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【47】南の大陸(17)


 ヘルトが去った後、俺達は休息もそこそこに襲撃の後片付けを手伝った。

 こんな状態じゃシュゼッタの同行許可どころの話じゃない。

 当初、俺達部外者に対し集落の人達は胡乱げだったけど、片付けの片手間に言葉を交わせばそれなりに打ち解けることができた。


「え、じゃあ集落の襲撃犯って魔物なわけ?」

「あぁ。お前さんの言う特徴の兄ちゃんはむしろ魔物から俺達を助けてくれた側だ……気づいたらどっか行ってたがな。なんだ、知り合いか?」

「いや、近くで見かけたから気になってさ」


 少し焦げた木の板を担いで廃棄場へ向かう俺の脳裏に浮かぶのはヘルトの事だ。

 この襲撃で家屋の倒壊に巻き込まれたり魔物に襲われたりして少ないながら死傷者は出てしまったけど、アルム少年から聞いていた状況と比べれば随分と被害が少ない。俺達がここにたどり着いた頃には魔物は軒並み討伐し終えた後だったというし、被害が抑えられたのはヘルトの功績だろう。

 だからこそ、意図が読めなかった。


 あいつは結局、何がしたかったんだろうか。

 

 予定調和と言っていたくせに、集落を救うと言うシナリオとは違う行動をとって。

 それなのに、あえて俺達と敵対するような真似をして。

 あいつの言う予定調和とは、シナリオ通りに進めることを指すわけじゃないのだろうか。

 まぁ女神が云々とか言っていたので魔王の配下ではなさそうだけど。

 次会った時はどうにか落ち着いて話ができればなぁ……。


 その夜、族長の家に案内された俺達はそこでシュゼッタの祖母――ネルゼさんと対面した。

 廃坑(シュゼッタ)の事と襲撃(今回)の事で礼を言われた後、守護者の事について切り出したら是非とも同行させてやってくれと逆にお願いされてしまった。


「その……不躾ですが、貴女は守護者がどういうものか理解しておられますか?」

「理解していますとも。我が一族の長が代々受け継ぐ口伝の中に守護者に関するものがありますからね」


 唖然とする俺達に、ネルゼは上品な仕草でくすりと笑ってみせた。


「お婆様、それでは今回の襲撃はまさか」

「えぇ、こちらを巫女に渡せぬようにする為という可能性も大いにあるでしょう」


 手渡されたのは手のひらサイズの古びたお守り袋である。

 ルーチェ嬢は不思議そうに首を傾げながら両手でそっと受け取った。


「中、見てもいい?」

「ええ、どうぞ巫女様」


 その袋から出てきたのは大地を彷彿とさせる黄褐色の丸い宝石である。

 ルーチェ嬢の手の平の上で部屋の明かりを反射しキラキラと輝いていたそれは、突然ずぷりと手の平に吸い込まれるように沈んで見えなくなった。その光景に誰もが言葉を失う。


「え、えぇぇ!? 消えちゃいましたけど!? ルーチェ、大丈夫!?」

「大丈夫。お婆ちゃん、これは何?」

「女神の巫女に渡せという言葉と共に我が一族が受け継いできたものですが……残念ながらそれ以上の事はわかりません」

「何故、そのようなものがこの地に」

「ここは守護者のゆかりの地の1つですから」


 その言葉に内心驚きつつアルム少年にこっそり視線を送ってみるも、申し訳なさ気に眉を下げて首を横に振っていた。


「女神の石を集めるシナリオがあるから、多分それだと思う」


 アルム少年の反応がどうにも曖昧なのは、こんな風に手に入るものではなかったかららしい。

 皆の目もあり詳しい話はまた後でって事になったんだけど、少年の曇り顔からして嫌な予感しかしない。なんにせよ、重要なものっぽい女神の石を入手できたのだから、良しだ良し!


「オズ、そろそろ報告を入れた方がいいんじゃないですか」

「……だよなぁ」

「俺も同席するからそんな顔するな、オズ」

「あの威圧感がどうにも苦手なんだよ……」


 ネルゼさんに客間を借り、ディアに慰められながら通信用の魔道具を起動した……はずだったんだけど。


「……起動しないな」

「えぇ、起動しませんね」


 目の前の魔道具はうんともすんとも言わない。


「む、叩くか?」

「やめろ」「やめてください」


 いつかのミュイ嬢のように手を振り上げたディアを慌てて止めつつ、ドミニクにアイコンタクトを送れば了解したとばかりに頷き魔道具を診はじめた。


「……どうやら起動用の魔法陣が壊れているようですね。回路の部品とかだったらなんかなりそうだったんですが、魔法陣となると流石に直せません」


 シュゼッタの同行の事とか、ヘルトの事とか、女神の石とか結構大事な報告が多いんだけど、まさかこんな時に壊れるとは思わなかった。

 そう簡単には壊れないって話だったのになぁ。一体いつ壊れたんだろう。

 このままだと6人目の情報も得られないまま探さないといけなくなりそうだしなんとかできないかな。


「街に戻って修理屋を探すか、手紙を書くか……」


「手紙は最終手段でしょうね。届くまで足止めを食らうことになりますし。それよりは修繕できる人を探した方がいいでしょう。とはいえ通信や転送の魔法陣は複雑すぎて余程の技師でない限り扱えないと聞いたことがありますし……王都ならともかくこの辺にいるかどうか」


 俺達3人でどうしたもんかと顔を突き合わせて悩んでいると、コンコンと扉を叩く音がしてシュゼッタがひょっこり顔を出した。


「旅の準備で少し聞きたい事が——何かあったのか?」

「あ、ちょうどいいところに」


 この集落に魔道具の魔法陣を修繕できる者はいないか尋ねれば、シュゼッタは眉を寄せ思案顔で唸った。


「少し待ってほしい」


 何か心当たりがあったのか荷物片手にぱたぱたと駆けていったかと思えば、ほどなくしてシュゼッタはネルゼさんを連れ戻ってきた。


「通信の魔道具ですっけ。見せてもらっても?」

「えぇ、これなんですが……」


 俺達の話を聞きながらまじまじと魔道具を見つめていたネルゼさんは、あらと声を上げて驚いたような表情を浮かべた。


「貴方達、明日はミスカの森にお行きなさいな。あの森に住むガバラというエルフならば直せるでしょう」

「えっと、…………エルフ、ですか?」

「ふふ、そうよ?」


 唖然とする俺達に、ネルゼさんは茶目っ気たっぷりににこりと笑った。



 笑顔に思わず流されかけたけど、……エルフって絶滅した種族じゃなかったっけ?


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