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【39】南の大陸⑨


――同時刻、エストルミエ王国


 この日、宰相の執務室には宰相以外にもう1人、小柄な騎士の姿があった。


「報告は以上になります」

「ご苦労、戻っていい――おや、何か言いたそうだな」

「何故魔王討伐の任務にオズワルト・クローセムを同行させたんですか」

「ふむ、不満かね」


 宰相がそう尋ねれば、小柄な騎士はにっこりと貼り付けた笑みを浮かべていいえと答えた。


「上層部ひいては王のご判断に異議を申し上げる気はございません。確かに彼はディア・ラシュラムを動かすにあたり最適な存在と言えるでしょう。ですが、同行させるにはリスクが高いように思えましたので、その理由が気になっただけです」

「そうすれば意地でも全力をだそうとするだろう。アレはクローセム関連以外関心がないからな。下手にここに残しても万が一があった時憎悪を向けられかねん」

「……そんな理由で班長は危険な任務に同行させられたんですか」

「無論、他にも理由はあるが――ところでお前はいつまでここで油を売っているつもりかね。さっさと仕事に戻れ、ロダ」

「はぁーい、どうも失礼いたしましたぁ!」


 少し苛立ちを含んだ声音で返事を返したかと思えば、小柄な騎士――ロダは身を翻し宰相室を去っていった。ガチャンッと乱雑なドアの開閉音の後、執務室は静寂に包まれる。

 宰相は頭が痛いとばかりに額を抑えながら、心底呆れを滲ませた様子でため息をついた。


「まったくあの愚息め、随分とクローセムに肩入れしおって。……やはりあの人たらしは遺伝か」





 腹を割って話しをしたら、親友殿が明後日の方に吹っ切れてしまった。

 でもディアは元気になったみたいだし……いいんだろうな、いやいいのか?

 とりあえず俺はディアを心配させないように頑張って強くなろう。


 その後は予定通り食べ歩きを満喫した。

 副都や王都じゃなかなか食べられないからなー魚介って。

 あとはチョコレートもかな。王都じゃお高めなんだけど、原材料がここの特産物だから安く買えるし種類も豊富だった。腹が満たされた後は、土産屋や道具屋をのぞいて掘り出し物を探したりしながら街歩きを楽しんだ。

 ちなみに装飾品と服を取り扱う店に行ってついついディアの新しいフードマントとかを吟味していたら、もうなんか色々と諦めた顔のディアにため息をつかれた。なんでだよ。


 そんなわけで楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていった。

 途中で逆ナンされているドミニクを回収し、宿に戻った頃にはもう日が沈みかけている。

 夕日に染まる景色を眺めながら風呂を楽しんだ後は明日に備えて早めに就寝した。

 そうして迎えた翌日、もう1つの依頼をこなすべく俺達は猿型の魔物が住み着いているという森へ向かうのだった。




 街を出て人工的に手が加えられた自然の中を歩く事2時間程、ようやく目的地が見えてくる。

 目の前にあるのは二手に別れた道で、左は隣国へ右は目的の魔物がいる森へと続いていた。

 俺たちは迷う事なく右へと進む。

 この森は薬の原料になる植物やキノコ等が生えている採取場だったらしいけど、猿型の魔物が住み着いて以来誰も近づけないのだそうだ。群れの規模が分からず誰も受けたがらなかった為放置されていたらしいけど、そのせいで薬等が高騰しつつあり実害が出てきた為ギルドは近々緊急案件として国に要請を行う予定だったとのこと。群れの規模が分からないってところに嫌な予感しかしない。

 俺は前方を歩くアルム少年に視線を伺い見た。

 アルム少年がわざわざこの依頼を選んだって事はきっとまた何か起こるんだろうな。


 蒸し暑い森の中、地面を覆い尽くす緑を踏みしめながら先へ進めば少し離れたところから獣の鳴き声が聞こえた。俺達を取り巻く空気が一変して緊迫したものへと変わる。

 姿は見えずともわかる、おそらく魔物だ。


「各自武器を構えろッ――くるぞ!」


 ディアの鋭い声がとぶと同時に猿型の魔物が四方から姿を現し俺達に襲いかかってきた。

 あるモノは鉤爪で、あるモノは鋭い牙で、またあるモノは棍棒のような物を振りかざし俺達の息の根を止めようとする。それらを躱しながら俺は魔物の急所を狙って魔弾を打ち込んでいく。

 クラス3とはいえ、動きが素早くついていくのがやっとだった。

 状況を把握するためにざっと周囲を見渡せば、各自バラバラで戦っている。

 最悪だ、かなり群れの数が多い。

 額に滲む汗を乱暴に拭いながら噛みつこうとしてきた魔物を後ろに避けて代わりにその鼻っ面に魔銃を突きつけ放った。多少はダメージを与えたようだが、息の根を止めるには程遠い。眼前で振り上げられた鉤爪にヒヤリとしたが、直後鉤爪は振り下ろされることなく宙を舞った。

 驚いたように魔物動きを止めたその一瞬で、今度は首が刎ね飛ばされる。

 腕と頭を無くした魔物はぐしゃりとその場に崩れ落ちた。

 刎ね飛ばしたのは案の定ディアである。

 例の宣言を有言実行とばかりにディアは俺の近くを陣取ったまま魔物を屠っていた。


 他の面々も心配するのが烏滸がましいレベルで順調に魔物を屠っている。

 アルム少年は光の衝撃波みたいなものを放ち魔物を消し炭にしているし、リュネーゼは水を操って魔物を溺死あるいは絞殺、ドミニクも魔物と距離をとりながら器用にハルバートで斬りつけたり突いたりして的確に魔物を仕留めていた。そんなこんなでみるみるうちに死骸の山が築かれていく。


「これで終わりでしょうか」

「いやまだだ。遠くの方から気配が近づいてきている」

「うっわ……どれだけ連戦させるつもりだよ」

「肉体労働は専門外なのに」


 結局その後もう2集団との連戦が続き、ようやく一息ついた時にはもう日が傾き始めていた。

 屠った魔物はおそらく3桁を超えていたはずである。もし普通の冒険者が挑んだら全滅待ったなしだろこんなの。


「この魔物は縄張り意識が強かったはずです。こんな近距離で3集団もいるなんて……」

「元は1つの群れでそれが3つに別れたものだったとか?」

「それにしては1集団あたりの数が多すぎるんですよ……」


 そんな会話を交わしつつドミニクは足元の死骸を見下ろして何かを考え込んでいる様子だった。


「……少し周囲を調べてきても?」


 ドミニクは「オレも行く」手を挙げたアルム少年を連れ立って森の奥へと消えていった。


「俺たちはこの辺で野営の準備でもするか」

「そうだな。その前にまずは魔物の死骸の浄化か」

「浄化、がんばる」


 魔物の死骸を放置すればその場所に瘴気が溜まり土地が侵される。侵された土地は草木の芽吹かない死地となるので、必ず魔物は高温で燃やすか浄化しなければならない。

 俺達は炎の魔法が使えない為、アルム少年の光の高火力光線で焼くかあるいは浄化魔法を使うかのいずれかだ。今回はリュネーゼとルーチェ嬢が手分けして浄化してくれた。


 処理がひと段落つき、野営の準備を始めてからしばらく経ったけど、アルム少年とドミニクはなかなか戻ってこない。太陽を見上げれば、先程よりも少し低い位置にあった。

 もう少しで日が沈みそうなんだけど……2人とも大丈夫だろうか。


「ルーチェ、2人の気配は感じられるかしら?」

「ん、あっち。ここから近い」


 それなら魔物と遭遇したとかではなさそうだ。もし魔物と戦っているならば音が聞こえてもいいはずである。


「少し確認してくるわね。ディア、ここの守りをお願い」

「あぁ」


 ルーチェの示した方角へ、リュネーゼが1人森の中に消えていった。

 後方のリュネーゼを1人で送り出してもいいのか迷ったけど、近場だしそれに魔物の気配もない。

 極め付けに、今ここにいる俺達の中ではディアに次いで強いということもあって、適任だろうと見送った。


「とりあえず飯の仕上げでもしとくか」

「そうですね。私器持ってきます!」

「ありがとなミュイ嬢」


 リュネーゼが森の奥から戻ってきたのは、ちょうど俺達が料理を完成させたくらいであった。ざっと見た感じどこも怪我はしていないみたいだけど、浮かない表情なのが少し気にかかる。


「なにかあったのか?」

「アルムがおかしな魔道具を見つけたとかでドミニクが今調べてるのよ。それが終わり次第戻ってくるって。だから先にご飯食べてて欲しいと言っていたわ」

「ごはん!」


 急にイキイキし始めたルーチェ嬢に苦笑しつつ俺達は先に食事をとった。

 森の奥から2人が戻ってきたのは、太陽が沈みかけ周囲が薄暗くなってきた頃である。

 戻ってきた2人に声をかけようとして、俺は言葉を飲み込んだ。

 2人の纏う空気に緊迫したものを感じ取ったからだ。

 そう感じたのは俺だけじゃなかったようで、誰1人として口を開こうとはしなかった――いやできなかった。重苦しい沈黙に包まれる中、思い口を開いたのは深刻な表情を浮かべたドミニクである。


「森の奥に魔物を誘引する魔道具がありました」


 その一言で周りの空気が一段と重く張り詰めたものになる。


「それって、禁制魔道具だったはずよね」

「えぇ。なぜあのような物がここにあるのか早急に調べる必要があります。オズ、至急連絡を」

「了解」


 通信用の魔導具を起動している間ドミニクと他の奴らの会話に耳を澄ませていれば、聞こえてきたのは魔王というフレーズ。

 旅に出てからこれまで魔王の動向は一切掴めていない。

 当然禁制魔道具が魔王関係だと言える証拠はなにもないけど、もしあれが魔王の仕業だとしたら。


「万が一あれが各地に設置されていたら――最悪滅ぶ国が出てきます」


 その可能性に思い至り、俺はゾッとした。





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[おまけ]服飾のお店での一幕


「お前……俺のフードマントを見繕うよりもまず自分の肩当てをなんとかしろ」

「予備を使うからいいんだよ」

「そうなのか――いやだからって何故オズが俺のものを選ぶんだ。楽しいのかそれは?」

「当たり前だろ! ディアって素材がいいから選び甲斐があるんだよなぁ。おっ、これよくね?」

「……もうオズに全部任せるから思う存分選んでくれ」

「よっしゃ、任せとけ!」

「(なんか余計やる気にさせてしまったような……まぁ楽しそうだからいいか)」


 こんなやりとりがあったとか。

 オズが良ければそれでいい、安定のオズ厨ディア。

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