズがいるからだろう。

 オズとは互いに剣でしか手合わせをした事がなかったが、こうして戦ってみるとこちらの動きを阻害するように撃ち込まれる魔弾がいかに厄介かよく分かった。魔弾に意識を向ければ魔物の攻撃が、魔物に意識を向ければ魔弾が飛んでくるので気が抜けないのだ。

 かすり傷と引き換えに仲間の気配を探ってみたが、合流まで後少し時間がかかるだろう。

 ままならなぬ現状に募る苛立ちを吐き出しながら、俺は目の前の戦闘に意識を集中させた。





 視界端で俺に飛びかかろうとしていた魔物が光に焼き尽くされて蒸発する。


「ディアっ、大丈夫か!」

「……アルムか」

「ってかなんだよこの展開!」


 どうやら一番近くに在った気配はアルムのものだったらしい。

 浄化を持つ2人のどちらかではなかった事に落胆したが、頼もしい事には変わりなかった。

 俺の代わりに魔物を受け持ってくれるアルムを横目に他の仲間の位置を探ったが、3人目の合流にはまだ時間がかかりそうだ。しばらくはアルムと2人で切り抜けるしかないだろう。


「……ディアは魔物を抑えててくれる? オレがオズの相手をするから」

「オズは操られているだけなんだ、そんなオズを傷つけるのは駄目だ!」

「駄目って、じゃあどうするつもりだよ」

「このまま耐えるッ」


 魔物を倒し続けてもこの戦いは終わらない——そんな事はわかってる。

 周囲をゆらめく黒いモヤから魔物が産み落とされている光景をもう何度も見ているのだ。

 この状況を切り崩す方法は3人目の合流を待つか、あるいは……オズを無力化するか。


「ディア、どいてくれ!」

「いやだっ! オズを守るって約束したんだッ!」

「ディア、後ろッ——」


 腹を突き抜けていった衝撃に、熱に、遅れてきた痛みに――息が詰まる。

 ぶわりと脂汗のようなものが(にじ)み始める中、魔弾が当たったのだと気づいた。


「——ッ」


 耐えきれず膝をついた俺の頭に、コツンと硬いものが当たる。

 痛みに顔を顰めながら見上げれば、眼前に――銃口。

 視線をずらしてオズを見やれば、見たこともないほど冷め切った灰色の瞳が俺を見下ろしていた。

 目の前に迫る死の気配に、そしてそれをもたらす者がオズという事実に……思考が鈍る。

 俺は凍りついたまま、魔銃の引き金にオズの指がかかるのをぼんやりと眺めていた。


——違和感


 ダァンッと、至近距離で響く銃声に耳鳴りがする。

 ギリギリで滑り込ませて銃口を逸らした代償に、左手が焼けるように痛い。

 おかげでモヤがかっていた思考が一瞬で晴れたのは僥倖だ。

 光の加減か青みがかったように見える灰色の瞳を真っ直ぐ見つめながら、問いかける。


「お前は、()だ?」


 激痛に歯を食いしばりながら、俺はオズ――否()()()姿()()()()()()を睨みつけた。

 耳朶にあいたピアス穴、手の甲に残る古傷。

 身体は間違いなく俺がよく知るオズのものだ。

 だが銃の握り方がオズのそれと違う。よく見れば構え方も、立ち方も、オズとは微妙に違った。

 つまり中身だけはオズではない。

 ギリギリだったが、撃ち抜かれる前に気づけてよかった。


 視界の端でアルムの剣が煌めく。

 この隙を好機と捉えたのだろう、アルムはオズを傷つけて無力化する気だ。

 オズを庇うようにアルムの剣を弾いてしまったのは、もはや反射だった。

 やってしまった、と後悔する間も無く銃口がアルムに向けられ——。


「ちょーっと待ったぁッ!」






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登場人物紹介にも書いたディアの趣味がここで遺憾無く発揮されるという。

傷の位置とか癖とか断言するディアまじやべぇなって書いてて思いました。

ホクロの位置とかも当たり前のように覚えていそう。


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