第10話 (3/4) 魔族
「ギリギリ間に合ったとは言え、結構まずいわね……」
男は魔族だとしても異次元な魔力を放っている。
「クーナ、場を持たせられるか? 俺は冒険者達の方を見てくる」
「ええ、お願いします」
ガレンは冒険者達の方に駆け寄る。
「ほう、舐められたものだな」
男は前線にたった1人で出てきたクーナを眺める。
「お前達がここに来るまでの様子は見させて貰っていた」
そう言って、男は近くの壁を指す。
「通りで最初から備えられていた訳ね」
そこには、大型のモニターを壁掛けられていた。
「確かにお前達の中で一番強いのは間違い無くお前だろう」
男は魔力を全開にしたまま、一瞬でクーナの背後へと回った。
冒険者達を相手にしていた、様子見などは一切していない。
「だが、俺のが速い」
「危ない!?」
グランが叫んだ。
――しかし。
「あら、あの程度の速度は私の本気じゃないわよ」
無表情のまま、かすかに微笑んだかと思うと次の瞬間にはクーナの姿は消えていた。
男の大剣が空振る。
「……今日はよく防がれるな」
そう言った男の姿も消える。
その次の瞬間には別の場所で男とクーナが斬り合っていた。
「私の速度に着いてこれたのは会長に次いで二人目ね」
「こっちは転移魔法を使ってるんだ。まさか、あれで実力を隠していたとはなっ……。」
「別に隠していた訳じゃ無いんだけどね。全力で動いたら流石に消耗が激しいし、誰もついてこれないからよ」
「魔族以上の身体能力をしていてよく言う……っ!」
次々と移動して姿を現す二人だったが、男の方は点々と移動するのに対し、クーナは豪速で軌跡を描いている事がわずかにわかる。
その速度はダンジョンを攻略していた時に見せたものとは比較にならない。
「す、凄え……」
グランがその様子を見て、思ったままの感想を漏らす。
「あれが学園Sランク、ひいては英雄候補と言われる者達の絶対的な差なのだろうな」
ガレンが回復用ポーションを手渡し、意識の無い者達にはポーションを砕き、中身をかける。
「あれなら勝てるんじゃ……」
「いや……」
そう呟いたガレンは男の様子を見る。
その視線に釣られてグランも男の方を見た。
凄まじい速度で斬り合っているが、クーナが大分優勢のように見えていた。
しかし、段々と男の動きが良くなっていく。
「動きに……慣れてきている?」
「そうだ。……あの男、相当な実力者だな」
「……っ」
段々と押し返されてきたクーナは、その驚異的な速度のまま、闇、呪、重の3属性魔法を行使し始める。
無属性は既に身体能力の強化に割いている為、実質全属性の魔法行使だろう。
重力の球はその重量で剣を弾き、呪属性が形成する球は男が盾状に噴出させている魔力を片っ端から消し飛ばす。
闇の球は大した威力にはなっていないが、無視できる威力でも無い。他2属性に比べると魔力の消費も少ないため手数を増やす役割を担っている。
「ぐっ……」
男は流石にキツい様で防戦一方となる。
「本当に駄目なのか?」
一切の隙を許さない猛攻は、そのまま魔族の男を倒してしまいそうな勢いだった。
「ああ、決定打にならない」
しかし、告げられたのは否定の言葉だった。
ガレンは冒険者達を戦闘の余波が届かないところまで運び始める。
「クーナの速度と火力はあの男を大幅に上回っている。しかし、彼女は自身の強みを活かす為、極端に低い防御面を更に犠牲にし、火力で補う戦い方だ。大抵、いや……ほとんどの奴はその火力と速度に対応できずに勝負がつくから問題がなかった。だが奴は攻守のバランスが良い。安定した、それも一人で勝利を掴む為の戦い方だ。その上で、恐らく奴はこちらで言う現役の≪英雄≫に匹敵する実力を持っている」
防戦一方になっていた男が攻撃の合間を縫い、多少の被弾を無視してクーナに突っ込み始めた。
「なっ!?」
「消耗覚悟で猛攻を続けるのは、攻勢に出られると困るからか?」
一撃当てるだけでも無力化できると見抜いた男は、クーナの不意を突きに行ったのだった。
「……っく、……!?」
その場を離れようとしたクーナに何かが足に絡みつく。
「もーご、もごもごもごっもごもごもごもごっ!(クー、さきほどのお返しなのですっ!)」
土魔法で大部屋の床下に隠れていた狐耳の少女、ガウ・コウにクーナは足首を掴まれたのだった。
「しまっ……!?」
「よくやった、コウ!」
態勢を崩したクーナに男が迫る。
1度でも被弾を許せばそこまで……それがクーナ最大の弱点だった。
「だが、そんな弱点は生徒会が一番わかっている」
2つの強力な氷の矢弾が放たれ、片方は男を狙う。
「……っち」
その氷弾は避けられたものの男とクーナの間に落ち、小さな氷の山が壁となった。
そしてもう片方はコウの手に当たり、コウの手を凍りづけた。
「っは!」
クーナは自身の足が一緒に凍り付く前にコウの手を切り落とし、その場から脱出する。
「クー!?(手がー!?)」
切口も氷づいている為、血が吹き出る等にはなっていないが両腕を失ったコウが地面から飛び出てきた。
「俺の役割はその補佐だ」
そして、冒険者達を運び終えたガレンは氷の矢弾を構えながら言い放つのだった。