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【44】南の大陸(14)


 翌日、シュゼッタと合流した俺達は彼の故郷を目指して蒸し暑い森の中を進んでいた。

 シュゼッタの故郷までは街から徒歩で5日程といったところである。


「正直このまま何事もなければ嬉しいんですがね」


 草木が密集して視界が悪い周囲を鋭く見回しながらドミニクは額の汗を拭った。

 3度の襲撃の事、特異体に魔王の側近の事。

 昨夜ドミニク達には、アルム少年が朦朧とした意識の中で視た現実か夢か分からないものとして伝えている。夢と断言するにはリアリティがありすぎる事そして今までの勘もあって用心するのに越したことはないみたいな感じで警戒心を煽ったのでひとまずはこれでいいだろう。


「今のところは異様な気配はなさそうですし、特異体は現れなさそうですね」

「以前遭遇した奴は何の前触れもなく突然現れたから、あまり過信しすぎない方がいい」

「ディアでさえ感知できない気配ですか。それはまた……」


 前方で交わされるディアとドミニクの会話を聞きながら、俺は隣を歩くアルム少年にこそっと顔を寄せた。


「アルム少年、体調はどうだ?」

「前衛で魔物と戦えるくらいには元気」

「それはなにより。まぁでも昨日の今日だからしばらくは後衛で大人しくしてような」


 宥めるようにぽんぽんと頭を軽く撫でたら、アルム少年は拗ねたような表情で唇を尖らせる。

 張り詰めすぎていた気が少し緩んだのだろう、今まであまり見なかった子供っぽい仕草だ。

 微笑ましくてつい笑ってしまったらジトっとした目で抗議されてしまった。

 ごめんて。


 そんな感じで1日目、2日目は何事もなくすぎていった。

 何事も——といっても魔物は出てきたけれど、クラス3が多くだいたい守護者の一撃で戦闘が終わるので対して問題はない。どちらかというと、この蒸し暑さの中あまり整地されていないでこぼこ道を歩き続ける方が大変だった。

 事が起きたのは3日目の昼間。ついにアルム少年から聞いた話の通り特異体が現れたのである。

 その姿は想像通り、例の襲撃事件の魔物と同じ姿をしていた。

 早速討伐にかかる俺達だが気を抜けば守護者でも重症になりかねない攻撃に加え慣れない環境ということもあり、何度かヒヤリとした場面もありつつなんとか倒す事ができた。


「こいつ……本当にクラス4か?」


 たった今動かなくなった魔物をディアは険しい表情で見下ろしている。

 この特異体にまともに傷をつけられたのはディアとアルム少年の2人だけで、過去に戦った個体よりも明らかに強かった。以前もしもこいつに出会っていたら先行部隊は全滅していただろう。

 ルーチェ嬢の弱体化もあまり効いていないみたいだったし、リュネーゼとミュイの治癒術とシュゼッタの付与術がなければ結構危なかったかもしれない。


「……別行動しなくて正解でしたね。警戒を強めつつ急ぎましょう」

「うん、シュゼッタの故郷へ急ごう」


 アルム少年は気遣わしげにシュゼッタを見た。

 シュゼッタにも事前に襲撃の可能性を伝えてはいたけど、いざ1度目の襲撃が現実となってしまえばやっぱり気が気ではないのだろう。強張った青白い顔で魔物を凝視する姿が彼の感情をありありと物語っていた。気まずい沈黙の中、ルーチェ嬢が黙々と魔物の死骸を浄化していく。


「アルムの、言う通り。1秒でも早く、たどり着く」


 白い光に包まれて消えていく魔物の姿を無表情で見送りながらルーチェ嬢が唐突にぽつりと呟いた。


「余計な事を、考える暇はない」


 ルーチェ嬢の淡い紫の瞳が俺達を真っ直ぐ見つめていた。


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