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【7】騎士時代-副都②



 日が昇ると共に賑わい始める街中を後にして連れてこられたのは騎士寮の一室。ディアは今ここに住んでいるらしかった。


「何故オズがここにいる」

「実はさ——」


 候補生の時もついぞ入ることのなかったディアの部屋にそわそわしつつ経緯を話すと、ディアの表情がだんだんと頭痛を堪えるようなものに変化していく。

 時折ひくひくと頬を引き攣らせているから俺の行動はよっぽど衝撃的だったみたいだ。


「……噂なんて今更だろう」

「今更だろうがなんだろうがあんなん聞いたら心配にもなるって」

「だからといってこんな事に貴重な休みを使うな」

「こんなことってなんだ。俺にとっちゃお前は休み以上の価値だよ」


 そう伝えれば、ディアは美貌をほんのり赤らめて「そ、そうか」ともにょもにょ呟いていた。相変わらず照れ方が初々しくて可愛い。


「話も済んだことだし、はいこれ」


 副都の土産をひょいひょいとカバンから取り出しディアに押し付けていけば、ディアはその顔に戸惑いと苦笑を浮かべながら受け取ってくれた。


「あ、あとこれも」


 俺はカバンの隅にちょこんと収まっていた小綺麗な包みを取り出すと、ディアの手の上にぽんとのせる。


「……? 誕生日はまだだが」

「それも土産だから。それを買う時雑貨屋のお姉さんに誰に渡すか聞かれてさ、美人で強くて可愛い大好きな友人って伝えたら何故かそんな姿に」

「お前はまた……、……開けていいか?」


 頷く俺を一瞥してディアが壊れものを扱う様な手付きで包みを開けていく。


「これは……」

「ディア、髪が長いから留めるのにいいかなって」


 ディアがまじまじと眺めるそれは、茶色地に銀のラインがあしらわれたバレッタだ。仕事帰りに店頭それを見た時、ディアがそれを付けている情景が浮かんできて衝動的に買ってしまった。まぁ、色味的には落ち着いたものなので男女問わず問わず使えそうだし問題ないだろう。

 そう結論づけて、不思議そうにバレッタを見ているディアに使い方を教えるべく俺はディアの隣に移動した。



*side:D



 養成学校の時もそうだったが相変わらずの貢ぎ癖だと忍び笑う。

 この半年間街に寄る度につい買ってしまったという土産の量は、積もりに積もって相当だった。役目を果たし終えてぺちゃんこになったオズの大きな鞄を横目に、俺は嬉しさと呆れと照れ臭さがないまぜになった吐息が自然と口からこぼれる。


 この半年間オズは俺の事を忘れていなかった。

 しかも俺を心配してわざわざ住所も予定も知らないのに会いに来たのだ。その行動に呆れはしたけど、たまらなく嬉しかったのも事実である。


「どうやって付けるんだ?」

「あ、じゃあ髪いじっていいか? 実際にやった方が分かるだろうし」

「あぁ」


 今まで髪に触れられる事なんてなかったから、時折頭皮を優しく撫でていくオズの指先がくすぐったくて落ち着かない。だがいつもよりオズを近くで感じられるこの距離感が嫌いじゃなかった。


「よし、完成」


 離れていく温もりに少し名残惜しさ感じつつオズから渡された鏡と向き合えば、そこには随分と穏やかな顔をした自分が映っていた。

 オズがいるだけで、強張っていた心が嘘みたいに解きほぐされていく。


「後ろ髪の上半分を集めてバレッタで留めるだけだからそんなに難しくは——ディア?」

「すまない。途中からぼーっとしていた」

「んー熱は……なさそうだな」


 額にオズの手のひらの温もりを感じて、俺は思わず目を細めてその熱に浸る。だがそれを甘受できたのは少しだけ。

 その後に放たれた言葉で俺は一気に冷水を浴びせられた気分に陥った。


「ディアの顔も見れたし、そろそろ帰るわ」

「オズ?」

「疲れてる所に押し掛けて悪かった」


 上着に手を伸ばすオズを見て、俺はようやく言葉の意味を理解する。瞬間、腹の奥に燻っていた身勝手な欲望が蠢き出す。


 帰らないで。

 ずっと俺の隣にいて。


「いやだ」


 思わず漏れた声と共に上着を持つオズの腕をギュッと胸に抱き込めば、オズは戸惑いながらも俺をあやすように頭を撫でてくれた。


「ディア、どうした?」

「……」


 噂だって、本当は平気じゃない。

 辛いし苦しい。

 ただ、平気なフリをしていただけだ。

 憧れも希望も全部捨てたつもりだった俺に希望を持たせておいて、置いていかないで。


 これ以上口を開けば何を漏らすかわからないと、ダンマリを決め込む俺に何を思ったのか、オズは俺を抱き込むと背中をぽんぽんと優しく叩き始めた。

 一定のリズムで繰り返されるそれにささくれだった気持ちがだんだんと落ち着いてくる。


 すぐにいつもの俺に戻るから。

 もう少しだけ、このままでいさせて。


 俺はオズの胸に額を押し付けると、祈るように目を固く閉じた。


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