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【2】養成学校時代②


『黒い髪』と『赤色の瞳』


 その2つが何故忌み色といえば、人間の脅威である魔物が同じ色を持っているからだ。

 だから黒髪もしくは赤目を持って生まれた者は人の身でありながら魔物の力を持った者として扱われ、それはもう蛇蝎の如く嫌われる。

 差別の程度は地域によりけりで、見つかったら命が危ない地域もあれば、敬遠されるだけの地域もあるんだとか。


 件の有名人もすでにかなり嫌われているようで、ピンからキリまで様々な噂が飛び交っていた。

 冷酷だとか残忍だとかいう噂から始まり、闇魔法で人を操るだとか、血を吸うとか、果ては魔物が化けているとかいう噂を耳にした事がある。

 さすがに魔物は眉唾だろう。人間に化けれる魔物がいるなんて聞いた事がないし、そもそも国の養成学校が魔物の侵入を許すはずがない。

 あと血を吸うとかはもはや別の生物になっているのでそれもないと思う。

 ただ、冷酷とか残忍っていうのは事実って可能性もあるだろう。こればっかりは会ってみないと分からないので、噂が嘘であることを願うばかりだ。


 期待と不安でドキドキしながら臨んだ顔合わせ。

 どんな奴が来ても最初はにこやかに挨拶をと考えていた俺の目論見は崩れ、あいつと対面した瞬間俺は無言で固まってしまった。

 恐怖とか嫌悪とかではない。見惚れて、である。


 魔物のような黒い髪と噂されていたそいつの髪は、俺には夜空を思わせるとても綺麗な色合いに見えた。

 少し吊り目がちな瞳だって魔物の澱んだ赤い瞳なんかじゃない。故郷でよく見かけた瑞々しいベリーのような色合いで、俺にとっちゃ親しみさえ感じるものだった。

 どこが魔物色だよ見た奴目が腐ってんじゃねぇ?

 そして何よりあの美貌。色白の端麗な顔立ちは、イケメンというよりも中性的な美人って感じだ。

 男って最初からわかっていなければ麗人と勘違いしてもおかしくないかもしれない。


 ある意味この麗しさが人外系の噂の所以(ゆえん)なのかもしれないけど、だからといって魔物呼ばわりはひどすぎる。

 言い出し始めた奴の正気を疑うレベルの綺麗なものへの冒涜だ。

 ……あれ、もしかして俺の感性が変なのか?


 とまぁこの間俺は一言も喋らずに相手をガン見していたわけで、ハッと我に返った時には時すでに遅し。

 相手から向けられる視線が恐ろしいくらいに冷え切っていて顔が引き攣りそうになった。

 一応にこやかに挨拶したけど、絶対零度の眼差しで「よろしくする気はない」と突っぱねられてしまい頭を抱えたくなった。


 教官が解散を告げるまでめげずに会話をふってみるも状況が好転する事はなく、挽回できないまま顔合わせは大失敗という結果に終わった。

 授業終わりを告げる合図と同時に立ち去るあいつの背中をぼんやり眺めていれば、肩を叩く感触にのろのろと振り返る。


「お疲れ様。大丈夫かい、オズ」

「……ウェン」


 苦笑いを浮かべたウェンの薄水色の瞳には心配の色が滲んでいた。


「何か言われていたようだけど」

「あーよろしくする気はないってさ。やっばい、ガン見しすぎて嫌われた」

「……君、そういえば綺麗な顔が好きだったね」


 そう言えば視線が一瞬にして残念な子を見るようなものへと変わった。


「顔だけじゃなくて髪も目もすっごく綺麗だったぞ! 誰だよ魔物色だなんて言ったの、全然違うじゃん」

「間違いなく貴族だろう。魔物を見た者なんて稀だろうし、それでいて慣習や風習には盲目的だからね。違うなんて発想に思い至らないのさ」

「なるほどなぁ——って、……ん?」


 ウェンと一緒に顔合わせの会場となったグラウンドから校舎に戻る途中、ふいに視界がブレた。


 ぱちん、と。

 まるでしゃぼん玉(・・・・・)が弾けるような感覚。

 次の瞬間、濁流のように脳裏を駆け巡っていくナニカに冷や汗がぶわりと噴き出た。

 次第に水が土に染み込むがごとく脳内に混ざり溶け込んでいったのは、俺じゃない別の誰かの記憶。

 今俺に何が起きているのか、理解が追いつかない。


「オズ?」


 訝しげな友人の声が聞こえたけど返事をする余裕はない。俺にできたのは意識を手放さないようにただひたすら耐える事だけだった。


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