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【74】封じられた地①side:A&D


side:A


 目の前で、オズが消えた。

 祠から溢れた闇に飲み込まれて――消えた。


「……え?」


 手を伸ばす暇もなかった。


「なんだ、これ」


 自分の声がまるで他人のもののように聞こえた。

 こんな展開なんて知らない。

 他の守護者達に止められながら半狂乱で祠の向こうに手を伸ばすディアを横目に、一周回って冷静になった頭で考える。

 瘴気に(まみ)れた北の大地で只人であるオズは一体どれだけ保つだろう。

 早く助けなければ、多分オズの命はない。


「ディア、オズを助けたきゃ突っ走らないでよ」


 思いの外ひどく冷たい声がでた。そんなオレを睨みつけたディアは唇を思い切り噛み締め、激情を堪えるように目を閉じる。


「——ッ! ……わかっ、ているッ」


 今までだったら暴走していただろう。

 そんなディアを変えたのは……オズだ。

 

 息が詰まりそうな程緊迫した空気の中、オレ達は無言で虚空へ手を伸ばした。




 一瞬の浮遊感ののち、気づくとオレは岩と砂しかない場所に立っていた。

 ところどころに見える黒いモヤは瘴気だろう。目に見えるほど濃度が濃いからか、少し息苦しく感じた。

 誰の声も聞こえなくて後ろを見ても誰もいない。

 ハッとして周りを見渡しても呼びかけたけど誰の姿も見つけられなかった。どうやら俺は1人らしい。

 すぐさま仲間の気配を探ってみれば、遠くに微かな気配を感じてホッとする。

 どうやら皆バラバラに飛ばされたらしい。

 早く合流した方がいいだろう。背後に忍び寄っていた魔物を光で焼き殺して、仲間のいる方向へ駆け出した。


 道中、俺の頭をぐるぐると巡っていたのは悪い方向に変わってしまったシナリオについて。

 シナリオだと、レントルの町の町長が祠を開けてくれるはずだった。

 その時はこんな風に引き摺り込まれる事なんてなかったし、バラバラに別れる事もなかった。

 なんで今回はオズが連れ去られた?

 どうしてこの未来にいきついた?

 ディアが敵に行かなかったから?

 いつも既知の未来をあんなに疑っていたくせに、今回に限って慢心した自分が嫌になる。

 そのせいで、今まで一緒に旅をしていた身近な存在が死ぬかもしれない。そうなったら、悔やんでも悔やみきれない。


 ふと、先程のディアの表情が思い浮かんだ。

 祠の奥を睨みつけていたディアの表情は、憎悪に染まったヘルトのものによく似ていた。

 だんだんと悪い方向へ思考が染まっていく。

 もしオズが死んでしまったら。ディアは正気を保てるだろうか。

 もし、もしも……。

 まとわりついてくる最悪な『もしも』を頭を振って振り払う。

 考えろ、考えるんだ。

 こう言う時、兄ちゃんなら何を考える?

 兄ちゃんならなんて言った?


「……大丈夫。絶対にオズを助けてハッピーエンドにしてみせるんだ!」


 根拠なんてない。

 ないけど、気づけば自分を鼓舞するように大声で叫んでいた。



*side:D



 自分が正気かどうかもわからないまま、俺は見知らぬ砂と瓦礫の大地を走っていた。

 気づけばまわりには誰もいなかった。おそらく転移した時に離れたのだろう。

 そんな事よりも、俺を突き動かすのはオズへの心配と、元凶への殺意。

 オズを攫った奴が許せない。オズを害する奴を殺してしまいたい。

 行き場のない怒りを近くにいた魔物で晴らしながら目指すのは、はるか遠くに見える黒々とした城だ。

 あそこからおぞましい気配がするのだ。おそらく魔王がいるのだろう。

 ……ならば、きっとオズもあそこにいる。

 急がなければ。オズが、瘴気に飲まれる前に。

 オズを奪い返し、魔王を討つのだ。


 魔物を散らしながら全速力で駆けていると、あちらこちらに見知った気配を感じて少し冷静になる。

 ひとまずは他の守護者(奴ら)と合流するべきだろう。

 以前のように1人で突っ走って敗北することは絶対に許されない。

 オズの元へ向かいたいと叫ぶ心と押し殺し、荒れ狂う感情を必死に抑えて、一番近い気配と合流するべく地を蹴った。


——大丈夫、オズはきっと無事だ。


 時折頭を(もた)げる、最悪の想像を打ち払いながら必死に足を動かす。


——絶対、俺が取り戻す。


 だからそれまで、どうか。

 お願いだから、無事でいてくれ……オズッ。


 進路を邪魔する魔物を一太刀で斬り伏せながら進んでいた俺の前に、岩陰からゆらりと新たなが影が現れる。

 無意識に斬り伏せようとして――慌てて剣を手放した。

 駆けていた足が止まる。

 今までどれだけ夢中で走っていたのだろう、息が苦しい。

 はぁ、はぁ、と荒い自分の呼吸が耳に届いた。

 だけどそんな事はどうでも良い。

 今は何よりも大事なのは、目の前の存在なのだから。


「オ、ズ?」


 掠れた声で名前を呼べば、俯いていたオズがゆっくりと顔をあげた。


「……」


 ぼんやりとしているのが少し気になったが、訳もわからず瘴気の濃いこの土地に攫われてしまったのだから無理も無い。早いところリュネーゼを探して浄化をかけてもらった方がいいだろう。

 それでもこうして早々にオズと再会できて本当に良かった。


「オズ、怪我はないか? 守れなくてすまなかった。意図せず北の大地に来てしまったんだ、不安なんだろう? だが絶対に俺がお前を守り通して見せるから安心してくれ」


 駆け寄って正面から肩を掴んで顔を覗き込む。


「オズ? やはり身体が辛いのか? それなら俺が――」


 オズの動きに、咄嗟に体が動いた。


「オ、ズ……?」


 向けられた銃口に、信じられない気持ちでオズの灰色の瞳を見つめた。


「何を、しているんだ?」


 その問いにオズは答えないまま、嘲笑うような笑みを浮かべ、また躊躇なく引き金を引いた。

 肩が熱い。

 信じられない。

 信じたくない。

 何故、なんで、どうして。

 オズの灰色の目に込められているのは、拒絶と殺意。そこに狂化している様子は見られなかった。

 頭が理解を拒む。

 そんな俺へ遅れてやってきた痛みが現実を突きつけてくる。


「なぁオズ、冗談はやめてくれ」


 震える手を伸ばす。思いの外弱々しい声が出た。

 冗談だったと手を取ってくれ。

 銃声が響く。

 えぐられた頬がじくじくと痛んだ。


「どうして」


 嫌だ。なんで。

 俺にこんな未来を課した女神を本気で恨みたくなった。





 \SAN値チェックのお時間です/

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