【52】西の大陸②
当たって欲しくない予感程的中するものである。
「何してるのよあの子達は!」
人混みに紛れて様子を窺う俺たちの前方には、帝国兵に包囲されたアルム少年達の姿があった。
焦燥を滲ませるリュネーゼの隣で状況を把握するべく周囲の見物人達に耳を澄ませる。
守護者って言葉がちらほらと聞こえてくるので正体が露呈したのかと焦ったけどそれにしては取り囲む兵士の数が少ない気がした。見た感じ普通の兵士だし、強いと噂の守護者にしては6人ってお粗末すぎじゃないか?
まずはなんとかしてこの騒動の原因を突き止めないと——なんて考えていたんだけど、その答えは兵士の口から明らかになった。
「そいつは守護者の関係者の疑いがあるのだ、大人しく引き渡せ! さもなくば貴様らも連行するぞ」
はて、……関係者?
よく見ればアルム少年達の後ろにうずくまっている少年がいた。見たところ12歳くらいだろうか、ミュイ嬢くらいの錆色髪の少年だ。俯いたまま動かないのでもしかすると怪我をしてるのかもしれない。
少年を連れた上でこの人混みを穏便に抜けるのは……少々厄介かもしれないな。
どうする?と視線で尋ねてきたディアにちょいちょいと手招きすれば、怪訝な顔で顔を寄せてきた。
ここはやっぱり、アレしかないよな。
「耳かして」
「……嫌な予感がするんだが」
耳元でごにょごにょと案を囁けば、案の定ディアは眉間に皺を寄せものすごく嫌そうに顔を歪めた。
「んじゃいつも通りに頼んだぜ」
「結構難しいんだぞ、あれ」
諦観の表情でわかったと頷くディアをチラ見してから、俺はひと呼吸してそっと懐に手を忍ばせた。
アルム少年達の様子を伺いながら上着のポケットを探れば、目当てのもの――小さな球体は容易に見つかった。
それに魔力を込めつつディアに横目で合図を送れば、軽く頷いたディアが人に押されてよろけた風を装ってトンと軽くぶつかってくる。そのタイミングで耳元に顔を近づけ、一言。
「5」
「ん」
ディアにはそれだけで伝わっただろう。さーて、それじゃあ俺も5秒後に向けて行動開始だ。
『1』
俺はディアのローブで右手を隠しながら、手の中の球体を下から投げ転がした。
『2』
親指程の灰色の球体はうまい具合に人の足元をぬって地面を軽快に転がっていく。
よっし、このままうまく抜けてくれよ。
『3』
無事人の層を抜けたそれは、狙い通りにアルム少年達と兵士の間まで転がっていった。
ここまでくれば成功したも同然だろう。
今の所兵士がそれに気づいた様子もない。
『4』
そして――次の瞬間。
アルム少年達を注視していた兵士達の足元から、閃光がほとばしった。
何が起こったのか分からず混乱する人達に向けて、極めつけはこれ。
「まさか敵襲!?」
なーんて慌て声で叫べば、あたりは騒然。
俺の言葉を間に受けた見物人達が「敵だって!?」「逃げろ!」と喚いて勝手に場を乱してくれる。
兵士達の包囲網が崩れた隙にアルム少年達が路地裏へ逃げ込んだのを確認してから俺達も人の流れに紛れその場を後にした。
「一体今のはなにかしら!?」
「目潰し陽動作戦的な?」
俺が使ったのは一定の魔力を流す事で起動するタイプの閃光弾だ。
あれだけ至近距離で光を直視すればしばらくの間使い物にならないだろう。
ちなみに俺達が無事な理由は割と単純で、閃光弾が弾ける直前俺達の視界をディアの力で覆っただけだ。
まぁ座標と力の調整を複数同時に行うのはディアでも難しいらしく、これをやろうとするといつも嫌そうな顔するんだけどな。そう簡単に説明すれば、リュネーゼは疲れた表情でため息をついた。
「あなた達ねぇ、何かやるなら今度は教えてくれるかしら?」
「へーい」
「発案はオズなんだが……」
「止めなかった時点であなたも同罪よ」
「よう、共犯者」
腑に落ちないとぶすくれていたディアを横目に苦笑しつつ俺はルーチェ嬢を見やる。
「ルーチェ嬢、アルム少年達のところまで道案内頼めるか?」
「問題ない、任せて」
ある程度距離は離れたし周りに兵士もいないので、早速アルム少年達と合流しに行こうか。
6人目の手がかりっぽいあの少年についても気になるしな。
人の気配に注意を払いながら俺達は気配を辿り始めたルーチェ嬢を追って路地裏に足を踏み入れた。
時折遠くの方から聞こえる騒がしい声に耳を澄ませれば、未だ兵士達がアルム少年達の行方を追っているのがわかる。この様子なら少年達は無事に逃げ切っていると判断して問題ないだろう。
時折感じる仄暗い視線の主を牽制しつつ、入り組んだ細道をどんどん進んでいく。
「ディア」
「あぁ。待ち伏せか」
前方あたりに感じた気配。
ルーチェ嬢とリュネーゼを制止しディアと2人武器を手をかけたタイミングで、横の細道から現れ俺達の行く手を塞いだのは人相の悪い男達だ。
さて、こいつらをどうしようかね。
あんまり騒ぎを起こしたくないし、さっさとアルム少年達と合流したいんだけどな。




