第10話 (1/4) 魔族
お久しぶりです。
すみません、結構リアルが忙しくなっていました。
また、今日から頻度は落ちると思いますが更新はしていくのでお楽しみくださいm(_ _)m
「雑魚から始末するのは多人数戦の鉄板だろう?」
そう言って紫紺の光を放つ瞳を輝かせながら武器を構える銀髪の男は冒険者達へと襲いかかった。
「全員構えろっ!」
冒険者達のリーダー、グランがそう叫んだ頃にはもう遅く、目の前には男が大剣を振りかぶり立ち塞がっているのだった。
「まず一人目だ」
グランは自身の持つ大剣で防ごうとするが間に合わ……。
「<ウオーターシールド>っ!」
「<ファイアシールド>っ!」
スフィアとラズの2人の魔法が盾となってグランと大剣の間に現れた。
大剣は一瞬でその2つの盾を食い破ったが僅かに剣速が鈍くなり、グランの防御が間に合う。
「ぐっ!?」
それでも、グランはその剣の勢いに弾き飛ばされてしまうが致命傷は避けた。
「安心するのはまだ早いぞ?」
銀髪の男はそう言って追撃を仕掛ける。
「ぐっ、がっ!?」
男の猛攻は凄まじく、獲物は大剣であるというのにその斬撃の嵐は凄まじく速かった。
Aランク冒険者であり前衛職であるグランですら、その猛攻によってあっという間に追い詰められ、切傷が増えていく。
「<風飛斬>っ!」
「っふ」
ルイが風の斬撃を放ち、男に距離を取らせる。
「――<アイスピラー>」
「――<ディアフレイム>」
「……っち」
下がった男が再び攻勢に入る前に、スフィアとラズは氷の柱と左右から襲う炎の塊を放つ魔法で強制的に距離を取らせた。
「……思っていたよりは連携が取れているな」
感心したような、それと同時にめんどくさそうな表情をしながら男が感想を述べる。
「あったり前よ、俺達はこれでもAランクの冒険者パーティー【火炎の翼】だ。それなりに修羅場は何度もくぐり抜けてんだぜ? そう簡単にやられてたまるかよ!」
既に息も絶え絶えになりながらもグランは男に啖呵を切る。
「ほう、なるほど、それは思っていたより楽しめそうだ」
男は邪悪な笑みを浮かべながら何でもないように言う。
「……防御陣形を取るぞ」
グランがそう言うと前後にグランとルイが立ち、その間の左右にスフィアとラズが立った。
「恐らくあいつはほとんど本気を出していない、俺たち全員でかかった所で絶対に負けるだろう」
相手と斬りあったグランには相手の実力を測れていた。
……ほとんど勝ち目がない事を悟ったという意味でもある。
「だが、耐久となれば別だ。生徒会の皆さんも転移で飛ばされだけのはずだから、直にここに戻ってくるだろう。それまで俺達が耐えれば良い」
“できれば敵の消耗を狙い、生徒会達の負担を減らす事ができれば御の字”……そんな考えだった。
「……悪くない手だ、俺の仲間達は1人を除いて奴らに勝てないだろうからな。精々時間稼ぎにしかならず、奴らは此処に戻って来るだろう」
“だが……”と、男は続ける。
「奴らが戻ってくるまでにお前達は耐え続けられるかな?」
男は冒険者達の目が捉えられない程、異常な速さを持って大部屋を縦横無尽に駆け回った。
「っつ、なんて速さなの!?」
先程見た生徒会の1人、クーナという女生徒も速かったが今目にしている速さはそれ以上である。
「さて、誰から始末してやろうか?」
「……たしかに速すぎて視界に捉える事もできないわ。でも、速いだけならやりようはあるのよ? ねえ、皆! <ロッズフレアボム>ッ!」
そう言ってラズは炎の球体を幾つも作りだし、自分達の周囲に半球状に設置する。
「! そういうことですね、それなら……<ロッズウインド>」
ラズの意図を察したルインは、数は少し劣るものの、常に炎の球体間を縫うように移動する、風が吹き荒れる球体を幾つか作りだした。
「それだけのスピード、自分で制御できているのかしら? 制御しきれずにぶつかればドカンよ」
「なるほど、しかし甘いな」
「なっ!?」
男は速度を落とすこともなく、難なく一切被弾せずに2つの魔法を掻い潜ってラズの目の前に立って見せた。
「俺が速度を制御できないという仮説は大外れだ」
男は大剣を振り下ろ……。
「そんな仮説一本で動く訳ないだろう」
「何っ!?」
グランが男の大剣ごと斬り上げにかかる。
「ぐっ!?」
今回、うめき声を上げたのは男の方である。
グランはそのまま鍔迫り合いの態勢に持ち込み、押し込む。
(……っく、この赤髪の男、先程より段違いに攻撃が重い。……誘い込まれていたか)
男は内心でそんなことを思っていたのだが正解である。
魔法の防御を避けて通れるルートは絞られる。
それを理解していたグランは万全な態勢での奇襲に成功したのである。
「だが、その程度じゃ俺には勝てんぞ!」
(アイテムも魔法付与も使ってこれか……)
そんな万全な態勢でもグランには押さえ込むのがやっとであった。
「ぐ……おお」
「くそっ」
段々と男の大剣はグランの大剣を押し返す。
グランだけでは男を止めきれないのだ。
そう、グランだけでは……。
「<風牙突>っ!」
「ぐはっ!?」
ルイが押さえ込まれた男に向かって槍のスキルを放ち、大きな風の渦を纏った突きが男を弾き飛ばしたのだった。
「――っく!?」
更に飛ばされた先の風の球体に当たり風が弾け、連鎖的に周りの炎の球体も爆発する。
不意を突かれた男はうめき声を上げて片膝をついた。
(膝をついた? いや、これは……)
「……」
男は膝をつくという大きな隙を晒したが、冒険者達は追撃には出ずに武器を構え、黙って陣形を再度整え直すだけであった。
「隙を見た安易な追撃にも来ない……か」
男は冒険者達の様子を確認すると何事も無かったように立つ。
「あれほどの実力差を見せられて、追撃が可能とは思いませんよ」
「大方、追撃を誘ってカウンター狙いって所だろうが。悪いな、俺達はお前に勝てると思っていない。全力で時間を稼ぐ事だけに集中させて貰う」
「たしかに、このままだと時間を稼ぐだけならできてしまいそうだな、個人の能力だけでは集団の力は見れない……か」
「このパーティーでずっと日々を生き抜いてきたんだ。パーティーとしての実力としぶとさに関しては積み上げてきた経験がある。」
「その自信は認めてやろう。だが、まさかこれで終わりとは思っていないな?」
突如、男から一切感じられなかった魔力が部屋全体に溢れる様に漏れ出す。
「やはり、今までは本気を出していなかったか……!」
「余り手の内を明かすことも魔力を消耗する事もしたくは無かったからな……、しかしこれ以上時間を稼がれる訳にもいかん」
男がそう言った次の瞬間、姿を消し一瞬でスフィアの背後へと回り込む。
「え?」
線の移動ではなく点から点への移動、転移だ。
「<炎獄掌>」
スフィアの振り向きに合わせて男は魔力のこもった掌打を加える。
「あ……が……っ」
「今度こそ一人目だ」
「スフィアっ!?」
直撃したスフィアの体が膝から崩れ落ちる。
ルイが男に槍を突き出すが空を切る。
「<獣撃脚>」
「なっ!?」
ルイは頭上に気配を感じたが、彼が上を向くよりも早く、男のカカト落としが彼の背に決まる。
「二人目だ」
男が立つ場所はルイに片足を乗せ地面ごとひび割れている。
「雑魚相手に消耗するわけにはいかないと思ったが、どうやらお前達は雑魚と言える程、弱くはないらしい」
「二人共っ!」
「クソっ!」
ラズがメイスを振るい、四方八方から魔法で責めるが男は全て魔力の放出だけで掻き消し、彼女が怯んだ隙に回り込む。
「さっきから背後を取り過ぎだ!」
グランは男が取る手段を先読みし、その予想を見事に的中させた。
だが……。
「実力を見誤っていた事は認めてやる。だが、所詮俺の力には遠く及んでいないのもまた事実だ」
男は更にもう一度転移を繰り返し、グランの攻撃を避けた後、二人まとめて斬撃を叩き込む。
「……っぐ、がああああっ!?」
「きゃあああ!?」
グランの即座に防御し、間に合ったのだが男の斬撃は防御ごと吹き飛ばし、グラン達を壁に叩き付けた。
衝撃でラズは気絶し、グランも大剣を持てなくなってしまう。
「魔力を……使い……始めた……だけで……これかよ」
「絶対的な力って奴は便利なものだろう?」
男は不敵に笑いながら言う。
「お前……魔族だろ……、だが……わからねえ」
「何がだ?」
「魔族を……見るのは初めてじゃない、でもここまで強いとは……聞いた事がねえ……お前、本当に何者なんだ?」
魔族は魔法の扱いが非常に長けており、身体能力も高い事は常識だ。が、それにしても強すぎる。
平均的にこのレベルな訳がない。
そして此処までの強さを持っていながらこのような男の情報を聞いた事も無いのもおかしい。
此処は魔族領に隣接している王国だ。情報が遮断されている訳でも無い為、何かしらの噂があっても良いものである。
「まあ、力を付け始めたのは最近だからな。魔族の連中が俺を認識しているとも思えない」
また、何も答えないと思った質問だったが、意外にもボソリと男はそんなことを呟いた。
「それは……? どういうこと……だ?」
「おっと、しまったな。これ以上は話すことも無い。さらばだ」
男は無理矢理話を切ると、グランに大剣を振るう。
「そうか、だが……、時間稼ぎは成功したみたいだぜ?」
男の大剣に黒い魔力の球体が当たり大剣が弾かれる。
「ギリギリセーフかしら?」
「本当にギリギリだが……、そうだな、全員ポーションも間に合うだろう」
男の足下に氷の矢が突き刺さる。
男が飛び退き、部屋の両側を見るとクーナとガレンが到着した所だった。
「ハハ、まさか同時に突破されているとは……作戦通りに事は運ばないものだな」
男は手を額に添え、参った様な仕草をする。
「良いだろう、こうなったら自棄だ。二人同時に相手をしてやる」
紫紺に光る瞳を輝かせながら、男は再度、黒と紫の入り交じった魔力を放出させるのだった。




