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【36】南の大陸⑥


 ガンッと大きな音を立てて3体目が跳ね飛ばされていく。

 魔物の体当たりをもろにくらったはずの昇降機は何故か無事だ。


 3体目が空中で体制を立て直そうともがいた――次の瞬間。

 降りかけの昇降機のカゴから飛び出した何かに、魔物は地面へと叩き落とされた。


「は?」


 暗がりの中必死で目をこらして捉えた姿は、どうみてもディアだった。


 地面に叩きつけられ跳ねた魔物の体を覆ったのは闇色の球状。

 ディアがやろうとしているのは、多分俺が提案したあの方法だ。

 バキバキバキとけたたましい音をたてて徐々に小さくなっていく球体をぼんやりと見上げながら、そう思った。

 闇が解けた後に残っていたのはバッキバキに押し潰された魔物の残骸である。

 あの様子じゃもう生きてはいまい。

 ちなみに俺が相手にしていた2体目も同様に闇色の球体によって粉砕されている最中だ。

 ドミニクが相手にしていた1体目に視線を向ければ、ちょうどアルム少年の剣で叩き落とされリュネーゼの水球で覆われたところであった。この様子だと時期に討伐されるだろう。


 無事、終わったんだ。

 安堵したからかやけに重く感じる体に引きずられるようにして、俺はへたり込む。

 騎士として情けないかもしれないけど……流石に、これはしんどい。

 天井を見上げれば、天井の岩壁すれすれに擬似太陽みたいな球体が浮かんでいた。

 どうりで明るいと思ったら……多分アルム少年だろうか。

 その明るさが疲弊した心にひどく沁みた。


「オズッ!」


 親友の声に振り向けば、俺に駆け寄ってくるディアの姿があった。


「怪我はな、い……か……」


 そう言って俺の前にひざまづいたディアは、俺のひしゃげた肩当てを見るなりその顔を蒼白に染める。


「おず、それ」

「あー大丈夫。俺自身に大した怪我はないから」

「りゅねーぜをよんではやくかいふくまほう、けがをなおさなきゃ――」

「だから怪我はないって。おーいディアー?」


 ディアの狼狽えようには驚いた。俺が血塗れとかだったらともかく、肩当てひしゃげてるくらいだぞ?

 大丈夫だって言ってんのに、気が動転しているのかまったく聞こえてないっぽい。

 なんだかよくわからない事になっているディアを宥めながら、俺は荷物袋を漁ると例のブツをディアの口に押し込んだ。


「おずがしん――んぐ!?」

「ほーれチョコだぞ。よく味わって食べろよなー」


 突然チョコレートを口内に押し込まれたディアは、動きを止め目を白黒させている。

 これで少しは話が聞けるようになったかね。まだ動揺してるようだからもう1枚いっとくか。


「おいオ――むぐっ!?」


 思いっきり話そうとしてるところに突っ込んじゃったけどまぁいいや!

 不本意そうにチョコを咀嚼するディアの顔を覗き込めば、ベリー色の瞳はもう揺れてはいなかった。


「……ベリー味だな」

「そう、お前の好きなベリーチョコだぞ。落ち着いたか?」


 やや気まずげな表情でぎこちなく頷いたディアの頭を大丈夫だと撫でながら、俺はゆっくりと立ち上がる。リュネーゼ達の方に視線をやれば、どうやら1体目の始末を無事に終え討伐証明部位である尻尾の先端を切り落としているところだった。クラス4が3体も出たなんて口で言っても信じてもらえないだろうから、きちんと討伐証明部位をギルドに提出したいところなんだけど……ディアが討伐した2体はバッキバキに押しつぶされ粉砕されまくって巨大な岩の球と化しており、蛇の面影はどこにもない。


「もうちょっと加減しろよディア。尻尾どこだよこれ」

「オズが提案したやり方だろう。ほら、探しに行くぞオズ」

「げぇ、面倒くせぇ」


 討伐証明部位の尻尾探しの途中、アルムとリュネーゼが複雑な表情を浮かべていたのが少し気になったけど、その後すぐにサボるなとディアに引っ立てられてそれどころじゃなくなってしまった。


 ちなみに尻尾はなんとか頑張って発見できた。板みたいに平たくなってたけものを、だけどな。

 後ほど何をどうやったらこうなったんだとギルドで聞かれたのは言うまでもない。




 昇降機で無事地上へ戻ってこれた俺達は地平線から顔を出す太陽から淡い光の歓待を受けながら、濃厚でスリリングな時を過ごした廃坑を後にした。

 どうやら思っていたよりもかなり時間が経っていたらしい。

 南の大陸に着いて早々魔物討伐で徹夜とか、まじか。

 どっと疲れが出てきたような気がして、ため息をついたらディアにひどく心配された。

 なんかやたらと世話を焼きたがるんだよな……俺は幼児かっての。


「あぁそういえばアルム少年達はシュゼッタとは初めましてだよな」

「あー、そうだっけ」

「いつの間にか新顔が増えてると思ってたけど……その気配からして守護者よね?」


 リュネーゼの問いに、ルーチェ嬢がこくんと頷いた。


「シュゼッタは、5人目の守護者。属性は、地」

「その守護者って言うのは……御伽噺の守護者の事か?」

「その事についてですが――」


 それからシュゼッタには俺達の旅の目的なんかを色々と話した。

 魔王討伐の協力についても頼んでみたものの、長旅となるなら育ての親である祖母の赦しがいるとのことで頷いてはもらえなかった。ただ、シュゼッタとしては事が事だし俺達に助けてもらった恩を返したいとのことだったので、魔鉱石の原石を届けがてら一度シュゼッタの故郷へ一緒に向かう事になっている。


「それじゃあシュゼッタ、また後でな」

「ああ、また」


 そうして、シュゼッタとは街の入り口で別れた。

 合流するのは4日後。

 彼はそれまで魔鉱石の原石を加工したり故郷への土産や旅支度を行う予定らしい。


「いい機会だし、ギルドに報告したら少し休みましょうよ。流石に体が保たないわ」


 朝市で賑わう人の中に消えていくシュゼッタの後ろ姿を見送りながら、リュネーゼが疲労感をたっぷり滲ませながら言った。

 言われてみれば旅に出てからと言うもの俺達はまともに休みをとった記憶がなかった。

 世界崩壊の危機だから悠長な事を言ってる場合じゃないのは確かだけど、魔王に挑む前に過労でぶっ倒れたら元も子もない。宰相殿にもお伺いを立てておくつもりだけど、2日程度なら文句も言われないだろう。

 ウェンからの連絡もまだだしな。


 そういう事なので、まずはギルドへの報告を終わらせに行くとしますか。


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