【4】養成学校時代④
名付けて——『話しかけて続ければいつの間にか距離が縮まるだろう大作戦』
やる事は至ってシンプルで出会ったら話しかけるだけ。
とはいえうざがられては本末転倒だ。
初めのうちは挨拶だけで済まし、相手が慣れてきたなと思ってきたところで徐々に一言二言増やしていく予定である。
ちなみに作戦名を聞いてずっこけていたウェンは、俺の完璧な作戦に何故か不安そうだった。
作戦開始したては警戒されたし塩対応もされたけれど、3日、1週間、1ヶ月……と日を重ねるにつれ態度が軟化していき、最近じゃ『こいつまた来たのか……』みたいな何とも言えない顔で言葉を返してくれるようになった。
もちろんウェンの忠告を守って、本気で嫌そうな時はすぐに撤退するようにしている。仮にも貴族がいるこの学校で過ごしているのだ、これでも一応空気は読めるつもりだ。というか読めないと死活問題である。
その変化が嬉しくてウェンに報告したら「……良かったね」と生温い表情で頭を撫でられ、その時一緒にいた友人には「無害なアホの子認定おめでとさん」と爆笑された。
爆笑しやがった友人には返礼として背中に蝉みたいな虫をこっそりくっつけて差し上げた。
「クローセム、今日も夜の君んとこ?」
「そうー!」
「さっき校舎裏方面に行くのを見かけたよー」
「まじか、ありがと!」
最初は俺の行動にちょっと引き気味だったクラスメイトもだんだんと慣れてきたようで、最近ではこんな感じで目撃情報をくれたりする。
ちなみに夜の君とは言わずもがなディアの事だ。あれは断じて魔物の色じゃないと熱弁した結果、面白がった友人達によりいつの間にか爆誕して広められてしまった呼び名である。
にしても校舎裏、か。
さっき上級生も向かっていたという話を聞いたんだんけど……大丈夫かな、ディア。
なんだか猛烈に嫌な予感がして校舎裏に急げば、案の定上級生に囲まれたディアの姿があった。
一見するとリンチでも起きそうな光景だが、養成学校の中でも屈指の強さを誇るあいつにとっちゃあんなのピンチでもなんでもないだろう。
以前模擬試合で教官とあいつの手合わせを見た事があったけど本当にすごかった。同じ木剣を使っているはずなのに命のやり取りをしているような緊張感。戦っているのは自分ではないのに、少しでも目を離したらいけないと錯覚してしまう程、手に汗握る良試合だった。
なお剣がへっぽこな俺との手合わせはかなり手加減してくれている。
だから俺的には怪我どうこうよりも返り討ちにした後に変な噂が立たないかの方が心配だった。
本当はここで颯爽と現れて解決したいところだけど悲しいけど俺にそんな力はない。
というわけで、秘技『教官~こっちです~』を発動させてもらった。こちとらいたずらやハッタリなら得意分野である……まぁ胸を張って言える事じゃないけどさ。
慌てた様子でばたばたと去っていく候補生達を物陰から見送った後ひょっこり校舎の陰から顔を出せば、お馴染みの呆れ顔を浮かべたディアと目があった。