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【24】旅の始まり①

引き続きよろしくお願いいたします。


※2章は結構冒険要素が強めです。また親友コンビ以外の男性・女性キャラも普通に出張ってます。




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 王都を出た俺たちが向かうのはかねてからうちの国エストルミエ王国と親交が深かったお隣の国ルーベル王国だ。

 丁度俺達が呼び出された日に届いていた親書によると、どうやら守護者の一人が見つかっているらしい。

 ディアが守護者として教会に認められた直後から実は隣国でも水面下で守護者探しが始まっていたそうだ。どうりでタイミングがいいはずだ。


 そんなわけで、今向かっているのは隣国との国境に位置する宿場町。

 そこで俺たちは新たな守護者と合流する手筈となっていた。

 合流した後は新たな守護者と交流を深めながら隣国の王都へ向かい王族と謁見することになっている。まぁ、今後の予定はさておき――。


「ヘルトの加入時期は終盤のはずなのになんでこんな序盤からいるんだよ! やっぱりお前、転生者だろ! そうなんだろ!? なぁ!」

「……」

「こら無視するなーッ!」


 ガタンゴトンとこの国所有の魔馬車に揺られながら、もうずーっとこの調子である。

 主人公もとい光の守護者ことアルム少年は未だディアが転生者だと疑っているらしく、言質をとる事にご執心だ。最初は仲裁に入っていた俺もいい加減面倒くさくなってきてもう放置している。

 頼むから隣国に着く前にはお前ら仲良く――は無理でも少しは歩み寄ってくれよな。


 わぁわぁぎゃぁぎゃぁ賑やかなアルム少年の声をBGMに馬車内を見渡していれば、座席で申し訳なさそうに小さくなっているアルム少年の幼馴染であるミュイ嬢を見つけて思わず同情してしまった。

 別にミュイ嬢が悪いわけじゃないんだけどな。

 流石に年下の女の子をそのまま放置するのは忍びなくてどうしようか悩んでいたらミュイ嬢と目があった。あああだからそんな申し訳なさそうな顔しなくていいって!


「あの、アルムがディアさんに迷惑をかけてて本当にほんっっっとうにごめんなさい」

「まぁほら、大丈夫だから。あんまり気にしないでな、クッキー食うか?」

「うううぅありがとうございます……」


 幼馴染の暴走にぺこぺこと頭を下げながらミュイ嬢を宥めながら、内心この子はかなりまともそうだと好感を覚えた。ちなみに俺の中でミュイ嬢の株が高いワケはそれだけが理由じゃない。

 顔合わせの際、ディアの髪色や瞳の色に対して戸惑いを覚えいていたようだけど嫌悪感は向けてこなかったんだ。多分事前に説明があったからだと思うけど、それでもそう簡単に対応は変えられないものだ。だから、とてもできたお嬢さんだと思う。その点に関してはアルム少年ももう1人のルーチェ嬢も同様だ。


「信じられないかもですけど、普段はまともなんです」

「『てんせいしゃ』ってやつが関わるとああなるのか。ミュイ嬢は何か知ってる?」

「んー実は私もよくわからないんですよね。アルムに聞いてもなんでもないの一点張りで教えてくれないんです」


 むすっと頬を膨らませながらクッキーをもぐもぐと食べるミュイ嬢に相打ちを打ちながら、俺は窓の外に視線を向けた。隣国まで整備された一本道の周りには鮮やかな緑の絨毯を引き詰めたような見晴らしのいい草原が地平線の向こうまで広がっている。心地よい穏やかな日差しに照らされながら、魔王が復活しているとは思えない程平和な光景に俺は思わず目を細めた。本当に……魔王なんているのかね。


 旅に出てから数時間経つが未だ魔物の襲撃はない。ついこの前までの騒々しさが嘘の様だ。


「あー…えっとおい、あんた」

「あんたじゃないわよバカアルム! オズさんでしょ!」


 なんとも微笑ましいやりとりに窓から視線を戻せば、ミュイ嬢の隣に座るアルム少年の姿に気がづいた。そういえばいつの間にかわめき声は聞こえなくなっていたな。


「ヘル――じゃなかったディアさんって時々変なこと言ったりしてないか?」

「目上の人には敬語!」

「ああもうわかったって……」


 なんだか、ミュイ嬢が保護者にしか見えなくなってきた。ふんす、と鼻息荒くアルムを睨みつけるミュイ嬢を宥めながら、出鼻を挫かれてげんなりしてるアルム少年に視線を向ける。


「言い辛かったら俺相手に敬語はいいぞ、きちんとした場ではちゃんと使おうな。で、変なことだよな、特に思い当たる節はないかな」

「そ、そっか。……なあ、一応聞くけどオズさんも転生者じゃない――んだよな」


 そう言って、おそるおそる探るような視線を向けてくるアルム少年。

 王城でディアに突っかかっていた時も彼はしきりに進行状況がどうだと口にしていた。

 話を聞いている限りじゃどうにも彼の知っているシナリオと少し違う事を気にしていたようからきっとこれ以上転生者(イレギュラー)の存在でシナリオが乖離していかないか不安なんだと思う。ただ、蜂蜜色の瞳にはわずかばかり期待の色も伺い見えるから……もしかすると拠り所を見つけたいのかなとも思ってしまう。あくまで俺の予想にすぎないけどな。


 このまま俺が転生者である事は明かさない方がいいなと、心の中で結論づけた。

 あまり変に期待させるのも酷な気もするし。

 そう思いながら口を開きかけたわけだけど――。


「オズ、付き合うだけ時間の無駄だ」

「…………おいディア」


 今までガン無視だったディアに水を刺されて結局返答できずに終わてしまった。

 せめて最後までちゃんと言わせてくれよとジト目を向ければ、ふんとそっぽを向かれてしまう。

 どうやら思っていたよりかなりご機嫌斜めのご様子。

 

 その様子に苦笑していたら後ろからアルム少年にちょんと上着の裾を引っ張れ、「ごめん」と小声で謝られてしまった。

 ミュイ嬢の言う通り冷静になればちゃんと分別がつく少年だと分かって少しホッとしたわけだけど、できればそれは俺じゃなくてディアに言ってくれ。……あの様子じゃ無視されるかもだけど。


 話が終わるや否や待ってましたと言わんばかりに炸裂するミュイ嬢の小言。

 それを神妙に受けとめる少年の肩をがんばれと軽く叩いた俺は、その場を離れ読書に耽るディアの隣にそっと腰をおろした。

 さて、どうやってディアの機嫌をとろうかね。ここは無難に菓子でも口に突っ込んでやろうか。


 余談だけど、この(かん)女神の巫女であるルーチェ嬢は飽きもせず窓の外をじっと眺め続けていた。……この子はこの子でなんだかマイペースなお嬢さんだな。


 大丈夫か、この旅。


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