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【31】南の大陸①


 南の大陸は、多くの小国がせめぎ合う様に存在する大陸だ。

 それゆえ一部の国なんかでは日々小競り合いが起きていたりするという。

 また、1年中高温多雨な気候が続くものだから一部では常夏の大陸とも呼ばれていたりするんだとか。


「南の大陸、到着っと」


 船を降りトンッと軽い足取りで地面に降りたった俺は、荷物片手に凝り固まった体をほぐすようのびをする。


「うはぁー、3日ぶりの陸だぁ」

「ずっと足場が揺れているのはどうも奇妙な感覚だった」

「それな。バランスとりにくいのなんのって」


 ここはルーベル王国から海を挟んでちょうど向かい側にある港湾を中心に栄えた国で、南の大陸の中でも比較的国力の大きいオラタ公国だ。

 王都を出発した後、俺達は港町まで魔馬車で移動しそこから船で南の大陸へと渡った。

 通常だったら1週間程かかる船旅だが、ウェンが魔導船を貸してくれたこともあり3日程。

 時限式の旅だから時短はありがたいんだけど多分ウェンが船を貸してくれた理由はそれだけじゃないだろう。おそらく、ディアを気遣ってくれたんじゃないかな。多分王城での周囲の様子はウェンの耳に入っているだろうし。


「あっつ……なんだこれ」

「あづい」

「ルーチェちゃんお水あるよ? 飲む?」

「飲む」


 早々暑さにやられ気味のアルム少年達を横目に周囲の様子を見渡せば、石や木で造られた建物が多く見られる街並みにはいたるところに緑があふれている。その中を歩く通行人達は皆暑さ対策からか非常に開放的な服装だった。まぁこの暑さで長袖長ズボンとか自殺行為だよな。


「俺たちも服をなんとかした方がいいかもな――ってドミニク?」

「な……うぁ……わ……」

「あらドミニク大丈夫なの? 顔真っ赤だけど」

「な、なんであんな格好で歩いているんですかッ! 破廉恥でしょう!?」

「「はれんち」」


 守護者パーティーきっての純情青年ことドミニク氏にはどうやら刺激が強かったみたいだ。

 顔を真っ赤にして叫んだドミニクに俺とリュネーゼはなんとも言えない顔になった。

 布面積が少ない衣装なのは確かだけどな、別に下着で歩いているわけじゃないんだから破廉恥ってお前……。お前より年下のアルム少年ですら何言ってんだこいつって顔してるからな。

 挙動不審なドミニクはさておき、俺達はさっそくこの国の冒険者ギルドへと向かった。

 最近わかった事だけど、どうにも守護者として覚醒した者達は総じて強い魔物を引き寄せやすくなるらしい。未だウェンからも連絡はないので、ギルドでクラス4以上の魔物討伐依頼を探すのが手っ取り早いだろう。

 辿り着いた冒険者ギルドはガヤガヤうるさいくらいに会話が飛び交う大変賑やかなところだった。


 ちなみに冒険者ギルドとは金銭を対価に魔物討伐や植物採取、果ては護衛までさまざまな仕事を受けておってくれる民間の何でも屋みたいなものだ。冒険者になる為の資格はなく、13歳以上であれば誰でもなることができる。

 閑話休題。


 ギルドの入り口を潜り、俺達が真っ直ぐ向かったのは所狭しと大量に紙が貼られた大きな掲示板だ。


「ここもすげぇ依頼書の量だな。んーこっちにはめぼしいのはなさそうだな。そっちはどうだ?」

「こっちもないわねぇ。まぁそんな依頼がぽんぽんあっても困るのだけど。ミュイちゃんはどう?」

「これとこれなんかどうですか? 気になるねって今アルムと話してたんです」


 ミュイ嬢が手渡してくれた2枚の依頼書を見れば1枚は推定クラス3の魔物、もう1枚は推定クラス4の魔物の討伐依頼だった。また、どちらの依頼も十分徒歩で移動可能な距離だ。


「オズ、見せてください」

「はいよ」


 ずいっと肩越しに覗き込んできたドミニクに見えるよう紙を少しずらしてやれば、ドミニクはメガネのブリッジを押し上げながら「ああこいつですか」と嫌そうに顔を顰めた。


「この猿型の魔物は常に10~50体程の群れで行動する、奇襲や集団戦が得意な魔物です。確かに1体だったらクラス3程度ですが群れの大きさによって難易度が跳ね上がるんですよ。アルムはどうしてこれを?」

「いや、なんか気になったっていうか……」

「ああいつものですか。それなら僕らで対処しましょう」

「猿型なら人型に近い魔物ってことかしら。服なんてきてないけれど大丈夫ドミニク?」

「リュネーゼ……。貴女(あなた)って人は――」


 いつもの応酬を始めたドミニクとリュネーゼに苦笑しながら、アルム少年達には先程の依頼を受けに行ってもらった。依頼手続きはパーティーリーダーのアルム少年しかできないからな。

 その後依頼を受けてきたアルム少年達と合流し、冒険者ギルドを後にしたわけだけど――。


「ディア、あなたどこでもこんな感じなの?」


 周囲を見渡しながら少しむっとした表情で尋ねるリュネーゼに、ディアぱちぱちと目を瞬かせた。

 おそらくリュネーゼが気にしているのはディアにまとわりつくこの嫌悪の視線だろう。

 この大陸についてからディアはトラブルに巻き込まれない様にマントフードをかぶっているが、それでも髪や目を完全に隠せるわけがなく、こうしてギルド内でも街中でもディアの色に気づいた人が嫌悪の眼差しを向けてくるのだ。


「何を苛立っているんだ?」

「だってあなた、何もしてないのに理不尽じゃない?」

「それは……まぁ」


 リュネーゼに同情の眼差しを向けられ、ディアは珍しくまごついていた。

 悪意以外の感情を向けられる事に慣れてないからな、ディアって。


「そういやリュネーゼって出会った時からディアに対して普通だったよな」

「私のお師匠の目の色はね、ディアと一緒なのよ」


 驚く俺達の反応にリュネーゼはその口元に小さな笑みを浮かべた。

 以前薬を届けた時は目に包帯を巻いていたので気づかなかった。

 もしかしてあれは怪我じゃなくて、ただ単に目の色を隠していただけかもしれない。

 きっとリュネーゼは師が色々な悪意に晒されるのを隣で見ていたんだろう……俺みたいに。


「オズ? お前も何笑ってるんだ」

「んーディアの事をこうして心配してくれる奴がいて嬉しいなってさ」

「そう、だな。全く慣れないが」

「早く慣れとけよ。俺たちの最終目標はなんたって魔王討伐なんだぜ? そしたらディアは世界を救った英雄だぞ。英雄を忌み子なんて呼ぶ馬鹿は流石に居ないだろ」


 そう言ったらディアが少し驚いたような顔をした。俺、何か変な事言ってないよな?


「……そう、か。お前が言うなら――きっと、そうなんだろうな」

「おう。こんな理不尽吹き飛ばして行こうぜ。なんなら俺も全大陸駆け巡ってお前の凄さを言い広めるからさ!」


 そう言えばディアはふはっと吹き出したかと思うと、くすくすと笑い出した。

 冗談だと思ってるな、こいつ。

 ツボに刺さったのか笑い続けるディアの脇腹を小突きながら、俺もなんだかおかしくなってきて、つられて笑った。


 旅の目的は未知の魔王との戦いだし、道中もクラス4以上の魔物を相手にする大変な旅だ。

 それでも旅に出て良かったと思える程ディアの表情は以前よりもずっと柔らかい。



――魔王討伐が終わってもこの表情が曇らない世界に変えていきたい


 より一層、そんな思いが強くなった。


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