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【17】騎士時代-王都⑤


 そこからはもう必死だった。

 走って、走って。かすかに聞こえる魔物の這う音を頼りにひたすら走る。

 あんな状態のディアを1人で行かせるかよ。


 そうして走れば、木々の間に魔物の腕を躱すディアの姿が見えた。

 俺は咄嗟に魔銃を構えディアの背後に迫る腕を撃ち抜けば、ディアは落下してきた腕を躱しながら驚きと非難を内混ぜにしたような表情で俺を睨みつけてきた。


「何故ッ――」

「馬鹿を止めに来たんだよッ!」


 魔物の気がディアへ向かないよう魔銃で魔物の口や腕を狙い撃てば、流石に煩わしく思ったのか魔物が俺を()る。目なんてどこにあるのかわからないけどな!


 日が昇る。


 ディア切って、俺が魔銃で撃ち抜いて。どちらか片方に意識が向かないように神経をすり減らしながらの戦いだ。この均衡が少しでも崩れれば――きっとあっけなく死ぬ。

 俺に向かって勢いよく打ち出された鉛のように重い体に鞭打って、必死に躱していく。

 幸い魔物の方も疲労は溜まるのか攻撃の威力や量が随分と落ちているから先程と比べればマシだ。

 それに加え森の中という事も効いて俺たちはまだ生き残れている。

 ああくそ、呼吸をする度に胸が痛い。


 俺に向かって腕を振り上げた魔物が、急にバランスを崩した。

 どうやら魔物の背後からディアが切りつけたらしい。

 崩れ落ちる魔物から慌てて距離をとりつつ、ふと耳をすませば鎧の音が聞こえた。

 それは俺達にとっての希望の音だった。


「ディアッあともう少しで――」


 一瞬、視界がぶれる。魔力切れの症状だ。多分保ってあと2、3発だろうか。

 鎧の音が近づいている。後続部隊が来てくれるまで持ち堪えれればいい。

 そう願いをこめて魔銃を構えた次の瞬間、右足の力が抜け――思わず膝をついた。

 まずいと思った時にはすでに遅く、気づけば地面の上を転がっている。

 遅れてやってきた全身の痛みで、魔物の腕に薙ぎ払われたことを理解した。


 ディアが何かを叫んでる。


 魔物の腕が巻き付いた俺の体が、ずるずると引きずられていく。

 あぁ終わったな、とどこか他人事のように考える自分がいた。

 一度動くのをやめた体はピクリとも動かせない。

 眼前に迫った魔物の口に視線を向ければ人の部品(食べかす)が見えた。


 乱雑に掴まれた体がミシミシと悲鳴をあげ、痛みに息がつまる。

 魔力切れと痛みとで、俺の意識がだんだんと闇に塗りつぶされていった。

 最後の最期で気を抜いてしまった、俺のミスだ。


 心の中でディアにごめんと呟く。


 暗闇の中、ぐしゃりと肉が引き潰れるような音が聞こえた。


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