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第26話 残業確定です

「タスがどこにも居ないわ」


 夜勤に出かけようとした私をティアが呼び止めました。


「遊びに行ったのかも知れません」


 ふむ、魔法を覚えたのを自慢したかったのですかね。


「そろそろ、日も暮れるわ」

「オークさん、あなた達は鼻が良さそうです。タス君の匂いを辿ってくれませんか」


 オークさんが匂いを辿ります。

 匂いは下水道の入口に続いていました。

 オークさんは大柄なので下水道には入れないようです。

 中は迷路になっているんでしょうね。

 タス君は迷ったのでしょうか。


「仕方ありません。ティアはギルドに捜索の依頼を出して下さい」

「分かったわ。行って来る」


「私は門番の仕事をキャンセルしてきます」


 門に行くとちょうど門を閉じる準備をしているところでした。

 外を見ると星が一つ瞬いています。

 一番星でしょうか。

 むっ、星が大きくなっています。

 隕石ですかね。

 星はどんどん大きくなりスピードはゆっくりとなって。

 私の前で停まりました。


「告げる。今宵この地に災いが降りかかる。心して備えるが良い」


 これは上司からの伝言に違いありません。


「仕事ですか?」

「そうだ」


 星はそう告げると去って行きました。

 私以外に星は見えていないようです。

 門番は何事もなかったかのように門を閉じました。


 困りました。

 タス君と仕事のどちらかを優先しなければなりません。


 私にとって仕事は神聖なものです。

 しかし、人の命には代えられません。


「災いが訪れるそうです」


 顔見知りの門番にそう声を掛けました。


「大規模な盗賊団でも襲ってくるのかもしれんな。増員はしておこう」


 今はこれぐらいしか私が出来る事はなさそうです。


 手がかりを探して下水道の中を彷徨います。

 見つかりません。

 夜も更けて参りました。

 ふと、曲がり角のレンガを見ると金具が刺さっていて突き出したトゲのようになっています。

 そのトゲに着物の一部が引っかかっていました。

 この模様はタス君が着ていたのと同じです。


 この先にタス君がいるに違いありません。

 奥に進むと出口がありました。

 そこはどうやら役所の中庭のようです。

 建物の看板を読みます。


「警備兵庁舎」


 ふむ、目を壁にやると鉤縄に誰かぶら下がっています。

 聖なる光を強くして見るとそれはタス君でした。


「降りて来なさい。でないと揺らしますよ」


 タス君は大人しく降りてきました。


「ちぇ、せっかく魔法覚えたのに。小父さんには見つかるような気がしたんだ」

「説明して下さい」

「妹がいるんだ。人質にとられていて、警備兵が押収した麻薬を取り返して来いって言われた」

「今夜は何か起こるようです。タス君は安全な場所に隠れていなさい」


「おいら、知ってるよ。魔獣の大群が攻めて来るんだ。密輸組織の奴がそう言ってた。どさくさに紛れてなら上手くやれるだろうって」


 咆哮が響き渡りました。

 どうやら、魔獣とやらが攻めて来たようです。


「とにかくタス君は社員寮で待ちなさい。オークさんが守ってくれるはずです。妹さんも必ず助け出します。最近、仕事に失敗した事はありませんので安心して下さい」

「分かった。小父さんに任せる」


 私は門に急ぎます。

 門は複数の何かが当たっている音がします。

 これは長くは持ちませんね。


「通用門を開けて下さい。出ます」

「この状況で出て行くなんて、あんた男だねぇ」


 同僚が尊敬の眼差しで私を見ます。

 門番は呆れながらも通用門を開けてくれました。


 聖なる光強めをぶちかまします。

 外は狼や猪や熊、そしてオークやゴブリンがいて、見た事のない赤い肌の巨人もいます。


 その数、数千といったところでしょうか。

 この事態を招いたのは私の選択の甘さです。

 災いの調査を前もってしていたら、別の結果になったかも知れません。

 しかし、後悔はしてません。


 タス君を犯罪者にしないで済みました。

 私は電撃を使い次々に魔獣と言われる者達を打倒していきました。


「おい、北門と南門と西門が壊されそうだ」


 加勢に駆け付けた同僚がそう告げました。

 困りました手が足りません。

 いくら残業しても同時に3つは無理そうです。


 私は生き残れるでしょう。

 しかし、街の皆はどうなるのでしょう。

 ティアやタス君の顔が浮かびます。


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