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【51】西の大陸①


 あの後急ぎ集落に戻った俺達はアルム少年達に事情を話して公国の港町に戻りすぐさま南の大陸を発った。

 別れを惜しむ間もなかったわけだけど、今回ばかりは悠長になんてしていたら国が滅びかねないし6人目の命だって危ないのだからやむおえない。

 そうして西の大陸の端――ガルゲン帝国の港町へと到着した俺達は着いて早々、手分けして守護者の手がかりを集める事になった。

 今までのように宰相殿やウェンの力を借りれたらよかったんだけど、予定外のトラブルもあって手がかり探しが難航しているらしい。

 なので現状としては6人目の守護者らしき人物が少し前にこの街に居たとしかわからないとのことだ。

 一応、アルム少年のゲーム知識で6人目はカイゼスという燃えるような夕陽色の髪をした傭兵団のリーダーって事は分かっているんだけど、流石に居場所まではわからないらしかった。


「名前と特徴までわかってるなら、総当たりで聞いていく……でいいのか?」

「シュゼッタ、それは避けた方が無難かと。ただでさえ今の帝国は他所者に当たりが強いんです。そんな事をしていれば通報されかねませんよ。対象の傭兵団にも下手をすれば警戒されてしまうでしょうし」

「ある程度までは偶然を装って近づいた方がいいかもな。後は……そうだなぁ、ついでに今の帝国事情も念の為仕入れとくか」


 そんなわけで、手がかり集めの始まりだ。

 アルム少年達は市場の方で聞き込みを行うというので、俺達――俺、ディア、リュネーゼ、ルーチェ嬢の4人だ――は冒険者ギルドで聞き込み予定である。狙い目は併設された食事処とかかな。

 酒を挟んで聞けばいい感じに聞けるんじゃないだろうか。

 というわけで。


「――でさぁ、一旗あげてやろうと帝国に来たんだけどなんかものものしくて驚いたわ。なんだあれ?」


 今の俺は少々短絡的な冒険者って設定で、相席になった冒険者のおっちゃんと歓談中。

 ギルドの食事処でたまたま相席になったおっちゃんに声をかけたら警戒されたけど、酒とつまみをそそっと献上したら、先程の警戒はどこへやら。肩を組む勢いで打ち解けられたので酒の力は偉大である。


「あぁ守護者狩りか。ほら、少し前に中央の大陸で魔王と守護者が現れたっつーお触れがでただろ。そしたらウチの王サマが陰謀だのなんだって騒ぎ始めてこの有様さ。中央と南から来た奴らには目を光らせてるって話だぜ」


 幸運にも生粋の帝国人なおっちゃんはここ最近の事情なんかも尋ねればそれはもう快く教えてくれた。


「船から降りた時にさ、わりと厳しめな検問だなって思ったんだけど……へぇ、そんな事情があったんだな」

「そういうこった。ま、しばらくは大人しくしといた方が身のためだぜ。下手に目立てば疑われて最悪処刑だ」

「えぇ……せっかく来たのにそりゃないぜ。あ、とにかく間違われなけりゃいいんだろ? 守護者の特徴とかってねぇの?」


 俺の言葉に呆れ笑いを浮かべたおっちゃんは、酒を飲みながら受付近くの壁に向かって顎をしゃくった。


「ほれ、あの紙に書いてある。……つっても特徴なんてほとんど書かれてないけどな」


 男が示してくれたもの――帝国の紋章入りの紙に記載されていたのはざっくり言えば『人間離れした強さ』ってのと『守護者の中に黒髪赤目の忌み子がいる』って事の2点。

 さりげなさを装って紙をチラ見する俺の内心はドッキドキである。

 あっぶねぇ……なんて心の中で叫んでいたら、ほろ酔い気分のおっちゃんが「それにしてもよぉ」と急に肩を組んできた。


「お前、別嬪()()も連れて冒険たぁやるじゃねぇか」

「……は、はは。それはドーモ」


 やにさがった顔でジロジロと見るおっちゃんに対する3人の反応はそれぞれだ。1人は蠱惑的な笑みを浮かべて手慣れた対応をしているし、もう1人は我関せずともぐもぐ肉串を頬張っている。

 そして残りのもう1人といえば……ものすごく嫌そうに眉を寄せて、への字口の不機嫌顔だ。


「良かったな、美人だってさ――痛ッ!?」





 その後もそれとなく傭兵について聞いたりしてある程度情報を引き出せた俺達は一旦酒場を後にした。


「いやぁ、変装して大正解だったな。ディア()()()?」

「……おい」

「変装っていうかローブに着替えただけだけど。体型隠しただけで性別詐欺できるとか流石中性美人」

「……後で覚えてろよオズ」

「は、やなこった」


 俺にジト目を向けているディアは現在、灰色髪に青色の瞳の魔法師姿だ。


「しっかしその魔道具すごいわね」

「それな」


 現在ディアの配色を変化させているのはガバラさん作の色変えの魔道具である。

 南の大陸を出発するにあたり、死蔵していたから丁度いいとばかりにガバラさんがぽいと寄越してきたのだ。

 見た目は指先サイズ程の透明なレンズで、それを目に付けて魔力を込めればたちまち髪色と瞳の色が変わるのである。目に入れて使うなんて前代未聞すぎて狂気の沙汰かと思った。

 ちなみに、つけ外しさえ慣れてしまえばつけ心地は思いの外悪くないとは使用しているディアの談。

 初めてこれを使ったとき、ディアはしばらく鏡の前でしばらく固まっていたっけな……。


「なんにせよディアは今後もそれをつけていた方が良さそうね。……あの内容じゃ剣士姿でも問題なさそうだけど」

「えー……」

「……いつか絶対女装させてやる」

「は、やなこった」

「ほらあなた達、戯れてないで次行くわよ」

「手がかり、探そ」

「「戯れてない」」

 

 それからも手がかり探しに奔走したけど、依然として6人目の手がかりは見つからなかった。

 ルーチェ嬢の守護者センサーにも引っかからないとなるとお手上げである。

 この後はどうしたもんかと考えていれば、急に遠くの方からざわめき声が聞こえて、思わず視線を向けた。

 ここからじゃ何が起こっているかまではわからないけど、声の感じからしてどうも荒事のにおいがする。


「……喧嘩かしら?」

「かもな。つーか、向こうって市場だよな」

「「「……」」


 俺の言葉に、3人が一斉に沈黙した。

 市場にはアルム少年達が調査に赴いているのだ。

 各々の表情を見る限り、気になったのは俺だけではないらしい。


「ねぇ一応行ってみない?」


 リュネーゼの言葉に満場一致で是を返した俺達は騒ぎの中心へ向かうのだった。


 まさか、巻き込まれてなんて……いないよな?


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