【33】南の大陸③side:A
ミュイ、オズ、ドミニク、ルーチェの4人が廃坑に取り残された。
土砂と岩で埋まってしまった階段を前にオレは動けなかった。
「落ち着きなさいディアッ!」
「はなしてくれッ! いやだ! はやくおずをたすけないと――」
リュネーゼの声にはっと我に返って振り返ってみれば、半狂乱で力を暴走しかけているディアを水の守護者の力で全力で押し留めているリュネーゼの姿が視界に飛び込んできてオレは慌ててリュネーゼに加勢する。
「はなせはなせはなしてくれおずおずわるとおずが」
「いい加減にしなさいディア! あなたここを崩落させるつもり!? オズ達を生き埋めにしたいの!?」
「ッ」
その言葉でディアは少し冷静さを取り戻したらしくディアの周囲に滲んでいた闇の守護者の力が霧散した。
とはいえ、ただでさえ白い肌を幽鬼のように青白く染めてオズの名前を呼ぶその姿はとてもじゃないけど正気を取り戻したとは思えない。
リュネーゼも同意見らしく、ディアに向ける表情には未だ警戒と緊張が浮かんでいた。
いまのディアは――不安定。とにかくこの一言につきた。
この旅が始まった当初から、ディアがやたらとオズを気にかけていた事には気づいてた。
あの時は心を許した友人なんだなとか、良く懐いているだとかそんな感想しか抱かなかった。
オズ自身も親友だって言ってたから。
そんな2人の『親友』って言葉の温度差に気づいたのはルーベル王国を出発したあたりだ。
ちょうど旅に出るまでのどんな生活をしていたかが話題になった時、色んな人物が出てきたオズの話に対し、ディアの話にはオズしかでてこなかった。オズ以外が関わっていた話であったとしても、だ。
その時に、この人はオズ以外どうでもいいんだなと悟った。
多分それがわかっててエストルミエ王国はオズをこの旅に同行させたんだと思う。
そうすれば、オズを守るためにディアは文字通り死力を尽くすだろうから。
ゲームのヘルトは復讐を拠り所にしていた。
もしも、ヘルトとディアの本質が変わっていないのだとしたら。
今のディアは、何を拠り所にしているのか。
そんなのオズにきまってる。
拠り所がなくなればどうなるのか——そう考えてゾっとした。
今でさえ、これなんだ。
壊れて、狂って——新たな魔王になってもおかしくない。
ゲームのバットエンドルートのように。
「……リュネーゼ」
地面に座り込んで放心気味に崩壊した階段を見つめ続けるディアを横目にオレはリュネーゼに耳打ちする。
「確かこの坑道には昇降機があったはずだからオレ探してくる」
「おねがいアルム」
リュネーゼをディアの元に残してオレは昇降機へと走る。
ゲーム通りだったら途中で坑夫がうっかり落とした昇降機の鍵が見つかるはずだ。
――本当に?
大丈夫、きっと大丈夫だ。
だってこれは正規のイベントじゃないか、だから皆は絶対に無事だ。
流れ通りならドミニクが昇降機の存在に気づいてそこへ向かおうとするはず。
だから昇降機を動かして最下層で合流する事、――それがオレの役割で合ってるはずだ。
――本当に?
大丈夫、きっと……大丈夫、だよな?
俺が知ってるのはゲームの記憶で、ここは現実。
本当にあの記憶通りになるのか、未だに不安だ。
イベントは皆を危険に晒すものばかりだし、本当なら回避したいけど——。
――ホントウニ?
怖い、怖い、怖い。
でもこんなのに巻き込まれて、……本当に無事なんだよな?
怪我してないよな?
本当に、これでいいんだよな?
もしこれで誰かが死んだら、どうしよう。
誰か、教えてくれよ。ねぇ、誰でもいいから——。
不安を振り払いながら、駆ける。
時間経過のないゲームと違って、今はタイムリミットがあるんだ。悩んでいる暇なんかない。
オレがしっかりしないといけないんだ。
「だってオレが主人公なんだから」
本当はディア視点を書こうとしたんですが全部ひらがなの怪文書にしかならなかったので没にしました。




