【1】養成学校時代①
日の光を反射し、さながら満天の星空のような艶やかな夜色の髪。
剣呑な色を宿しながらもまるで宝石のような輝きを放つ鮮やかなベリー色の瞳。
精巧に作られた人形のように目鼻立ちの整った美貌。
感動が極まりすぎると、人は言葉を失い固まってしまうらしい。
例えばそう――あいつと対面した俺のように。
呑気にも、目の前の超絶美少年に見惚れていた俺は、この直後に人生の転機が待ち受けている事など知る由もなかった。
誰が予想できるだろう?
この直後に前世の記憶を思い出すなんて。
この世界が実は前世のゲームの世界っぽくて、遠くない未来に世界に危機が訪れるかもしれない——なんてさ。
*
エストルミエ王国の辺境にある町で生まれ育った俺――オズワルト・クローセムには夢がある。それはこの国に仕える騎士になる事だ。
今はその夢を掴み取る為、騎士候補生として王都の騎士養成学校で学ぶ日々をおくっている。
「オズ、いつもより楽しそうだね」
「だっていよいよ手合わせだぞ!」
入学してからこの2ヶ月間、ひたすら基礎訓練に明け暮れていた成果を披露する機会がついにやってきたんだ。
テンションが上がらないわけがない。
おっかない魔物を相手に一歩も引かず戦う騎士の勇姿に憧れること8年。
ここまでくるのに本当に色々な事があった。
猛勉強の末なんとか入学できたものの、入学したらしたで当たり前だけど鍛錬と勉強三昧。
また騎士養成学校は身分に問わず門戸が開かれているとはいえ圧倒的に貴族が多いから、うっかりやらかして目をつけられない為にも早急に作法や派閥や暗黙の了解を覚えなくちゃいけなくて、初めの頃はめちゃくちゃ苦労した。
そこらへんは未だ勉強中だけど、最低限やらかしたらまずい事だけは押さえたので及第点だろう。
閑話休題、ついにやってきた手合わせ当日。
手合わせの相手は教官が俺達の相性を考えて決めるらしく当日掲示板に張り出されるまで誰がペアなのか分からないからドキドキだ。
気心しれた奴がいいなぁ、なんてのんきに考えながら友人と共に掲示板を見に向かう。
掲示板前は人でごった返しており、人の波に流されているうちに隣にいた友人ともはぐれてしまった。
「ぜんっぜん掲示板見えねぇな。クッおのれ俺の低身長め……」
「あ、いたいた。オズ、ほらこっち」
「ウェン!」
友人——ウェンに救出され掲示板の前へと移動した俺は、ふと友人が御愁傷様とでも言いたげな眼差しでこちらを見ている事に気づいた。
「どったの?」
「……まぁ、うん」
言葉を濁すウェンに首を傾げつつ掲示板を見上げた俺は自分の名前を探し始め——ウェンの不可解な反応の理由を理解した。
「……まじか」
俺の名前の横に記されていたのは、隣のクラスの有名人の名前。
有名と言っても悪い意味の、だ。
――ディア・ラシュラム
会った事もない俺でも、噂だけならよく耳にする。
魔物の色――すなわち黒い髪に赤い瞳の忌み子であると。