【34】南の大陸④
「魔鉱石を扱う鉱山には確実に昇降機が設置されているはずです」
地下4階への階段を降りながらドミニクが告げる。
現在、地上への階段を塞がれた俺達はランタン片手にこの廃坑の最下層を目指して移動中だ。
なんでも魔鉱石が採れる鉱山は最下層と地上間を結ぶ荷運び用の昇降機の設置が義務化されているらしく、俺達はこの鉱山にも設置されているだろうそれを用いて脱出しようとしている。
「ドミニクさん、廃坑の昇降機って動くんですか?」
「流石に行ってみないとわかりませんね」
「ま、可能性があるなら動いた方がいいよな。そんなわけで景気づけにチョコ欲しい奴は挙手」
「食べる!」
「はーい私も食べたいです!」
「オズ……」
元気よく返事をしたミュイ嬢とルーチェ嬢にチョコレートを手渡していれば、呆れ顔のドミニクがじとっとした視線を俺に向けてきた。
長丁場になるんだ、緊張しっぱなしじゃ気が持たねぇだろ。
「ドミニクはいらな――」
「いえいただきますけど」
食い気味に返事をしたドミニクにチョコレートを投げ渡しながら坑道内をぐるりと見渡してみるも、この辺一体には不自然な亀裂等は見当たらない。揺れも地響きもあれから一度も起きていないので、すぐには崩壊しないみたいだ。……まぁそうじゃないと困るんだけどな。
「ディア達は大丈夫かな。怪我してなきゃいいんだけど」
「まぁ彼らなら大丈夫でしょう。最悪リュネーゼの治癒魔法がありますし」
もぐもぐとチョコレートを美味しそうに頬張っているミュイ嬢とルーチェ嬢を横目に、俺もカケラを口の中に放り込めば、じんわりと優しい甘さが広がった。
「……オズ、ちなみにこれはどこの店のものですか」
「ギルド出た後に寄った道具屋の隣の店」
「なるほどあそこですか。……後で寄ります」
どうやらドミニクは甘党だったらしい。
甘いもので多少不安も和らいだ俺達は地下4階を急ぎ足で進む。先ほどまた少し地面が揺れたからだ。
地下4階にはクラス1やクラス2程度の魔物の姿があったけど、守護者のドミニクと魔物を弱体化できるルーチェ嬢もいるし問題なく切り抜けられた。
そうして第4層を通り抜け、ついに地下5階――最下層へと俺達は降りたった。
「……?」
最初にそれに気づいたのはドミニクだった。
「どうしたドミニク?」
「いえ。なんでしょう、この気配」
そう言ってドミニクはある1方向を見据えたまま警戒するようにハルバートを構える。
釣られて武器を構えた俺とミュイ嬢をよそに、ルーチェ嬢は相変わらずの無表情でランタンを掲げながらドミニクの視線の先をすっと指差しこう告げた。
「問題ない」
ルーチェ嬢が指さした方向をじっと眺めていれば、暗闇になれてきた視界が何かの輪郭をうすぼんやりととらえる。それは人の形をしていた。
ひた、ひた、と。
俺達に気づいたそれが、軽い足音をたてながら近づいてくる。
ひた、ひた。
それが近づいてくるにつれすえた匂いが周囲に漂い始めた。
なかなかに強烈なそれに俺の後ろにいたミュイ嬢が「う”っ」と少女らしくない声をあげていた。
ひた、ひた、ひた。
ルーチェ嬢のランタンに照らされて露わになったその姿に、俺達は思わず目を見開く。
「ひ、と…………?」
ぼさぼさの髪に薄汚れたぼろぼろの服。
浮浪人もかくやといった様相のひょろりと背の高い痩せぎすの男が俺たちの目の前にいた。




