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【35】南の大陸⑤

[前回までの親友コンビ]

ディア:おずをたすけないとおずをt(以下エンドレス)

オズ:チョコ欲しい奴ー!





 とりあえず匂いが強烈だったのでとりあえず洗浄用の魔道具を速攻使ったら、年齢不詳の男はアッシュブロンドの髪の精悍な面立ちの青年に早変わりした。

 彼はシュゼッタ。南の大陸出身の冒険者で付与術師兼魔法師だという。


「そういえばドミニクとルーチェ嬢の言ってた気配って結局シュゼッタってことでいいんだよな?」

「え、えぇ。おそらく」

「そう、守護者の気配」

「「「!?」」」「?」


 ルーチェ嬢が曰くシュゼッタはまだ半覚醒状態らしく、そのせいでドミニクははっきりと守護者の気配を認識できなかったようだ。

 そもそもなんでシュゼッタが廃坑にいたのかといえば、彼の故郷で行われる成人の儀に必要な魔鉱石の原石を探しに潜っていたそうだ。途中、地下3階で岩蛇型の魔物と遭遇しここまで逃げて今までずっと隠れていたとのことである。


「毎年探しにきていた場所に、まさかクラス4が住み着いているとは思わなかった」

「ギルドからは何も言われなかったんですか?」

「あぁ、何も言われなかった」

「注意喚起なしっておかしくないか? ここって3日前くらいから立ち入り禁止されてたはずだろ」

「3日前……すまないが、今は何日だ?」


 今日の日付を教えたらシュゼッタは愕然としていた。どうやら今日で遭難5日目だったらしい。

 手持ちの食料は尽きて水も残り僅かだったということだったのでついでに携帯食料と水を渡したら土下座する勢いでものすごく喜ばれた。


「ドミニク、どうだ?」

「これは……おとなしく救助を待った方がいいかもしれませんね」


 ガツガツと勢いよく携帯食料を食べるシュゼッタを尻目に、俺達は昇降機を確認していたが稼働させる為の鍵が必要らしく現状ではやはりどうしようもないらしい。

 針金での小細工も提案してみたけれど、特殊な鍵らしく無理だと言われてしまった。

 というかドミニク、魔物だけじゃなく機械や魔道具にも造詣が深いんだな。

 数日最下層に居たというシュゼッタにも鍵を見ていないか尋ねてみたものの、申し訳なさそうに首を横に振られた。駄目元で俺達も最下層を探してみたがやはり見つからず、完全に手詰まりである。


「昇降機は見た感じ壊れてはいなさそうですから、救助がくるまで待った方が無難でしょう」

「埃っぽくて長いしたくないんだけどな」

「同感です」

「ドミニクさん、叩いてみてもいいですか!」

「壊れた通信機じゃないんですから……まぁ気が済むまでお好きにどうぞ」


 昇降機にのしのしと近づいたかと思えば、やけくそ気味にばんばんと叩き始めるミュイ。


 ばん、ばんばん、ばん、ばんばん、ばん


 時折、うーごーけーと呪文めいた独り言を呟いているのがなんともコミカルだ。

 とはいえそれで動くはずもなく、昇降機は沈黙したままである。


「ミュイ、素手で大丈夫ですか?」

「大!丈!夫!ですッ!」

「アッハイ……」


 バンッ、バンッ、バンッ!


「なぁミュイ嬢……そろそろ落ち着こう?な?」

「もー動けったら!」


 昇降機を叩くミュイ嬢を宥めようと近づいた俺の目の前で、ミュイが最後の一発とばかりに思い切り手を振り上げて――振り下ろす。

 ばーんと威勢のいい音が周囲に響いた、次の瞬間微かな振動と共に昇降機に光が灯った。


 …………………………どうやら稼働したらしい。


「「は!?」」

「ミュイ、すごい」


 無邪気に喜ぶミュイをよそに俺とドミニクは信じられないとばかりに顔をみわわせた。


「え、叩けば直るもんなのかこれ」

「ありえませんよ !? おそらくアルム達が地上側で稼働させたんでしょう」


 これで地上に戻れる。


 稼働する昇降機にその場の誰もがほっと息をついた――刹那。

 パキリ、とミュイの足元に不自然な亀裂が走った。


「ミュイッ!」

「え」


 ミュイ嬢を抱き寄せて咄嗟に前方へ身を投げ出した直後、背後から凄まじい衝撃音が聞こえた。受け身を取りつつ地面を転がりながら振り返れば、先程までいた地面を完膚なきまでに粉砕して姿を現した魔物が視界に飛び込んでくる。


 ただ、運が良かった。声を掛けるために近くにいたから、咄嗟に手が届いた。

 そうでなければ今頃――。

 脳裏をよぎったもしもの光景を思い切り振り払うように、俺は目の前の魔物に魔銃を構えた。


「ミュイ嬢、いけるか」

「は、はいッ!」


 たった今死ぬかもしれなかったんだ。怖くないはずがない。

 それでも、震える手で気丈にも杖を構えるミュイ嬢の頭を片手で軽く撫でた。

 今の所ドミニクが魔物を引きつけてくれていたが守護者1人でこの悪条件の中クラス4を相手にいつまでも保つとは限らない。

 シュゼッタとルーチェ嬢どうやら援護に回ってくれているらしいのだけど、それでも戦況はあまり芳しくはないようだった。


「皆に守護魔法を頼めるか」

「わかりました! ……オズさんもお気をつけて」

「あぁ」


 ミュイ嬢の守護魔法が自分の体にふわりとかかったのを感じながら俺はその場を飛び出した。

 昇降機を一瞥すれば、カゴはまだだいぶ上の方にある。

 最下層に到着するまでにはまだ時間がかかるだろう。それまでなんとか魔物の気を逸らさなければ。 

 ドミニクに牙を向こうとしていた魔物の目を狙って弾を打ち込み、怯んだすきに暗闇に紛れて駆けた。

 やっぱり俺の攻撃は全然効いてないよな畜生!


「ドミニク!」

「オズッ、2人とも無事ですね?」

「あぁ。……なぁこいつ、もしかして階段壊した奴とは別の個体か」

「えぇ、そのようです。最悪です」


 うんざりした顔でハルバートを構えるドミニクだが、顔色があまり芳しくない。

 ざっと見た感じどうにも右脇腹を庇っているようなのでおそらく魔物の攻撃が掠ったのだろう。


「ドミニク、ミュイ嬢に治癒魔法かけてもらってこい」

「ですがッ」

「お前が倒れたら俺達は総崩れだぞ」

「…………少しの間、頼みます」


 守護者でもなんでもない俺に任せるか否か、葛藤があったんだろう。

 一瞬迷った素振りをみせたドミニクは、しかし静かに頷くと素直にミュイ嬢の元へと駆けていった。

 魔物の視線がドミニクに向きそうになる度に魔物の死界から重点的に目を狙って弾を打ち込んでいく。

 クラス4の魔物からすれば俺の攻撃は脅威でもなんでもないだろうけど、こうやって嫌がらせにくらいはできる。

 苛立ち始めた魔物が突進の予備動作をしたところで、ふわりと温かい空気が体を覆った。

 次の瞬間、弾丸のごとくものすごいスピードで突っ込んできた魔物の突進をギリギリで躱す。

 シュゼッタが速度上昇の付与術をかけてくれたんだろう。おかげで俺でもなんとか魔物の動きについていくことができる。そうじゃなかったら多分掠ってたわ、今の攻撃。

 冷や汗を流しながらドミニクが戻ってくるまでギリギリで躱していく。

 早くドミニク戻ってきてくれと願いながら魔物の相手を続けていれば、ふと視界の右端で、壁が不自然に盛り上がるのが見えた。


 まずいッ!


 咄嗟に後ろに下がれば、一瞬にして俺の視界が魔物の側面で埋まった。俺の前方すれすれをすさまじい速度で駆け抜けていくのはサイズからして階段を破壊した個体だろう。

 たった今もたらされた命の危機に、俺の心臓はバクバクと激しく脈動していた。

 いや待って、無理。2体は無理だって!

 ドミニク早く! 俺粉砕されるわッ!

 ヒィヒィ言いながら2体の動きに身構えた俺の耳に届いたのは、後方にいるシュゼッタの鋭い叫び声。

 後ろを見る余裕もなかった。何も理解できないまま、ただがむしゃらに体をよじったのは、今までの経験からだ。

その、直後。俺の肩当てを掠めるようにして3体目の個体があら割れた。

 ただほんの少し掠めただけで、紙切れのごとくぐしゃぐしゃに破壊されていく肩当てに、ドッと冷や汗が噴き出た。

 遅れてやってきた恐怖を必死に押し殺しながら3体目の後ろ姿に魔銃を構えたところで、3体目の向かった先に気づいて血の気が引いた。

 昇降機だ。

 あのままあの巨体にぶつかられてしまえば俺達は地上に帰る術を失う事になるだろう。下手すれば衝撃でここ自体が崩壊しかねない。

 しまったと思った時には遅かった。

3体目に追い縋るように魔銃を打ち込んだけど、あの硬い皮膚に弾かれて終わる。

 ドミニクを目で探せば1体目と交戦中だった。シュゼッタも魔法を打つ暇もなく支援に手いっぱい。


 もう一度と魔銃を構えたものの俺に突っ込んで来ようとする2体目に気づいて、回避するだけで手一杯だった。


 3体目が昇降機に迫る。


 昇降機のカゴはもう見えているのに。


 どうすることもできないまま、俺の目の前で3体目が昇降機にぶつかった。


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