第5話 (2/4) 落ちこぼれからの脱却
僕達は事情聴取が終わった後、外に出ていた。
学園は一晩で元の姿へと戻っていて唖然とする。
『なるほど、建物の姿を記憶した魔法陣でもあるみたいですね。これなら材料さえ揃っていれば何度壊されても復元は簡単でしょう。どうやら古代より退化した物ばかりではないようです』
メザが隣でそんなことを言う。
「知ってはいたけれど実際に見るのは初めてだね」
「ええ、私もすぐに直せると聞いていたけれどあんな全壊状態からも一晩で戻せるのね」
「でも授業は流石にしばらくやれそうにないね、先生達も後処理に追われているみたいだし……」
「しばらくは自主鍛錬になりそうね」
そう言って授業が再開するまでの間、自主鍛錬に励む予定にしたのだったが……。
■
場所を移動して鍛錬場、そこで僕は魔法の試し打ちをしていた。
しかし――。
「どうして超級魔法が打てなくなっているんだ!?」
そう、超級魔法を打てなくなっていたのだ。
尚、上級魔法と中級魔法も打てなくなっていた。
『マスター……、だからあれほどお気を付けくださいと申したじゃないですか……』
メザが呆れた様に僕に苦言を呈してくる。
「どういう事なんだ!?」
『マスター、念のためにスキャンさせてください。――ああやはり、魔導回路が損傷しています』
「な、そこまで無茶な使い方はしていないぞ!?」
『そもそもの使い方が無茶すぎるんですよ……。無理矢理魔力を引き上げ、回路自体が体に馴染んでいない、ただでさえ魔導回路の負荷を上げているのに、その上で限界ギリギリの出力を出していたら壊れるのは当たり前ですね。確かにマスターの場合、普段から限界以上の出力を出していたみたいなので抑えているつもりだったのでしょうが……』
「まさか、また魔法が使えなくなるのか……?」
僕は不安になり、メザに問う。
『……マスターの場合、限界まで酷使しても大丈夫な様に回路を作り替えた方が良いかもしれませんね。今回の様に無理矢理強くなることはもうできなくなりますが将来的にはそちらの方が強くなれるでしょう』
「本当か!?」
『ええ、空間魔力を貸してください。船の内部までゲートを繋ぎます』
「わかっ「ちょっと待って」」
近くで鍛錬をしていたリアが話に割り込んできた。
「それって私にも同じ事ができる?」
『そうですね……1度スキャンしてみてもよろしいですか? ――なるほど現代人は皆、魔力回路が劣化している可能性が強そうですね……。』
メザはそんな事を言う。僕の時より対応が丁寧なのは気のせいだろうか?
『結論を申しますと可能です、損傷している訳では無いのでマスターと違い、劇的な成長速度になるわけではありませんが、ある程度の潜在能力を引き上げにはなるでしょう』
「それで十分よ、私にもお願い、そもそもフォルの職業は≪魔導騎士≫だったんでしょ?」
リアに僕が昨日、船の中で起きたことは全てあの倉庫下に居たときに話してある。
「通常通りに魔法が使えるだけでも強いのに≪魔法剣士≫より更に上位の職業だったなんて化け物よ。これ以上置いてかれる訳にはいかないわ。私も≪英雄≫を目指す者として……!!!」
その言い方だと私も化け物になるって言ってる様に感じるんだけど……。
『了解しました。それではサリアさんもご一緒に、マスターも顔を赤くしてないで早く行きますよ』
「べ、別に赤くなってないよ!」
リアはわざとらしく、頭に?を浮かべてこちらをニヤニヤしながら見ていた。
そうして僕達はメザの内部へと移動し魔導回路の調整を受けた。
初めて船の内部を見たリアは、その異質な空間に驚いていたがしばらくするとなれたようだった。
「そう言えば、メザの機能と結構破損しているんだよね? 機能を取り戻す手助けをして欲しいって言っていたけれど、具体的に何をすればいいんだい?」
そう僕が言うと
『覚えていてくれたのですね、色々あったので忘れてると思っていました』
そういう返事が返ってきた。
「君のおかげで大分助かってるからね、できるだけ早く協力したいよ」
『ありがとうございます。しかし、特に今の所は手がかりも無いので大丈夫です。その時が来たらお願いします』
「わかった」
「私も手伝うわよ」
『サリアさんもありがとうございます』
心なしか、その時のメザの声は嬉しそうに聞こえた。
■
回路の調整が終わり、今度は船の内部にあるトレーニングルームで試し打ちを始める。
僕はまた下級魔法しか使えなくなっていたがしばらくの間魔法を打ち続けていたら中級魔法までは使える様に戻すことができた。
『複合魔法を打つのはある程度慣れてからにしてください。魔導回路は調整し直しましたし、安定して使える様になれば問題ないですが、体に定着しきる前に無理に使えばまた壊れてしまう可能性があるので』
そうメザに注意され、打つ魔法も考えながら鍛錬に集中する。
リアはというと……、
「恐ろしいくらい魔力操作しやすくなったわね……」
元々≪バトルダンサー≫はその職業と本人の性質状、魔法も単純な威力より技巧に寄る。
どういう事かと言うと、魔法に込められる魔力を上げるより形を変えて鋭く勢いを付けて威力を上げる事を得意とする。
だが、その形状変化が前より明らかにスムーズなのだ。
『魔導回路は、込められる魔力は変わりませんが操作可能にする魔力量を引き上げるのでサリアさんと相性も良いはずですね』
「その……魔法回路と魔導回路だっけ?それって厳密には何が違うの?」
『そうですね?お二人とも魔法と魔術の違いについてはご存じですか?』
「ああ、魔法は体内にある魔力を使う技術、魔術は体外、自然に存在する魔素を利用した技術だろ」
『はい、その認識で大丈夫です。魔導というのはその両方を調整し扱う技術の総称となります。古代の技術のほとんどがこれを元に発展していました。今の時代でも魔導具などがあるので完全に失われた訳では無い様です』
「なるほど、魔力操作がし易いが威力の低い魔法と威力が低いが扱いづらく大規模になりやすい魔術のメリットを両方取ったのが魔導か」
『はい、正確には取ろうとする技術、両者を調整する技術ですね。マスター達に今回施した魔導回路は、魔力と魔素の調和をする機能がメインとなっています。魔力を魔法として顕現させる際、魔素の影響を受けてしまうのですがそこを極限まで調整して』
「あれって、そんな仕組みだったんだね……、古代の超技術だと思って何も考えずにスルーしてたよ」
『それはマスターの頭がポンコツ過ぎますね』
「あんな急な出来事だったら誰でも同じ結論出すと思うよ!?」
「くすくす、そうね、フォルの頭がポンコツだと思うわ」
「味方がいない!?」
いきなりとんでも技術が出てきたら思考放棄するのは普通だと思う。
……普通だよね?
『ちなみにマスターに施した前の回路はまた用途が違いますし、マスターの場合、元の魔法回路がほぼ機能していないボロボロの産業廃棄物状態だったのでほぼ0から作り直してます』
「君、僕に対する当たり強くない?」
『サリアさんの場合は原型そのままに機能を付け足すだけでしたので簡単でしたよ』
「あらそうだったの、ありがとね」
『いえいえ』
「……。」
明らかに僕とリアに対する態度が違う気がするんだが……侵入者だったからだろうか。
あれは誤解だったのだからそろそろ水に流して欲しいものだけれど。
そんなこんなで僕とリアの魔導回路の調整は終わり、鍛錬をして今日を終えるのだった。
[トピック]
メザの機能状態
修復率 32%……