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【42】南の大陸(12)


 アルム少年が倒れた。

 医者の見立てによると、どうやら過労とストレスらしい。


「ここ最近の強行軍を振り返れば、誰が倒れてもおかしくなかったでしょう。魔王という残り時間の分からない時限式の脅威への不安もあったでしょうし」

「不安……そうね。たのもしくてつい頼っちゃってたけどアルムはまだ16歳だもの、本当なら私たちが頼られる側にまわるべきだったわよね」


 2人の会話を聞きながら、借りた宿のベッドで眠るアルム少年を見下ろした。

 その顔は旅の始まりよりも随分とやつれたように見える。


 16歳といえばちょうど養成学校を卒業したばかりの新米騎士くらいだ。

 新米といえど遠征や魔物討伐には参加するけど、当然先輩騎士達に支えられてである。

 冒険者だとまた違うのかもしれないけど、いずれにせよフォローは必要だった。

 守護者だから、主人公だから、転生者だから――大丈夫、だなんて。

 そんなはずがなかった。

 特別な力があろうが、特別な記憶があろうが、彼は俺達より年下の少年なんだから。


 俺達皆、誰かを気に掛ける余裕なんてなかったんだろうけど、さ。

 ……どうして気づけなかったんだろうな。




 アルム少年はその日の夜に目を覚ました。


「ここ、は……」

「昨日まで泊まってた宿だな。倒れた時は驚いたぞ。気分はどうだ?」

「え」


 そう尋ねれば、アルム少年は大きく目を開く。


「あッ!? シュゼッタとの約束!」

「こらこら起きるな絶対安静だ」


 慌てて起きあがろうとするアルム少年を押し留めながら、俺は小さく苦笑した。


「でもっ、遅れたら――」

「大丈夫、約束は明日だから落ち着けって」

「そっ、かぁ……」


 どこかほっとしたような顔になったアルム少年はぽふりとベッドに倒れ込む。


「皆は?」

「ドミニクとリュネーゼは隣の部屋。ミュイ嬢とルーチェ嬢は宿のキッチンだな。ディアはほれ、そこにいる」


 そう言ってドア近くの壁に寄りかかるディアを振り返った。

 ちなみに他の面々は何をやっているかというとドミニクとリュネーゼは隣の部屋で明日の予定の話し合い、ミュイ嬢とルーチェ嬢は宿のキッチンでアルム少年用の食事作りだ。


「ディア、アルム少年が目を覚ましたって伝えてきてくれ」

「断る」


 予想外の拒絶に俺は思わず目を瞬かせた。

 そのまま無言で振り向けば、俺の視線を避けるようにディアはぷいっと顔を背けてみせた。


「じゃあ俺が行ってくるからディ――」

「オズが行くなら俺も行く」

「なんでだよ」


 脱力しそうになるのを堪えながらジト目を向ける俺にディアは「どのみち後で皆来るだろう」と言って強引に話を切り上げアルム少年を見下ろした。

 その表情は俺と話している時と違ってずいぶんと冷ややかなもので、なんだか嫌な予感がする。


「それよりもアルム。まさかその状態で明日一緒に行く気ではないだろうな?」

「えっ?」


 ディアの言葉にアルム少年はきょとんとした後、困惑するような表情を浮かべた。

 この分じゃ、今どれだけ自分がひどい顔色をしているか分かっていないのだろう。


「お前はここで待機になるはずだ。森で倒れられてもいい迷惑だからな」

「待ってくれよ、本当に大丈夫なんだって!」

「死人みたいな顔色でよく言う」

「頼むから行かせてくれよッ! 行かなきゃいけないんだよ!」


 アルム少年は俺の制止を振り払い上半身を起こすと必死な形相で捲し立てる。


「オレが()()()なんだ! 主人公(オレ)が行かないでもしシナリオが狂ったらどうするんだよッ!」


 仄暗さを宿した蜂蜜色の瞳を爛々と輝かせながら興奮した様子で語るその姿を目の当たりにして、俺はようやくストレスの原因を悟った。

 そうだよな。ほとんど内容を知らない俺でさえ時々不安を感じていたんだ、詳細な記憶を持っているであろうアルム少年の不安は俺なんか比じゃなかったんだろうな。


「落ち着けアルム少年」

「落ち着けるわけないだろッ! オレが間違えたら誰かが死ぬかもしれないんだぞ!? 実際オレが動かなかったら守護者2人は確実に死んでたんだ、やっぱりオレがなんとかしないと――」

「いいから落ち着けアルムッ!」

「なん、だよ。オズ」

「いいか、お前は一人で色々と考えすぎだ」

「——え」


 アルム少年は呆然とした顔で俺を見上げた。

 こぼれ落ちそうな程大きく見開かれた蜂蜜色の瞳がゆらゆらと不規則に揺れている。


「ストレスでぶっ倒れるまで抱え込んでるもの全部、とりあえずお兄さんに話してみ?」


 後ろから「また面倒な事に首を突っ込み始める……」なんていう呆れ混じりの声が聞こえるけど無視だ無視。


 ここまで思い詰めてる年下を、放っておけるわけないだろ。


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