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【69】ゆかりの地⑥


 殻を破るが如く地面の下から現れた光り輝く岩の巨人は動きこそ遅いものの、その巨体から放たれる攻撃は直撃すれば守護者だろうが致命傷になるであろう容赦のない一撃だった。当然掠っただけでも重症一直線なので気が抜けない。

 加えてこの暑さだ。体力の消耗が激しくテネジアの森とは別の意味で厳しい戦いと言えるだろう。


 短期決戦を望む俺達だったけど、この巨人、岩の装甲が硬すぎて内部の核に攻撃が届かないのだ。

 今までみたいに石を取り外して弱体化という戦略がとれない為、決定打を与えられずに戦況は停滞してしまっていた。


 このまま続ければジリ貧になりかねない状況——それを覆したのはカイゼスである。

 突然キレ始めたかと思えば、罵詈雑言を撒き散らしながら魔物に接近し眩しく輝く炎に覆われた大斧の一振りで岩の装甲を深く傷つけたのだ。正確には溶かしたと言うべきだろうか。

 炎の属性に偏る場だから出来たみたいだけど、難攻不落の装甲を破壊してしまう快心の一撃は凄まじいの一言に尽きた。ともかくこれより突破口は開けた。

 ガス欠となったカイゼスに代わってアルム少年が中心となり裂け目を押し広げて石の奪取に成功。

 その後はいつもと同じ手筈で弱体化した魔物を討伐するに至ったのだ。


 汗だくになりながら手に入れた5つ目——光の石がルーチェ嬢の手に沈んでいく。

 ついに、あと1個のところまできたわけだけどもうすぐ日が沈むような時間帯だ。

 力を使い果たしてバテているカイゼスもいるし、このままシャハガ洞窟へ向かうのはよした方がいいだろう。

 行く先を決めかねていたら、シュゼッタがおずおずと手を挙げた。


「それなら、様子見も兼ねて南の大陸に行くのはどうだろう?」


 その提案により、俺達は南の大陸へ向かう事を決めたのだった。





 以前ディアと2人で迷い込んだ神殿に降り立った俺達は、日が沈む前に集落へたどり着けた。

 ぽつぽつとある真新しい家は俺達が旅だった後に建てられたものだろうか。

 魔物襲撃の爪痕もざっと見渡した程度ではわからないくらいに復興が進んでいるようだった。


「皆、息災のようで安心しました。シュゼッタも良い表情をするようになりましたね」

「ありがとうございます、お婆様」

「それで、貴方達は何故ここへ? もしやまた何か問題が?」

「実は――」


 夕飯をご馳走になりながらここまでの事を簡潔に話せばネルゼさんは食事の手を止めて考え込むような仕草をした。


「なるほど……最近魔物が多かったのはそういう理由でしたか。クラス4も現れましたし」

「! お婆様、被害は――」

「我々だけでは危なかったでしょうが……ガバラと例の彼が手を貸してくれましたからね」


 ガバラさんがクラス4を相手取れる程強いと知ってかなり驚いた。

 あの人、引きこもりって聞いていたからてっきり非戦闘民だと思ってたんだけど。

 そして何より——。


「例の彼って…………まさか」

「えぇ、以前集落を救ってくれた彼ですよ。相変わらず名は名乗ってくれませんでしたが」


 まさかここで再びヘルトの話を聞く事になるとは思わなかった。


「ネルゼさん、彼はどこへ行ったかわかりますか?」

「どこへ行ったかはわかりませんが、やらなければならない事があると言ってガバラと一緒に旅立っていきましたよ。しばらく戻っては来ないでしょう。結界の魔道具をしこたま置いていきましたから」


 アルム少年を見ればあんぐりしていたので、ヘルト達の行動は完全に予想外なのだろう。

 そもそもゲームなら『ヘルト』は俺達と行動しているわけだしな。

 ますますヘルトの行動の謎が深まる中、ネルゼさんに夜も遅いから泊まっていくよう勧められた俺達は、有り難くその申し出を受ける事になった。


 薄暗い部屋の中、ふと、目が覚める。

 寝ぼけた頭でもう朝かと見上げた窓の外は深い夜の色なのでまだ夜明けですらないはずだ。

 もう一眠りしようと目をつぶるもなんとなく眠る気になれなくて、静かに身体を起こした。

 微かな寝息が聞こえる部屋に目を凝らせば目に入ってきたのは自由な位置取りで床に敷かれた4つの布団。

 シュゼッタ以外の男性陣は皆同じ部屋なわけだけど、改めて見ると位置取りに個性が感じられてなかなかに面白い。


 ようやく暗闇に目が慣れてきたところでふとドミニクの布団が空っぽな事に気づき、少し気になった。

 俺が起きる前からいなかったのだ、まだ戻ってきてない事を考えれば手洗いの類ではないのだろう。

 一応様子を見てくるかと立ち上がろうとした、次の瞬間。


「——ッ!?」


 隣に並んだ布団から伸びてきた白い手が俺の足首を掴むものだから、たまらず叫びそうになった。

 誰か、声を殺し切った俺を褒めてほしい。

 バクバクいってる心臓を落ち着かせながら恨めしい気持ちでその手の主を見下ろせば、不機嫌そうなこちらを見上げるディアと目があった。


「どこに行く」

「…………おま、……なんッ」

「む、大丈夫か?」

「大丈夫かじゃねぇわ。……ドミニクを探しに行こうと思ってさ。お前は寝てていいぞ」

「そうか」


 するりと猫のように布団から抜け出し扉へ向かってしまったディアを見、小さなため息が溢れた。

 どうやら俺の意見は聞き入れてもらえないらしい。


「オズ」

「今行く」


 最近のディアはなんだか押しが強い——なんて事を考えながら、俺も扉へと向かった。




 部屋を抜け出して家の外に出れば、湿った風が頬を撫でる。

 森全体が眠りについているような静けさの中周囲を見渡せば、ここから少し離れたところに積まれた丸太に腰掛けるドミニクの姿を見つけた。


「ディア、ちょっとこっち」

「? わかった」


 物陰にディアを引っ張りこんでドミニクの様子を窺う。

 いつも真っ直ぐ伸びている背中は、今は自信なさげに丸まっていた。


「オズ、声をかけないのか?」

「んーどうしようか悩み中。俺達が話しかけても悪化しそうなんだよなぁ」

「悪化?」

「多分だけどあいつがああなっている理由ってさ、1人だけ第2覚醒が遅れてるからじゃないかって思うんだ」


 覇気のない背中を見つめながら思い浮かべたのはシュゼッタ覚醒時の時のドミニクの態度。

 あの時から違和感を感じてそれとなく観察していたから、大きく間違ってはいないはずだ。


 一緒に旅する中で分かった事だけど、ドミニクは余程の無理難題は別として自分が『できない事』『人よりも劣る事』を嫌う奴だ。良く言えば負けず嫌い、悪く言えば傲慢である。

 そんなあいつに非守護者の俺の言葉は響かないだろうし、真っ先に覚醒したディアの言葉は逆効果でしかないはずだ。


「シャハガのシナリオでドミニクが第2覚醒するって話だから、いっその事伝えたいけど」

「頭の心配をされるぞ」

「だよなぁ」

「そこまで心配せずともあいつなら大丈夫な気もするが——オズ」


 どうしたと目線だけで問い掛ければ、ディアが無言で後ろを振り返る。


「ふふ、こんばんわ」


 そこにいたのは、軽く腕を組んで(あで)やかに微笑むリュネーゼだった。


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