第10話 (2/4) 魔族
――数分前、(ジェノ・フォックス)ガウ・コウの間
「ようやく捕まえたわ」
「クーっ!?」
クーナは何処から取り出したのか、黒いロープを取り出し、狐耳の少女ガウ・コウをぐるぐる巻きにして捕まえていた。
少女はロープを必死に外そうとするが全く外れる気配が無い。
「無駄よ、妖魔の縛り縄。ドラゴンですら動きを封じる魔力で錬成された縄よ? 貴方の力じゃ絶対に切れないわ。おとなしく貴女のご主人様のお話を聞かせてくれたらどうかしら」
「クー、それだけは絶対に駄目なのです」
何度聞いても彼女のマスターの話については口を割ろうとしない。
「マスターの魔導兵器復活計画を遂行させる為には誰にも話しちゃ行けないのです」
訂正、本人に話す気は無いのだろうがポンコツなのか、ボロボロと漏らしてくれている。
「……その魔導兵器復活計画、って何かしら?」
「知らないのです! マスターもパドラもルラも、僕だけ仲間外れにして全然計画については教えてくれないのです!」
「……」
どうやら、この少女の主人もこの子から情報が流れるのを懸念して重要な情報は教えなかったようだ。
(それなら……)
「あの大部屋にあった機械で何をしていたのかしら?」
クーナは隠しようが無い情報、一緒に過ごしているなら必ず伝えざるを得ない情報に絞って質問をする。
「クー、あれもコウは触っちゃ駄目ですよ~って言って触らせて貰えなかったのです。だから、僕は何も知らんのです。マスターはこれも魔力を集める魔導兵器だから爆発させたら危ないって心配してくれたのです」
(魔力を集める……ダンジョンの異変を起こした原因はやはりあの機械ね)
「貴女のマスターは随分と仲間想いみたいね。そんな仲間想いのマスターがこんな所で何をしていたのかしら」
次の質問は、どうやらこの少女は自分の主人を心酔しているようなので、それを逆手に取って深く聞いてみる。
「クー、お前は話がわかる奴なのです! そうです、マスターは僕達のために魔族でありながら王国と魔王、両方に宣戦布告する事を決めたのです! 誰にもそれを邪魔される訳には行かないのです!」
「……!? それはどういうっ……」
驚きの事実に更なる質問をしようとするが、突然部屋の扉、更にその奥から感じた魔力の嵐にクーナは言葉を止める。
「クー、マスターが本気を出すのですっ! これで冒険者達は終わりです! 全員さっさとお帰り頂くのですよ!」
「……っく、ここまでね」
もっと聞きたい事はあったがこれ以上は冒険者達がまずい、生徒会組は全員飛ばされるのを見たので今大部屋にいるのは冒険者達だけだろう。
クーナは部屋を飛び出し最初の大部屋を目指す。
「クー、ちょっと待つのですっ! この縄どうやって外すのですかっ!? まさか、ずっとこのままなんですか!? あ、ちょっと……、待ってくださいなのですぅぅーー!?」
後ろで叫ぶ狐娘は放って置き、クーナは全速力で大部屋へ向かうのだった。
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――更にその数分前、(エルド・妖魔)ル・ライダの間
「俺の勝ち……だな」
ガレンは弓を構えながら、片膝をついたエルド・妖魔、ル・ライダに自身の勝利を宣告する。
「悔しいけれどそうみたいね」
ル・ライダは降参と言うように両手を挙げた。
「パドラなら勝てたかもだけれど私じゃ役不足だったわ」
「それは仲間の名前か?」
「ええ、意志を持つ古代ゴーストの魔物、どんな伝承からも消された魔物、SSS級って所かしら?」
「それは中々興味深い話だが、このダンジョンの異変を起こした原因とはまた、関係が無いのだろう?」
「まあね、あれはマスターの方の意志。でも、貴方のお仲間の誰かが戦っているはずよ? 心配じゃ無いのかしら?」
「ここに来るまでに全員の力量は把握できた。そう簡単に負けるほど、柔な奴はいない。」
「大した信頼ね。……マスターの思惑を知りたければ、さっき言っていた様に直接聞きに行くといいわ」
「……お前はそれを止める為に戦っていたんじゃ無かったのか?」
「私達は本来、時間稼ぎ程度にしか期待されてないわね。私自身、本当に最低限しか稼げ無かったけれど、普段研究で閉じこもっている身としては結構頑張れた方だと思っているわ」
そう言うと、両手を挙げていた彼女は片手をパチンッと鳴らし、煙に巻かれる。
「それに……行かせると言ってもマスターは手強いわよ、果たして貴方達で止められるかしら?」
そう言い残して彼女は消えてしまった。
「……転移か」
こうなれば追うことも難しくなる。
こうしてガレンは部屋の扉の先、最初の大部屋へと戻っていくのだった。