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【26】旅の始まり③


 時刻は昼過ぎ、国境まであと少しといったところでアルム少年が急に馬車を止めた。

 何が何やらな俺たちに変わりアルムに声をかけたのは先程まで外を眺めていたルーチェ嬢である。


「アルムも、感じた?」

「……やっぱりそうなんだな」


 その問いにこくんと頷いたルーチェ嬢は、草原のはるか先――地平線の向こうに小さく見える森をを指差して告げた。


「あっちから、守護者の気配」


 その言葉に、俺とディアは思わず顔を見合わせる。

 その方角はどうみても隣国ではなかった——つまりもう1人別の守護者がいるってことだ。


「ディア、お前も何か感じる?」

「……いや、すまないが俺にはまだわからない」


 守護者同士が互いを察知する感度には個人差があるようで、どうやら現状アルム少年とルーチェ嬢がずば抜けてるらしい。少し気落ちした様子のディアを宥めながら俺は進路変更を連絡すべく急いで通信用の魔道具を準備し始めるのだった。




『ふむ、別の守護者、か。ならばそちらを優先し必ず協力をとりつけるように。ルーベル王国へは私の方から連絡を入れておこう。では、……良い報告を待っているぞクローセム』

「承知いたしました」


 ブツリと途絶えた魔道具を前に、俺ははぁと深く息を吐き出した。

 旅への同行が決まった時に俺は宰相殿から定期的に状況報告を行う役目を仰せつかっているわけだけど、正直宰相殿とは魔道具越しでもあまり顔を合わせたくはない。

あの威圧感はただの一般兵には少々しんどいのだ。

 ディアにはそのうち慣れると励まされたが、全く慣れる気がしない。


「報告終わったぞー。もう1人の守護者を仲間にしてこいだとさ」

「ならば早く移動するか」


 ディアの声を皮切りに俺たちは街道脇の草原へと足を踏み入れた。

 草原はそれなりに見通しがいいとはいえ整備された街道よりも魔物に奇襲されるリスクが高まる。

 それゆえ、これ以降俺達は馬車を降りを徒歩で移動する事になった。


 守護者までの道案内役としてアルム少年を先頭に俺、ミュイ嬢、ルーチェ嬢、ディアという順で草を踏みしめ進む。馬車の移動中とは打って変わって、今までどこにいたんだってくらい魔物が現れて辟易した。ああもう俺たちは急いでるんだっての!


 この草原に出没する魔物はかつてはほとんどがクラス1だったらしいが、今はほとんどが2から3だ。魔物の出現頻度も多く複数体を相手取らなければならない状況も続いている。


 にもかかわらず急いで移動できるのは、ひとえにディアとアルム少年の存在が大きかった。

 たった今目の前で単身クラス3の魔物を屠ったアルム少年を視界に捉え、すごいなぁと感心していたら、隣のディアが少しだけむっとした顔になった。


「……俺だってクラス3なら余裕だ。今ならクラス4だって――」

「いや対抗するなよ」


 呆れ口調で返せば、ディアは黙ったまま近づいてきたクラス3の魔物を2体を瞬殺していた。

 相変わらず火力がおかしい。片手間で討伐するクラスじゃないからなクラス3って。

 俺みたいな一般騎士はクラス2ですら単独討伐できたらいい方だ。

 2人を見てるとだんだん俺が弱いんじゃないかって錯覚しそうになる。

 別に俺は弱いってわけじゃ……ないよな。うん、ないない。感覚麻痺してきた……。


 魔物を屠りながらひたすら歩き続けているとついに草原と森の境界線に辿り着いた。

 頭上にあった太陽も随分と下がってきていて、だいたいあと1、2時間もすれば日没だろう。

 そのまま森へ進もうとするアルム少年を止め野宿の準備を提案したわけだけど、アルム少年は首を横に振った。


「そうなんだけど、それじゃ駄目なんだ」

「根拠はなんだ」

「それは、その——」


 口籠るアルム少年にディアは少し苛立っている様子だった。

 多分、根拠は記憶なんだろうな。

 だから説明しようにもどう話せばいいのかわからないんだと思う。

 俺が思い出していたのは王城での一見だ。

 あの時アルム少年は『終盤』と口にしていた。あの口ぶりからすると、おそらくアルム少年は終盤まで何が起こるか詳細を知っているんじゃないだろうか。


「なぁアルム少年。それは守護者としての勘か?」

「あーうんまぁ多分そんな感じ! とにかく、『そうしなきゃいけない』んだ!」


 俺のの問いかけにアルム少年はぶんぶんと頷いた。

 その様子を見たディアは疑い半分と言った感じだ。

 ディアの反応は当たり前だ。俺だってもし前世云々を知らなかったら絶対に信じないと思う。


「……どうする、オズ」

「守護者の勘なら信じた方がいいと俺は思う。どのみち森には3人目がいるんだろ? 早く合流する分には越したことないだろ」

「オズがそう言うなら……わかった」

「2人もそれでいいか?」

「はい!大丈夫です」

「ん、行く」


 2人に尋ねればすぐに前向きな返事が返ってきた。

 うん、勇敢なお嬢さん達だ。


 頷き合きあった俺達は、満場一致で薄暗い森の中へ足を踏み入れた。


 はてさて、一体何が待ち受けているのやら。


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