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【3】養成学校時代③



 たった今思い出した(・・・・・)ばかりの記憶によると、俺がいるこの世界は『銀の茨の英雄譚』――略して銀英という王道ファンタジーRPGの舞台らしい。


 幼馴染と共に冒険者として生計を立てていた主人公はある日魔物に襲われていた不思議な少女と出会う。その戦いの中で主人公は光の守護者として覚醒し、なんやかんやあって魔王が復活しかけている事を知る。魔王の復活ひいては世界の滅亡を阻止する為、主人公は女神の巫女である少女と共に炎水風地闇の属性を司る守護者を見つけに旅にでる――といったストーリーだ。


 大変奇妙な事に、何故か俺はこの異質な記憶が別の世界のものだと理解していた。

 ちなみにゲームに関連する専門用語も同様で、自然と理解できる。


「いや、まじかこれ」


 おそらくこれがいわゆる前世の記憶ってやつなんだろうか。

 昔教会に行った時、眠気に耐えながら聞きた話の中に確か輪廻転生論みたいなものがあったはずだ。

 しっかし思い出した記憶が超断片的——さっきのあらすじモドキとそれに付随した知識のみだ——でよかった。

 もしこれが人生をまるっと思い出したとかだったらもっと取り乱していたと思う。

 というか俺は俺でいられたんだろうか、今更だけどゾッとした。


 そんなたらればはさておき正直この記憶は一介の平民の手に余る代物だ。

 この記憶が未来を示していたなら大問題ではあるんだけど、魔王や守護者なんて御伽噺レベルの存在を持ってこられてもイマイチピンとこない。

 仮に数年後に魔王が復活するかもしれないと伝えたとして、頭のおかしい奴認定されるだけだ。

 ということで、この件はこの世界のどこかにいるであろう名前も分からぬ主人公に丸投げする事にした。


 頭の中で締めくくり俺は寝転んでいた自室のベットから起き上がる。

 ウェンが手を回してくれた結果、体調不良で早退した俺は寮の自室で療養中という事になっていた。

 身体はいたって元気なので罪悪感があるけど、この記憶も含めて考えておきたい事があったから丁度良かった。

 その1つは言うまでもなくペアになったディア・ラシュラムの事である。


 今のままじゃ訓練に支障が出る為、嫌われている現状を打開したかった。

 教官にペア替えを申請するって手段もあるけどそれは最終手段にしておきたい。

 何故なら大義名分を持ってあんな美人とお近づきになれるまたとないチャンスだからである。

 なにせ俺は物や風景、人に限らず綺麗なものを眺めるのが好きだ。

 だから見惚れる程綺麗なあいつともせめて顔を眺めていても不審者扱いされないくらいの関係にはなりたかった。


 では、好感度をあげる為に何をすべきか。

 まずは情報収集である。




 翌日、俺はウェンと一緒にあいつ——ディアの情報収集に乗り出した。

 うまくいけばディアの友人に辿り着くだろうなんて軽く考えていた俺の予想は見事外れそれどころか日を重ねても噂以外の、例えば好きなものや趣味といった情報は全く入手できない。

 頼みの綱とばかりに授業終わりに教官を尋ねれば、うっかり渋いお茶を飲んでしまったような表情で長いため息をつかれてしまった。


「……潔く本人に聞きにいって粉々に砕けてこい」

「砕けたくないからキョーカンに伺っているんですけど⁉︎」

「オズ落ち着こうか。教官、せめて誰と仲がいいかだけでも教えていただけませんか」

「俺も知らん。あいつが誰かと行動しているところなんざ見た事がないからな」

「成程。情報感謝します」

「ぐぬぬ、俺には砕けろとか言ってたくせに……」

「用が済んだのならさっさと帰れ」


 そのまま教務室を追い出されてしまった俺は、ウェンと共になんとなくモヤモヤを抱えたまま寮の談話室へ足を踏み入れた。

 ここまで得た情報を元にこれからの事を話し合う為だ。


 調査を続けて分かったのは、聞こえてきた噂の信憑性の無さだった。

 例えば噂の1つに残忍とあったけど、あいつが実際に誰かを怪我させたり痛めつけたりした目撃情報はついぞ出てこなかった。人を操るって噂も同様だ。まぁ無いと言い切れないのは冷酷って噂だけど、悪感情を向ける相手に善意など向けるまい。

 結局合っていたのは闇魔法の適性があるって事くらいだった。


「はっきりしているのは闇属性の適正があるって事くらいかぁ。出回ってた噂のほとんどが嘘って……恐ろしいな」

「噂は貴族の十八番だからね。しかも彼の場合は……」


 曇り顔のウェンが言葉を濁らせる。

 忌み子だから。ただそれだけで、ここまでひどい噂が(まか)り通ってしまう。

 理不尽だと思った。


「それでオズはどうする——って聞くまでもなさそうだね」

「うん。直接ぶつかってみる。ちゃんと俺の目であいつを見て知りたい」

「そっか。教官の言った通りかな」

「砕ける気はないからな?」


 そう言って恨めしげに睨めば、ウェンは貴公子然とした端正な顔にからかい混じりの笑みを浮かべて肩をすくめた。


「なら引き際を間違えないようにね。オズはのめり込むとなりふり構わず追いかける癖があるから」

「ゔっ……気をつけるよ」


 そうと決まれば早速明日から行動開始だ。

 新たな目標を前に、俺は気を引き締めた。


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