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【29】旅の始まり⑥


 湖で夜を明かした後無事街道まで戻ってきた俺たちが向かうのは最初の目的地であった隣国国境の宿場町だ。

 この地点から宿場町までは徒歩で2日半程度――つまり明後日の昼くらいには辿り着けるはずである。


「えっリュネーゼさんって治癒魔法師でもあるんですか!?」

「うふふ、あくまで本業は魔法師なのだけどね。ミュイちゃんはまだ見習いなのよね。浄化は専門外だけど治癒魔法ならいくつかおすすめの魔法を教えてあげられるわよ」

「わぁっいいんですか!?」

「後輩には手を差し伸べよっていうのがうちのお師匠の教えなのよ」


 会話に花を咲かせているミュイ嬢とリュネーゼを横目に、俺は昨晩野営中に彼女とした話を思い出していた。


 そもそも何故リュネーゼがこの森にいたのかといえば、この森にしか生育していない薬草を取りに来ていたとのことだった。なんでも彼女の師が軽度の瘴気に蝕まれており、その浄化に必要なものらしい。

 瘴気、というのは魔物が持つ毒素のようなものだ。どんなクラスの魔物であれ必ず瘴気を有している。

 魔物の瘴気に蝕まれる理由としてよくあるのが、魔物に怪我を負わされたというものだ。

 多少の怪我なら自浄でなんとかなるけど、大きな怪我を負った場合は高確率で体内に瘴気が残る為、必ず浄化魔法もしくは浄化薬で体内の瘴気を中和しなければならない。そのまま放置しようものなら瘴気に身体を蝕まれ続け、最悪命を落とす事になる。ちなみに魔物を食しても同様だ。……たまにいるんだよな、そういう奴。


「ここは何度か来た事があったし、戦闘さえ避ければ大丈夫だと思ったのよねぇ」


 その慢心の結果、あの魔物に丸呑みにされるハメになったというわけだ。

 まぁでもそれが原因でリュネーゼは守護者に覚醒したみたいなので、守護者を探していた俺達にとっては不幸中の幸いというかなんというか。余談だけど、覚醒してから浄化魔法も一応使えるようになったらしく、もっと早く目醒めていたらと本人はなんとも言えない表情だった。


 宰相殿の言いつけ通り魔王討伐についても協力をお願いしたところ、師の瘴気を取り除いた後でなら手を貸しても良いとの事で話がついた。

 ちなみに協力する理由を尋ねてみたところ、まだやりたい事があるので世界が終わってしまうのは困るからとの事だった。魔物に食われても冷静に水の膜を張って生きながらえただけあって、なかなかに肝が据わっている。


 宰相殿にも報告を入れたところ、彼女の褒賞については隣国での謁見の時に改めて話をするという事で早々にもう1人と合流し隣国の王都へ向かえとのお達しだった。




 そんなこんなで魔物を屠りながら順調に徒歩旅を続けて2日後の昼過ぎ。

 俺達は無事宿場町に到着した。

 ついて早々、門番達に案内されたのは宿場町の責任者のお屋敷である。

 その場所で4人目――風の守護者ドミニク・ハルスマンとも合流した。


()はドミニク・ハルスマン。王命により、魔王討伐まで守護者として貴殿らと行動を共にする事になる」


 やや神経質そうな眼鏡の青年ドミニクはルーベル王国の貴族ハルスマン伯爵家の次男で騎士らしい。

 正直、貴族って養成学校時代からあまりいい思い出がないんだけどどう接したもんか。

 俺達を品定めするあけすけな視線に辟易していたら、隣にいたリュネーゼが早速とばかりに特大級の爆弾をぶちかましてくれた。


「あらやだ、やらしい視線ねぇ」


 その発言に、その場の空気が凍りついたのは言うまでもない。

 アルム少年とミュイ嬢はちょっと引いた顔でチラチラとドミニクに視線を向けながらひそひそと小声で話しているし、ディアは心底興味なさそうに室内を見渡してる。ルーチェ嬢は机の上に置いてある果物に目が釘付けだ。みんな自由か。


「……ん、のッ」

「あら、貴族ってこんなジョークで怒ってしまうのかしら? 短気で横暴な殿方は嫌われるわよ?」


 ドミニクの相手を射殺さんとする視線が怖い。そんなドミニク相手に蠱惑的な笑みを向けて挑発しにかかるリュネーゼも怖い。頼むから仲良くしてくれよ。

 見えない火花をバチバチと飛ばし始める2人を流石に放っておくわけにもいかず、泣く泣く俺は仲裁に入った。ディアとアルム少年しかり、ドミニクとリュネーゼしかりなんかこんな役割ばっかりなんだけどなんでだよ畜生!


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