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【13】騎士時代-王都①


 それから3年が経った。俺は副都で、ディアは王都で未だ騎士を続けている。

 この3年間で俺も魔銃使いの騎士として魔物討伐任務でそこそこ活躍できるくらいには強くなった。一方でディアはというと通常なら騎士十数人で対処しなければならないクラス3の魔物を単独撃破したりとなんかもう別次元の強さを見せている。ちなみに魔物のクラスは5段階で表され、数字が大きくなる程強いという認識だ。

 強さも相まって王都じゃ相変わらず孤立しているディアだが、副都だとだいぶ認識も改善され街中を歩いていても悪意に晒される事はほとんどないといってもいい。元々顔がいいのも相まって格好いいと結構モテていたりするのはちょっとだけ羨ましい。

 ここまで来るのにだいぶ時間はかかったが、ディアへの偏見が減って達成感を噛み締めていたところで俺に異動命令がくだった。

 不機嫌顔の団長曰く、俺はこの春から王都に配属されるらしい。

 しかもどういうわけだか第3騎士団に新設された遊撃部隊の1班を任されるとのこと。騎士生活5年目突入と同時にまさかの大出世である。魔銃使いが珍しいとはいえ、大した功績もない俺がいきなり役職付きとかなんでって思うじゃん?


「ようはラシュラムの緩衝役してだろうな。上はお前がりゃ御せるとふんだんだろ。多分副班長はラシュラムだと思うぞ」


 要するに上層部がディアを持て余した結果、ディアに対する副都での認識を変えた俺に白羽の矢が立ったということだろう。近いうちに王都の騎士になってディアの認識を変えたいとは思ってたけどさ。

 何かあれば連絡してこいと団長からありがたい言葉を頂戴したのでもしもの時は全力で頼ろうと思う。団長の予想通り副班長はディアだった。


 同時に懸念もある。こうして遊撃部隊が設立されたのも、最近段々と魔物の目撃情報が増えているからだ。……いよいよあの未来が現実味を帯びてきた。


 正直誰かにあの記憶についてぶちまけたい。胃が痛くて仕方がない。

 御伽噺の魔王が現れるかもしれないだなんて、どう伝えればいいんだ。

 どこに現れるかも、どんな被害が起こるかもわからない。

 俺はどうしてこんな中途半端にしか記憶を思い出せないんだろう。


 不安を押し殺したまま慣れない書類仕事と頻繁に舞い込む魔物討伐に忙殺され飛ぶように日々が過ぎていく。


「オズ、少し休憩を挟んだ方がいい」

「え、……うわもうこんな時間か」


 報告書を纏めていた手を止め窓の外を見るとすでに日が沈んでいた。慌てて室内を見渡せば俺とディア以外誰もいない。


「各自仕事を終えてとっくに退勤しているぞ。お前も挨拶を返していただろう」

「ぜんっぜん覚えてない……」


 呆然と答える俺にディアは大きなため息をつく。


「もう帰るぞ」

「いや、まだ仕事が――」

「まだ期限はあるだろう? どうせならギリギリで提出してやれ。どうせこれはお前に対する嫌がらせだからな」


 嫌がらせ、か。次から次へ書類仕事がまわってくるし時折俺がやる必要があるのか疑わしい書類もまぎれていたから薄々勘づいていたけどさ。

 とはいえ下手に反抗して王都を飛ばされるのは困るので粛々とこなしていたわけだけど。


「騎士歴5年目の平民が出世しやがって目障りだー……ってことかね」

「いや、オズが副都の配属だったからだろう。第3騎士団は副都の団長を目の敵にしているらしいからな」

「あぁそっち」


 因縁に俺を巻き込まないで欲しい、切実に。


「上にはすでに報告したから対処はするだろう。あとは副都の騎士団長にも報告済みだ……というわけでお前が気負う必要はない。さぁ帰って夕飯だぞ」

「わかったっての」


 しれっとえげつない意趣返しを口にしたディアに急かされて、俺は書きかけの書類を片付てると席を立った。俺が何かする間もなく問題が1つ解決したわけだけど、正直頭を悩ませる問題はまだまだある。その1つが班のメンバーとディアの関係だ。ここに配属されてからすでに2ヶ月が経過しているにもかかわらず、未だにぎくしゃくだ。それとなく仲をとり持とうとしたけれどあまりうまくいっていない。俺の夜色浸透計画もだ。


 騎士団の食堂で遅めの夕飯を食べ、雲一つない夜空のもと俺たちは帰路へついた。

 遠くには俺たちが住んでいる騎士寮の明かりが見える。

 現在は色々あってディアと相部屋なので二人とも帰る方向も場所も同じだ。


「うーん……人生ってままならないな」

「いきなりどうした?」


 改めて王都に住んで思った事は個と個の繋がりの希薄さである。

 これじゃあこの5年間、ディアの環境が一向に改善されないはずだ。


「んーディアの良さがなかなか伝わんねぇなって」

「またお前はそう言う……」

「お前は悔しくないのかよ」

「別に。俺はお前が理解してくれるだけで十分だ」


 俺が驚いて顔をあげれば、からかい混じりにはにかむディアの姿があった。

 向けられた眼差しの温かさになんとなく気恥ずかしさを覚えて、誤魔化すように自分の後ろ髪をわしゃりとかく。


「なんだ、照れているのか?」

「いや照れてるのはむしろディアの方――いってぇ!」


 痛む背中にジト目を向ければ、ディアの瞳が愉快そうに弧を描いた。


「おいディアお前な――」

「俺は大丈夫だ」


 遮るようにディアが言う。有無を言わせない圧を感じて俺はそれ以上の言葉を飲み込んだ。


「だから、オズは自分の事を優先してくれ。最近のお前、余裕なさすぎだ」

「……へーい」


 どうして、こんないい奴が報われないんだろうな。

 この世界はやっぱり理不尽だ。


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