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【41】南の大陸(11)side:A 

ファンタジーRPGの主人公は色んな重圧だったり運命だったりを背負っているので、メンタルが強靭な人じゃない限り転生したら地獄だろうなって思っています。



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 掲示板の依頼にざっと目を通しつつオレ達はギルドを後にした。

 依頼(イベント)は2つとも終わったし、ここでやらないといけない事は全部済んだはずだ。

 オレ達が受けた方がいい依頼も見当たらなかったし大丈夫だよな。

 何度も記憶をひっくり返して見たけれど、同じ結論にしか至らない。

 うん、大丈夫だ。大丈夫。これでここは大丈夫なはずだ。


――本当に?


「報告も終わったし朝ごはんでも食べましょうか。オズ、何かおすすめはある?」

「手軽に食べられるもんなら魚介の串焼きがうまかったぞ。ただ貝には気をつけるべきだな。大きくてディアが――い”ッ!?」

「おっきい貝、わたしも食べたい!」


 和気藹々と仲間達が歩いているのをぼんやりと眺めながら歩く。

 ……ルーチェって、こんなに食い意地が張ってたっけ。

 表情変化の乏しい、口数少なめな巫女の少女――それがゲームでのルーチェだったはずだ。


「……いや何考えてんだオレは。ゲームと違うのは当たり前だろ」


――だってここは現実なんだから


「アルム今なんか言った?」

「いや、……なんでもない」


 不思議そうな顔で振り返ったミュイを誤魔化した後、オレは屋台が立ち並ぶメインストリートを見渡しながら歩く。今は昼にはまだ少し早い時間という事もあり、それほど混んでいない。


「いらっしゃい! 今日は新鮮な魚が手に入ったんだ」「ねえ聞いた? パン屋の息子夫婦に子供ができたんだって」「昨日木にぶち当たって剣が折れてさぁ」「バッカじゃねーのお前」「さぁさぁ魚のフライが揚げたてだよ~」「どうだ魔鉱石の研磨具合は」「ママー、お野菜食べたくない」「こらこら食べないと大きくなれませんよ」「今日もいい天気だなぁ」


 食べ物の匂いと共に聞こえた会話は天気の話だったり、日常の一幕だったり、冒険者の失敗談だったり、屋台で食べ物を売る声だったり、色々だ。

 彼らにとっては何気ない日常の風景。

 それを見るたび、胃が締め付けられるような痛みに襲われる。 


「もーアルムってば!」


 ミュイが焦れたように腕を引っ張るので慌てて前を向けば、仲間の姿が随分と遠くにあった。


「置いてかれちゃうでしょ、早く行こっ」

「あ、……うん」


 不意にすれ違う人の表情が目に入る。

 彼らは皆イキイキとした表情で生を謳歌していた。

 オレの選択1つでそれが壊れるかもしれない。

 ただひたすらに恐ろしかった。


――本当にこのままこの記憶を頼り続けていいんだろうか。


 もう何度も自問した。

 現実だと言いながらゲームの記憶に縋る自分自身に今もずっと矛盾を感じている。


 そもそもこの記憶はシナリオを全部記憶しているんだろうか?

 今の時点でシナリオから外れているものはどうなるんだろうか?


 考えれば考えるほど、新しい不安が込み上げてくる。

 分からない。怖い。


 もし間違えたらどうしようと怯えながらそれでも信じきれない記憶に縋り続けている。

 全てを誰かに投げ出したいけど、それでもしも間違ったら絶対オレは後悔し続けるだろう。

 だから何もしないわけにはいかなかった。


 あぁ、オレは何で記憶を持って生まれたんだろう。

 誰か、教えてくれよ――。



 急に吐き気が込み上げてきてオレは咄嗟に空いている方の手で口を覆った。

 気持ち悪い。

 遠くの方でミュイが何かを言ってるような気がするけど、何言ってるか分からなかった。

 ぐるんぐるんと廻り始めた視界に冷や汗が止まらない。

 だんだんと立っているのもしんどくなってその場にしゃがみ込む。

 ぐわんぐわんと視界が歪んで、耳鳴りが聞こえ始めた。

 ああ、やばい。


――あーもう、すぐそうやって抱え込むんだから。お前はいつも色々と一人で考えすぎなんだよ。今度は何を悩んでるんだ? 俺に言ってみ?


 オレの脳裏に苦笑するあの人の姿が浮かぶ。


――世の中なんとでもなるようにできてるんだから、もっと気楽に考えろって


 あの人いつもなんの根拠もなく大丈夫だと言って、あっけらかんと笑ってた。

 その声と笑顔に今までどれだけ励まされていただろう。


――きっと大丈夫だって。な、×××!


 あの人の浮かべるちょっと呆れ混じりの優しい微笑みが無性に見たい。

 この世界じゃ、もう、見ることは叶わないんだろうけど。


 あの人に会いたい。


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